性別変更に“手術必要”は「違憲」の判断 残された「外観要件」の壁と社会における権利のぶつかり合いに解決の道は
【映像】戸籍上男性の女性弁護士 仲岡しゅん氏が語る「残された課題」
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 性別を変更するためには生殖能力をなくす手術が必要、とする特例法の規定について、最高裁判所大法廷が、「違憲」とする判断を示した。

【映像】戸籍上男性の女性弁護士 仲岡しゅん氏が語る「残された課題」

「これで性別変更を望む人は誰もが手術をせずに性別変更が可能になったと誤解する人もいるが、それは誤った認識」と指摘するのは、LGBTQなどの社会的マイノリティーに関する案件を多く扱っている弁護士の仲岡しゅん氏。

 今回の判断で何が変わり、何が変わらなかったのか?

 最高裁大法廷は、戸籍上男性として生まれて性同一性障害と診断された人が手術を受けずに性別を女性に変更するよう求めた申し立てについて審理し、生殖機能をなくす手術を求めるのは「違憲」とする判断を示した。決定では、手術要件は「手術を受けるか、性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫っている」「意に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害し、憲法13条に違反して無効」と指摘している。

 仲岡氏は今回の最高裁の判断について「結論から言うと妥当な判断だ。手術をできない方もいる。そういった方を救済する手段にはなった。一方で、この件に関連して様々な誤解や懸念が飛び交い、胸を痛めている当事者は多い」と述べた。

 そもそも「性同一性障害特例法」では、2人以上の医師から診断を受けることに加えて、性別変更に必要な以下の5つの要件を定めている。

「1.18歳以上」「2.現在結婚していない」「3.未成年の子どもがいない」「4.生殖不能要件(生殖機能をなくす)」「5.外観要件(変更後の性別の性器に似た外観)」

 この「生殖不能要件」と「外観要件」が、基本的に手術が必要な要件となる。

「生殖不能要件」は「違憲」の判断となったが、「外観要件」ついては二審が判断しておらず、高裁で審理を尽くすべきだとして、高裁に差し戻しとなった。

 この点について仲岡氏は「問題なのは今回の報道を受けて男性から女性になろうとした当事者の方が『性別変更ができた』と誤解するケースが多いことだ。正式には『外観要件』については差し戻されているため、今回の申立人の性別変更は認められなかった。誤解の要因の一つには、出生時の性別が男性で、女性として生活を送るトランス女性の場合には、「生殖不能要件」だけでなく、「外観要件」を満たすために手術が必要になるが、女性から男性への性別変更の場合は、基本的に「生殖不能要件」のみが懸案となり、「外観要件」が重要視されていない点にある」と説明した。

「これは男女の不平等に当たるのでは?」という問いには「そもそも、手術の方法が違う。『男性から女性』に性別変更する場合は、外に出ている男性器を切り、女性器の形に組み換える。ところが『女性から男性』に性別変更する場合は、女性器は中にあるのでそれを取ったところで外観はそれほど変わらない。そもそも性別適合手術の方法が“不均衡”なのだ。これまでは不均衡な手術の仕組みを同じ法律で解決していた歪んだ状態だったといえる」と解説した。

 性別を法的に変えるための手術には、心身の負担に加えて費用面など多くの苦悩がある。「手術まではしたくない」と考える人が多いのだろうか?

 仲岡氏は「実はこの問題は当事者の中でも意見が異なる。様々な負担から手術をしたくないという方もいる一方で、『たとえ戸籍が変えられなくても手術をしたい』という方もいる」と実情を語った。

性別変更に“手術必要”は「違憲」の判断 残された「外観要件」の壁と社会における権利のぶつかり合いに解決の道は
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 さらに今回、「生殖不能要件」だけでも「違憲」と判断されたことは、「自分の身体をどうするのかを自分で選ぶなど、生き方に選択肢が増えたという意味では大きな前進」と指摘した。

 一方、「外観要件」については、「公衆浴場やトイレなどにおいて、不安を感じる」として反対する声もある。社会の中で、「外観要件」を満たさなくとも性別変更を認めてほしい」という人々と、「不安だ」という人々との権利のぶつかり合いになってしまう可能性もあるのだ。

 日本よりも性別変更についての理解が進んでいるとされる海外ではどのような対応をしているのだろうか?

 これに対し仲岡氏は「一部の最高裁判事は『戸籍上の性別が変わることと浴場などの運用は異なる問題』と発言している。そもそも海外では公衆浴場といった文化は非常に珍しい。他方、日本は根付いているので、日本の風土や社会状況に照らした合理的な判断が必要だ」説明した。

 さらに「性同一性障害の方が傷つくことなく、より良く生きていくために必要なこと」について「お風呂に男性器をつけた人が入ってくる、性犯罪が多くなると言う意見もみられるが、多くの当事者はそういったことを言われること自体を嫌い、そういったことに触れられずにひっそりと生きたいと考えている。モンスター扱いではなく“一人の等身大の人間”として思いを巡らせていただきたい」と話した。

(『ABEMAヒルズ』より)

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