ここ数年、よく耳にする「毒親」という言葉。さまざまな言動で子どもに悪影響を及ぼす親のことだが、親ではなく“毒きょうだい”に悩まされる人も増加しているという。
絶縁したいと願う人もいれば、家族ゆえに関係は断ち切れないという人も。その向き合い方について、『ABEMA Prime』で当事者を交え考えた。
■兄から顔や体にアザができる日常的な暴力
「兄からの日常的な暴力。馬乗りになって殴られたりとか、首絞められたりとか」
りささん(19)は、1歳年上の兄に幼少期から暴力を受けてきた。「けんかの延長線だが、顔をグーでとか、腹とか、アザがめっちゃできていた。慣れたというか、それが普通だと思っていたけど、SNSに上げたら友達が『やばいね』『大丈夫?』みたいな。その時に、“ああ普通じゃないんだろうな”と思った」。
兄から逃げるように、高校卒業後すぐに一人暮らしを始めた。「キャバで働いていて、生計は結構きつい。兄の暴力癖はちっちゃい時からだから、なおらないんじゃないか。力で勝てないし、しょうがない」。
そんな兄をどう思っているのか。「縁を切ろうと思ったことはある。殴られた時は嫌いだし、うざいし、一生会いたくないと思うけど、今はなんとも思っていない。なれたら仲良くなりたい。そう思うのは多分、家族だからじゃないかな」。
■10歳上の兄から金の無心、絶縁も検討
「兄は借金がある。ギャンブルはするし、飲酒もするし、タバコも吸うし、車にも乗る。何かあった時に、嫁いだ家に迷惑がかかるのが嫌で、絶縁を検討した」
こう話すのは、医療現場で働くみほさん(37)。10歳上の兄からの金の無心に苦しめられてきた。「夜中に酔っぱらって電話がかかってきて、お金の催促。『(俺の借金は)お前が払うんだよ!』とずっと言われてきた」。
夫からの助言もあり絶縁は踏みとどまっていたが、9月に母が亡くなり、葬儀の場で数年ぶりに兄に再会。さらに驚くべきことを知る。「7年間、まったく仕事をしていなかった。アパートの経営をしていた母の家賃収入で兄は生計を立てていた。本当に不甲斐ない」。
兄は素行がよくなく、“助けてくれる人に依存するタイプ”だったそうだ。「私が住んでいる市が無料で行っている、どういうカウンセリングを受けられるかという相談室がある。母が亡くなった後、兄の様子があまりにもおかしいので、相談に行った。その時に泣いてしまったが、相談員の方が『あなたはしっかり自立して今の生活があるから、自分の幸せのことを考えなさい。お兄様には奥様がいるから、その問題をあなたが引き受ける必要は全くない』と言ってくれて、本当に胸から重い物が下りた気がした」。
母が亡くなって関係性に変化はあったのか。「“兄妹としてのつながりがまたひとつ減ってくれた”と思った部分は正直あった。母がすごく兄をかわいがっていて、仕事をしていないことも強く言っていなかったようだ。この先2人で処理しなければいけない家の問題もあるが、それが終わったらだんだん遠ざけていきたいと思っている」。
■“きょうだいは仲良く”は呪縛?助け合う義務はどこまで?
自身も3歳上の毒姉に苦悩し、当事者を取材した『ふがいないきょうだいに困ってる』の著者でもある吉田潮氏は、「姉は毒というよりは、ふがいないくらい。親に生活の基盤を完全に依存していて、働かない、金ない、貯蓄ない、年金を払わない、生命保険も入っていない。それで40代後半という状況で、まずいぞとお金を貸したこともあった。今はちゃんと働いているが、家族の中で責任感のある人が抱え込むようなシステムになっていると思う。“家族で助け合おう”“きょうだいは仲良く”という縛りや家族の呪縛があるのではないか」と分析。
著書の中では、トラブルを招く毒きょうだいについて、「実家から離れない」「金の無心をする」「暴言を吐く」「宗教にハマる」の4つに分類。ほかにも、暴力や性加害もあるとしている。「うちのように共通言語があるきょうだいもいれば、もう会話がないきょうだいもいる。この中には、本当にグラデーションがある」。
また、問題がより表面化する場面として、「自分たちが40、50代、親が70、80代になって、相続や介護など家の支度が押し寄せてきた時。本当は助け合いたいが、そこで毒のあるきょうだいだったりするとうまくいかず、“しっかりしてよ”と思う」とした。
では、きょうだいが助け合う義務はどこまであるのか。川口正広弁護士によると、兄弟関係解消や扶養義務を免れる「絶縁」という制度はないという。考えられる手段として、住民票の閲覧制限措置で住所を明かさず距離を置くこと、内容証明で「接触しないで」と意思表示することなどをあげている。
また、民法第877条で「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある」とされているものの、自己の扶養家族(夫・妻や子どもなど)が優先で、余力がない場合は助ける必要はないという。借金についても、きょうだいという理由で支払い義務が発生することはないそうだ。
吉田氏は、毒きょうだいで悩む人たちの共通点は「きょうだいだからわかり合えるのでは」と思っているところだと指摘。その幻想は捨てるべきで、「“縁を切ってもいい”と思えることが救いになる」としている。(『ABEMA Prime』より)
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