開業医は儲けすぎ? 国民の医療費負担が減るって本当? 診療報酬の“マイナス改定”議論の行方
【映像】医師会は“マイナス改定”に猛反発?
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 財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)は、診療報酬の1パーセント程度の“マイナス改定”などを求める意見書を提出した。もし、診療報酬が下がれば私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか? テレビ朝日経済部の佐藤美妃記者に聞いた。

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━━そもそも、“診療報酬”とは何か?

私たちが診察・治療を受けたときに、医療機関に支払われる費用の総額。患者が窓口で支払う自己負担分に加え、保険料や税金が財源となっている。

━━この診療報酬を改定すると「価格」が変わるのか?

2023年度予算ベースで診療報酬の総額は約48兆円であり、その内訳は税金37%、保険料50%、患者負担14%となっている。診療報酬が1%変わると、税金は約1800億円、保険料は約2400億円、患者負担は約700億円変わる。一人当たりの保険料負担で見ると、年収500万円の人は、診療報酬が1%変われば年間5000円ほど負担が増減することになる。

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この診療報酬は国が決めていて、2年に1回見直すことになっている。来年度がその見直しの年にあたり、これから来年度予算の議論が本格化する中、来月後半ごろには「改定率」が決まる。

━━マイナス改定というと?

診療報酬を何%上げるか、あるいは下げるかという変更を「プラス改定」「マイナス改定」という。最近は診療報酬全体ではマイナス改定が続いていたが、これは薬や材料の価格である「薬価」がマイナス改定になっていたためで、技術やサービスへの対価にあたる「本体」と言われる部分はプラス改定が続いてきた。

━━今年の財政審では、どんな議論が行われたのか?

日本医師会などは「賃上げや物価高に対応するため、大幅なプラス改定が必要」だと主張してきた。「診療報酬は国が決めた“公定価格”で運営しているため、自分たちでは賃上げや物価高への価格転嫁=値上げができない」という理由だ。日本医師会はプラス改定の必要性を訴えるため、今月15日にはトップが官邸に赴き、岸田総理に直談判もしている。

だが、財政審がまとめた意見書は医師会の要望とは真逆の「診療所の報酬単価を5.5%程度引き下げるべき」というものだった。診療所は医療機関全体の2割程度なので、診療報酬全体にならすと「1%のマイナス改定」となる。

━━マイナス改定を行うと医療関係者の賃上げなどが難しくなると思われるが、どうしてこのような意見が出たのか?

まず、財政審のスタンスはこうだ。「プラス改定をすると、国全体が賃上げを進める中で現役世代の手取りが減ってしまう。それでも今、プラス改定しますか?」。

毎回、診療報酬の改定の際にはプラスにしたい医師会とマイナスにしたい財務省、医師会の支援を受ける政治家などの間で激しい綱引きが行われる。
今回、財務省は財政審の議論を前に、とある動きに出た。全国の財務局を使って、約2万件の医療法人の経営状況を調査したのだ。

公表されている2020年度分以降の診療所のデータを分析したところ、物価高などで「費用」も増えているが、それでも経常利益率は「3%から8.8%」に増加していることが判明した。また利益剰余金、いわゆる“内部留保”も増えていて、この剰余金の増加部分だけでも、看護師ら現場の医療従事者の給料を3%上げために必要な金額の14年分に当たるという。

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さらに、診療所では、1回の受診でかかる医療費がこの20年間、物価高を上回るペースで増えているというデータもあり、「これだけ利益が出ているのに、本当に賃上げや物価高に対応できないのか?」と指摘したのだ。

「これだけの規模の調査は初めて」というこの調査結果を“武器”に、財務省は「診療所の経常利益率(8.8%)を一般的な中小企業の経常利益率の平均程度(3%ぐらい)にしても賃上げはできるはず」という結論を導き出し、「診療所の報酬単価5.5%程度の引き下げ」という提言になった。

━━医師会は納得しているのか?

当然、猛反発している。日本医師会の松本吉郎会長は「全てに反論していたらキリがない」と話している。例えば、利益剰余金は大規模修繕などに充てるものであり、開業後しばらくはストックの資金がないため賃上げの原資に充てられない、賃上げには収入を上げるしかない、などと反論している。
東京都医師会の尾崎会長も、「コロナの3年間、私どもは遊んで儲けていたのではない」「褒めてあげなければ、人間は頑張ってやるって気持ちにはならない」と憤りを隠さない。

とはいえ、民間企業は「ため込んだ内部留保で賃上げをすべき」とはよく言われる話。また、財政審財政制度分科会の増田会長代理は、「医療機関には国民が負担する保険料収入、さらに、かなり多くの税金が入ってる」と指摘している。つまり、その積み上がった剰余金はそもそもどこからのお金? それを賃上げに使えないとはどういうことなのか? ということだ。

また、医師会側は、コロナ禍で診療報酬に上乗せされていた病床確保料など累計5兆円のいわゆるコロナ補助金が、平常化に伴い、なくなることを強調し、そんな中で、今後は新たな感染症に対応するための費用も必要だと訴えている。「診療所のコロナ禍の補助金などを除いた利益率は3.3%だ」との数字も示している。

━━今後この議論はどうなるのか?

年末に向けて、診療報酬改定に向けた議論が本格化する。
改定率が決まれば、具体的な制度設計の検討が始まり、ここには医師会や健康保険組合なども議論に加わって2月ごろには結論が出る。

20日の会見で、増田会長代理は「収益状態が良い診療所の収益を守るのか、勤労者の手取りを守るのか、国民的な議論をお願いしたい」と話した。
今回、財務省側は2万の医療機関の調査結果というデータをもとに「マイナス改定」を打ち出してきた。コロナ禍を乗り越えつつある今、「頑張った」「大変だ」といった感情論ではなく、客観的なデータに基づいた議論をしなければ、保険料を負担する国民の理解には繋がらない。
ABEMA/倍速ニュース 11月21日放送分より)

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