11月3日、熊本市で行われた外国人と市長の意見交換会を巡る報道が物議を醸している。大西一史市長は自身のXで「ニュース記事の表題を見て誤解をしている人もいるが、参加者からは治安が良く、人も親切で、生活に満足しているという意見が大半だった」と発信。「自分たちの国のルールに日本人が合わせろというような意見を言う人はお1人もいらっしゃいませんでしたので、その点は誤解しないでいただければと思います」と言及した。
発端は、集会の参加者から「宗教上の理由で豚肉を食べないが学校にはルールがある。子どものために肉のメインを持参することは可能かと聞いたらできないと言われた。なぜなのか」、「多くの文章や情報が和暦で、外国人には理解しにくい」などの声があがったことだった。
これらの意見が本来の趣旨と違う形で報じられるとネット上で「少数の外国人に大多数の日本人が従うのか」「わがままを言っているようにしか聞こえない」(Xへの投稿から)など多くの非難があがった。
外国籍の住民が約8700人と過去最多に達するなかで開催された『市長とドンドン語ろう!』で、実際は何が語られていたのか。外国人の意見をどこまで取り入れるべきなのか。『ABEMA Prime』では、集会に参加した当事者とともに考えた。
報道とは異なる意見交換会の発言と提案
ネパール出身で市長との意見交換会に参加したデブコタ・ハリ氏は、当日の雰囲気を「15人ほどで様々な国籍の方々に声を掛けていただいた。市役所の課長さんやメディアの方々と話ができて良かった。日本の住みやすいところ、良いところなどの話題があり、課題や難しさも話した。“ここが難しい”だけでなく、課題解決案を出して、良い意見交換になった」と述べた。
ネット上では批判の声もあがったが「夕方頃に出たニュース記事を見たらバズっていた。行政書類はどの国も難しい。年号や元号がわかりにくいという話題はあったが、西暦に変えてほしいという発言はなかった。外国人も母国でそれぞれの国のカレンダーを持っている人が多い。例えばネパールだと今は2080年の7月22日だ。なので、日本独自の年号があることを悪いとは思っていない。この点を理解していただきたい」と言及。
また、学校給食についても「豚肉が宗教的に食べられないイスラム教徒の参加者からは、月初に献立がもらえるので豚肉だけ抜いてもらい、自分の家からおかずを持たせたいと提案があった。自分の子どもが通う学校でもそのように対応している生徒がいる。学校側で何かしてほしいとか、イスラム教に合うハラール食を出してほしいという提案ではなかった」と説明した。
また、ハリ氏は年金や健康保険の通知書類の端にQRコードを付け、そこから多言語サイトに誘導する仕組みを提案したという。理由について「行政書類で保険や年金はとても大事な書類だが、書類を見ても自分に直接関係するのかよくわからない。書類自体を多言語にしてほしいという意見もあるけれど、行政が外国人か否かを判別するのは大変だ。日本語の一番下にQRコードを付ければ、そのサイトに飛べる」と述べた。
専門家から「日本は国際化に慣れていない」との指摘も
選挙など市民権に関わる制度設計が専門の白鳥浩教授(法政大学大学院公共政策研究科)は、「日本は国際化に慣れていない。オックスフォードで国際会議に参加した時、カレッジのバトラーが参加者に必ず聞く“何が食べられるのか”、“アレルギーはあるか”、“ベジタリアンの中でもヴィーガンなのか”、“ミルクは大丈夫なのか”などの細かいリストがあると聞いた。今は国際会議でそれらを全て聞くのが普通だ」と解説。
また、米国出身でお笑い芸人のパックンは「多分ネットで“郷に入っては郷に従え”とか“なぜ日本の文化を変えなくてはならないのか”と反発している人のほとんどは、ジーパンや洋服を身に付け、ピザやビールを飲んでいると思う。外国のものを私生活に取り入れて、豊かな社会を満喫している方も反発している」と主張した。
そのうえで「日本を無理やり変えようとしているわけではなく、あくまで提案。日本人が納得すれば取り入れていいし、そうでないなら断って構わない。それで暮らしにくいと思う外国人は日本で暮らさなくていい。ただ、いま日本は外国人の労働力にも頼っているし、円安で経済力だけで誘致することは難しくなっている。だったら暮らしやすい国も目指しても良いのではないか」との考えを示した。
制度にも問題? 外国人受け入れのあり方は
外国人を受け入れるメリットとしては【図】のとおり、労働力の確保や外国企業による経済的効果がある。一方、賃金の低下や雇用の競争・文化の衝突などのデメリットも指摘されている。
自民党デジタル社会推進本部事務局長の小林史明衆議院議員は「メディアの報道を、どう冷静に受け止めるかが課題。調べてみると、市民との対話集会は70回以上行われている。そのうちの2回、外国人材の方々と意見交換をしたことで“どこを向いているのか”と言われるのは違う」との見方を示した。
そのうえで「なぜ外国人の人たちに違和感を持ちやすいのか。根本的な問題は外国人の住まいやゴミの捨て方など、共生サービスの提供が全て自治体責任になっていることだ。外国人の子どもが日本語を学ぶための良い教育をできる自治体もあれば、全くノウハウのない自治体もある。書類に関しても、英語やポルトガル語に対応している街もあれば、対応していない街がある。同じ行政手続なのだから、日本全国同じ書類で何百種類の言語版を用意し、ホームページを1つ載せてあげれば、みんな暮らしやすいではないか。なぜ自治体に任せているのか。見直すタイミングが来た」と指摘した。
白鳥教授は「国際化が進み、例えば英国を見ると、もう白人の国ではなく、外国籍・外国出身の方がイギリスの顔になってきている。我々も受け入れ方を考えて国際化に慣れていく必要がある」と述べた。
ハリ氏は今後について「今、世界各国で外国人が増え、人の移動も増加している。日本人にとってのメリットは、各国の文化や食事・言語など、昔なら海外に行かないと学べなかったことを日本にいながら学べること。特に学生などの若者は、いずれ海外で働く人もいる。日本で暮らす時に外国人と活動をともにすることに、抵抗がなくなっていくのではないか」と語った。
そして、「外国人が増えて日本の文化が失われると思う方は多いが、彼らが日本文化を理解すれば世界に向けて発信できる。日本でも人口が減っていて、技能実習生や特定技能者がいる地域では、外国人が一緒にお祭りに参加し、街の方々が喜んでいるという話も聞く。ぜひ日本の文化を学び、発信する外国人が増えるメリットを理解してほしい。2030年に訪日外国人観光客が6000万人になると言われている。これにどう対応するかは大きな課題。多言語を喋れて様々なことができる外国人の活用は、日本社会にとってメリットになるのではないか」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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