10月17日にガザ地区で起きた病院爆発。イスラエルは「ハマスと共闘するパレスチナ武装組織『イスラム聖戦』の誤射」と主張。一方のハマスは、「イスラエル政府による大虐殺」であるとして互いに非難し合っている。
『ABEMAヒルズ』では、アメリカの政治・外交が専門の上智大学教授 前嶋和弘氏と共にバイデン大統領の「葛藤」に迫った。
情勢が目まぐるしく変わる中、アメリカ国内での見られ方について前嶋氏は「ついこの間まではハマスの攻撃に対して『イスラエルにとっての911』と非難が相次いでいたが、現在アメリカの3大ネットワークなどを見ていると『ガザに住んでいるパレスチナ人々にとっての911』とニュースのトーンが大きく変わった」と指摘した。
18日、イスラエルのネタニヤフ首相と会談したバイデン大統領はその後の会見で「アメリカはイスラエルとともにある」と立場を強調。
イスラエルに人道支援の実施に同意するよう要請し、イスラエル側が同意したことを明らかにした上で、ガザとヨルダン川西岸の人道支援のため、新たに1億ドル(約149億円)を拠出する方針を示した。
さらに、「イスラエルとパレスチナの人々が安全に尊厳をもって平和に暮らせる道は二国家解決策だ」として、イスラエルへの攻撃中止を呼び掛けるとともに、イスラエルに戦争法に従うよう強く要請した。
病院爆発で一般市民に大きな被害が出たことによってアメリカのシナリオは大きく変わったのではないか。バイデン大統領の“当初の狙い”について前嶋氏は「『テロの被害が深刻なイスラエルを支える』と示すことが一つ。もう一つはエジプト・ヨルダン・パレスチナ自治政府・アメリカの4カ国でパレスチナの人々の人権を守りながら人道回廊を作り、支援物資をいかに確保するか、こちらの方の話が病院の爆破で消えてしまった。これでは一方的にイスラエルに寄り添っただけになってしまい、今後、世界の反発がアメリカの方にも来る、という状況になってしまった」と見解を示した。
バイデン大統領がイスラエルを訪問する前には、ブリンケン国務長官が中東各国を訪問し、シャトル外交を行って地ならしをしていたが、果たしてそこにイスラエルの地上侵攻を止める狙いはあったのか?
前嶋氏は「微妙なところだ。イスラエルが地上軍を送り込む目的はハマスの撲滅であり、アメリカは、テロリストであるハマスの殲滅を認める立場。しかし、ガザにいるパレスチナの一般市民には罪はなく、被害を与えたくない。しかし、ハマスは社会福祉施設や難民キャンプを運営しており、ハマスを攻撃すれば一緒に居る一般市民にも大きな被害が出てしまうことになる。そのためアメリカは『ハマスの壊滅は認めるが一般の市民への被害はできるだけ少なくしてくれ』というメッセージを送っている」とアメリカの難しい立場を分析した。
親イスラエルを表明するほどアメリカへの批判が強まるリスクがある。“それでもなお、イスラエルを支援する理由”については「イスラエルの問題はアメリカの国内問題でもある。アメリカはキリスト教の国で、文化的なルーツはユダヤ・キリスト教にあると思っている人々が非常に多い。特に共和党支持層にはキリスト教福音派がいて、この人たちは熱心にイスラエルを支持している。イスラエルを支えていくのはアメリカしかない、という意識が常にあり、イスラエルはアメリカの軍事支援先のトップ3に入っている。これはずっとそうなので変わらないかもしれないが、アメリカのイメージも悪くなるかもしれず、イスラエルに対するテロだけでなく、今後はアメリカに対するテロが増える可能性もある」と指摘した。
アメリカが抱える安全保障の課題はイスラエルだけではない。ロシアとウクライナ、そして中国と台湾の問題も火種となっている。そこにパレスチナ問題が重くのしかかってきた。
前嶋氏は「これまでにもアメリカの安全保障は2つの側面までは対応してきたが、今回は3つ。加えて、世界各国へのテロ対策もある。結果として、台湾・対中国に割いていた予算を回すなど、日本としてもより自国の安全保障、あるいは台湾への支援の必要性が増すかもしれない」との見方を示した。
イスラエルのバックにはアメリカ、パレスチナのバックにはアラブ・イスラム、イラン、ロシアが存在する。「大きな対立軸」となる可能性について前嶋氏は「イランが今回どこまで関与しているかわからないが、今後イスラエルが残忍な形でパレスチナを攻撃すればイランも介入するかもしれない。ボタンを一つ間違えると深刻な事態になる」と懸念を示した。
(『ABEMAヒルズ』より)
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