「文字を思い出すことができない」 “書字障害(ディスグラフィア)”当事者の抱える生きづらさ 「理解されない不安、知ってほしい」
【映像】ゆめのさんが書いた(書き直した)文字
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 多くの人が特に意識することなく行っている「文字を書くこと」がうまくできない人たちがいる。都内に住む漫画家のゆめのさん(33)もその1人。読むことはできても、書くとなると形がわからなくなるという。

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「漢字を言ってもらって、私が書けるかどうかをやるとわかりやすいかなと」

 実際に『湖』を書いてもらうと、「みずうみは水っぽかったり、月っぽかったりする気がするけど…わからない。全然出てこない」と手が動かないゆめのさん。「字を読むことは好きで、パソコンの予測変換で出てくればわかるので使えるが、いざ書くとなると頭に出てこない。これかな?これかな?と変な字を書いてしまう」という。

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 ゆめのさんが抱えるのは「書字障害(ディスグラフィア)」。人の話を聞いて理解したり、文字を読む力に問題はないが、書く能力にのみ困難のある障害だ。原因はわかっておらず、日本人の約6%、40人のクラスなら2人いることになる。ゆめのさんは小学生の頃から「字を書けない」と親や学校に訴えてきたが、返ってきたのは「勉強が足りない」「努力しよう」という言葉だった。

 書字障害の生きづらさについて、『ABEMA Prime』でゆめのさんと専門家とともに考えた。

■当事者の生きづらさ「“書けない私”をどう隠すか」

 ゆめのさんの書字障害がわかったのは2年前。「発達障害の専門医のところに行き、ADHDとASDがあることがわかった。その頃に本などで勉強していく中で、書字障害があることも知った。“そういえば書字ですごく苦労していた”と思い、先生に相談して検査を行った結果、書字障害の傾向があることがわかった」と話す。

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 ゆめのさんは大人になった今も、書類や封筒の宛名などを書く時は下書きをする、役所などに提出する書類を間違えて二重線で修正することが多い、誰かに「漢字だとどう書くの?」と聞かれても大体答えられない、などの苦労があるという。

 また、ひらがなは書けるものの、速く書こうとすると間違えてしまうことも。「『ほ』と書かなきゃいけないのに『は』と書いて、すぐ間違いに気付くことが多い」。理解されないことへの不安から、実生活で明かすことはほぼないそうだ。

 そうしたつらさを子どもの頃に訴えることは困難だったのではないか。「学年が上がり、習う漢字が難しくなっていくほど、他の人との差が開いていく。作文などを書く時、例えば『友好的』という漢字が思い浮かばないので、『フレンドリー』にする。本当に表現したい単語ではないもので文章を成り立たせていたので、“私のレベルではこれしか書けない”というのがストレスだった。中学・高校で学校というシステムからドロップアウトしてしまい、アルバイトをしたりした。そこからは“書けない私”をどう隠すかみたいな」。

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 ADHD・ASDが発覚したことは親に伝えたそうだが、「あまり認めたくないという感じだった。そもそも発達障害という言葉も初めて聞いたと言っていて、“そんなことを気にする必要があるの?”と。ADHD・ASDでそれなので、書字障害のことは理解してもらえないと思い、面と向かって言ったことはない」と明かした。

 そんなゆめのさんの支えとなったのが、絵を描くこと。現在はネット上で漫画を連載し、書字障害をテーマにしたものも公開している。「きれいな字がササッと書けて当然、それが普通の人、みたいな常識がある。努力の問題ではなく、どうしてもそうなってしまう人がいるという認識がもう少し社会全体に広まってくれたら、生きやすくなるかなと感じている」と訴えた。

■「“勉強ができない児童・生徒”と解釈されてきたのではないか」

 NPO法人「LD・Dyslexiaセンター」理事長の宇野彰氏は、書字障害が認知されていない理由について次のように話す。

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「自閉スペクトラム症やADHDのような行動の派手さがあまりなく、教員にとっては“勉強ができない児童・生徒”と解釈されてきたのではないか。二十数年前から私たちは主張しているが、なかなかわかってもらえない。文科省や学会はそういう子どもがいることを知ってはいると思うが、向き合って対策を講じてこなかったことが、十分に理解が進まなかった大きな原因だと考えている」

 人によって程度の差があることも理解が進まない要因だとの見方を示す。

「ゆめのさんは漢字を中心に苦手だと言っていたが、急ぐ時にひらがなを誤るというのは、やはりそちらにも問題があるとみる。私たちは急いでもあまり間違えないからだ。いくつかの市で網羅的に、中学生にひらがな・カタカナ・漢字を書いてもらうテストをした。中学校の通常学級の中でひらがなが書けない、習得できていない子どもが、1つの市に数人いることが判明したりした。キーボードはひらがなの文字を想起してその場所を押すので、かな入力ができないという重い方までいる」

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 日本は、ひらがな・カタカナ・漢字と複合的に使うことも影響しているのか。

「漢字文化圏では書くことを重要視する。例えば、中国や台湾、韓国も元々はハンジャという漢字に似た字を使っていた。実は、書字障害の頻度を論文にしたのは日本だけだ。英語圏でも調べればものすごくたくさんいると思うが、タイピングの文化があり、書くこと・ハンドライティングをそれほど重視していないという違いもある」

 当事者が生きづらさを感じる中で、どのような支援ができるのか。

「テストや高校入試で、漢字でなくてもひらがなやカタカナで書いていれば減点しないという形での支援はされた。ただ、ひらがなが書けない場合については、具体的に聞いたことがない。それも、口頭で言えばOKという支援はあり得ると思う。こういう対応は“合理的な配慮”というが、障害者差別解消法という法律で国公立では義務となっていて、2024年4月からは私立も義務になる。今は過渡期で、まだあまり知らない学校もあるが、これはやらなくてはいけない配慮だ」

(『ABEMA Prime』より)

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