“初手・お茶”。将棋ファンなら誰もが知っている八冠王のルーティンだ。将棋の藤井聡太JT杯覇者(竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21)が11月19日、日本シリーズJTプロ公式戦の決勝戦で糸谷哲郎八段(35)を149手で破り、連覇を果たした。藤井JT杯覇者の先手番となった本局では、“初手・お茶”をキャンセルし一手指してからお茶を口にしたことが話題に。終局後の会見では、ルーティンを見送った理由について語った。
藤井JT杯覇者の連覇か、糸谷八段の初優勝か。大注目の中で行われた日本シリーズ決勝戦は、振り駒の結果、藤井JT杯覇者の先手番に決まった。2883人の観戦者が静まりかえる中で対局が始まったが、藤井JT杯覇者の“初手”は飛車先の歩を突く一手。棋譜上ではいつも通りの1手目ながら、藤井JT杯覇者のルーティンの“お茶”がない。本局では初手を指した後にコップに注がれたお茶を口にしたため、ABEMAの視聴者からは「お茶…じゃない!」「ええ」「初手お茶どうした」と戸惑いの声も上がっていた。
5年連続5度目の出場となった今期は、9月9日に行われた2回戦熊本大会から出場。今春、叡王戦五番勝負を戦った菅井竜也八段(31)との対戦となった。後手番の藤井JT杯覇者は、対局開始前にお茶を口にしたものの、着手の前に飲むことはなかった。さらに、4強入りした藤井JT杯覇者は10月21日の準決勝大阪大会で八冠をかけた王座戦五番勝負で壮絶な激闘を繰り広げた永瀬拓矢九段(31)と再戦。ここでは“初手お茶”のルーティンどころか、対局前に水を飲んだだけで超スピードへの序盤戦へと没入していた。
日本シリーズJTプロ公式戦は持ち時間は各10分、切れたら1手30秒未満、各5分の考慮時間と公式戦の中では最短の持ち時間とあり、いつも通りのルーティンでは大きく持ち時間を消費してしまう。連覇を達成した後の記者会見で、改めて“ルーティン破り”の理由を問われた藤井JT杯覇者は、「フフフ。普段の対局ですと初手にお茶を頂くことが多いんですけど、実は早指しの対局の場合は必ずそうしているというわけではなくて、時間が大事になるのでその時々でという感じです」と柔らかな笑顔。さらに、「今日のJT杯も非常に持ち時間が短い対局なので、一手指してからお茶を頂いて、時間を重視したというところはありました」と丁寧にその理由を説明していた。
過去には「何回かやっているうちに一番落ち着くなと思って続けています」と語っていた通り、すっかり名物ルーティンと化した“初手・お茶”ながら、八冠王にとってはマストではないようだ。時と所と場合に応じて自在に。しなやかな対応力も、多忙で過酷な日々を送る藤井JT杯覇者が飛躍を続けるカギなのかもしれない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)