新海誠監督の『すずめの戸締まり』や大河ドラマ『どうする家康』で注目を集めた若手俳優・原菜乃華が、テレビ朝日系連続ドラマ『泥濘の食卓』（土曜11:30）で尋常ならざるサイコ演技を披露中。視聴者を戦慄させるとともに、お茶の間の視線を釘づけにしている。
ドラマの原作は、2016年に『悪い夢だといいのにな』で第75回ちばてつや賞大賞に輝いた新進気鋭の漫画家・伊奈子による同名コミック。「パラサイト不倫」といういまだかつてないジャンルを誕生させた衝撃作だ。アルバイト先のスーパーの店長と不倫している深愛が、店長家族の中に入り込み、妻や息子の心にパラサイト。店長一家を泥濘へと引きずり込んでいく。
そんな本作で原が熱演しているのは、高校生の尾崎ちふゆ。幼馴染のハルキ（桜井海音）に対して異常なまでの執着心を見せており、ハルキを孤立させて自分だけのものにするために「レイプ魔」「家庭環境ヤバい」と噂を流す。バレンタインには自分の毛髪を大量に練りこんだチョコを渡し、ハルキから「好きな人がいる」と宣言されると、その女を見つけるためにクラスメート女子への罵詈雑言を書き込んだ分析ノートを作成して、恋のライバルをあぶりだそうとする。
第5話では、深愛（齊藤京子）に疑惑の目を向けたちふゆが、遂に直接対決。深愛の行動パターンを全て把握し、深愛の前に姿を現してフルスロットルでブチギレながら自己紹介をする。さらにハルキと深愛が密会している現場に乱入。「ああああああああああああやっぱろくでもない女だったじゃん！」と泣きわめきながら、「なに二人で喋ってんだ！消えろ！」とカッターナイフを無茶苦茶に振り回す。
このちふゆの狂気の土台を支えているのが、原のリミッターを外したかのような怪演。幼さの残るルックスからは想像もつかない修羅フェイスを突然出現させしたり、口元の片方だけをピクピクと上げたり、顔面変化の達者ぶりに驚かされる。ちふゆというキャラクターの性格を掴んだ発声も見事で、可愛らしい声を出した次の瞬間、ドスの効いた低音や鬼気迫る絶叫を轟かせたりして、高低差のコントロールが絶妙。異常な心理状況下で見せる泣きの芝居も見事で、「ちふゆは原の素なのではないか!?」という錯覚が生まれるほどだ。
喜劇王チャールズ・チャップリンの「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇」という言葉をなぞる様に、ちふゆの狂気はどこか滑稽。第5話のクライマックスでは、全身全霊でカッターナイフを振り回し、階段をダイナミックに転がり落ちる。凄まじい激情の発露は怖さを通り越してコメディの領域に突入する。それは原がちふゆを単なる怖い人だと表面的に捉えることなく、怖さが一周した先に見える喜劇性を捉えて表現しているからこそ。原の理解力と技量によって、ちふゆは唯一無二の印象的ヴィランになった。原菜乃華、現在二十歳。恐るべき大物の出現。『泥濘の食卓』完走を見届けたい。
