11月21日夜に起きた北朝鮮による軍事偵察衛星打ち上げを受け、韓国政府は2018年に南北で結んだ「軍事合意」の効力を一部停止し、軍事境界線付近での監視・偵察活動を再開させた。これに対し、北朝鮮の機関紙は「合意で中止した全軍事措置を即時復活させる」と発表。朝鮮半島の緊張が高まっている。
【映像】軍事境界線上で握手する当時の文在寅大統領と金正恩総書記(2018年)
今回の軍事偵察衛星の打ち上げは、11月22日から12月1日までに行うと事前に予告されていたが、実際に発射されたのは21日夜。なぜ「フライング発射」となったのか、北朝鮮側の思惑が注目されているが、元NHKソウル支局長でジャーナリストの池畑修平氏は「今回の発射で注目すべきは、北朝鮮ではなく韓国である」と発信。その意味と今後の動きについて、『ABEMA Prime』で聞いた。
■韓国“事前察知”の布石
19日の時点で韓国国防相が北朝鮮の打ち上げを予告し、20日に韓国軍が打ち上げをやめるよう警告していた。
池畑氏は「韓国側はアメリカと連携して情報を集め、北朝鮮のロケット発射場の動きをかなり正確に把握していた。米韓は“お前たちがやっていることは全部わかっているぞ”という圧力をまずかけたかったと思う。もう1つ、韓国側は軍事合意に対しての不満があり、何か機会があれば(不満を解消したい)というところで今回の打ち上げがあった。韓国側は警告しても打ち上げるとわかっていて、“事前に強く警告していたにも関わらず北朝鮮は打った、自分たちが合意を止めるのは正当だ”という布石はあったと思う」と分析する。
北朝鮮の衛星打ち上げは、今年5月はエンジン異常で、8月は非常爆発システムの誤作動でそれぞれ失敗している。9月には、金正恩総書記がロシアを訪問し、宇宙基地視察で技術協力を受けたという見方もある。
今回の打ち上げの狙いについて池畑氏は、「技術力を見せたい。衛星の偵察能力と弾道ミサイルの能力を示すということで、一石二鳥ではある。ただ、衛星が成功したとして、その偵察能力、地上画像の解析能力はあまり高くないという見方が一般的だ。その実よりも、“自分たちも偵察衛星を打ち上げられた。NASAに近づいた”という、象徴的な意味合いが国内では大きいと思う。発射成功の宴会みたいなところで、みんな“NATA”と書かれたTシャツを着ていた。アメリカに負けないくらいのところまで来ていると、夢を抱かせたいという思いが出ている」とした。
■北朝鮮“南朝鮮→大韓民国”呼びの意図は
北朝鮮は7月から、韓国をそれまでの「南朝鮮」ではなく「大韓民国」と呼び始めている。池畑氏は、「北朝鮮は、あくまで朝鮮半島は全て自分たちが支配するべきものだと、韓国のことを“南朝鮮”あるいは“傀儡”と呼んだりしていた。それが突然、金与正氏が声明で“大韓民国”と言い始めた。“いつかは統一を果たすべき同じ民族”という仲間意識を完全に捨てて、“自分たちは別々にやっていく”というある種の決別宣言にも聞こえる」と述べる。
ジャーナリストの堀潤氏は「韓国へ取材に行った時、タクシーの運転手さんに緊張と融和のどちらがいいか聞いたら、“日本の方はそう簡単に言うが、私たちは親族が向こうにいたりする。そんな簡単に戦争や緊張を望んだりするわけがない”と話されていた。韓国の尹政権は、今回のリスクをどれだけ折り込んでビジョンを描いているのかが心配だ」とコメント。
池畑氏は「韓国は保守派と進歩派の対立が激しい。前政権を全否定することもあるが、北朝鮮への態度も同じで強行に出ていくことはあると思う。北朝鮮側から見ると、自分たちに優しい進歩派のほうがうれしいわけだが、歴史を見ると、だいたい韓国が保守政権の時に激しい軍事衝突が起きている。今の方向性はやや心配ではある」と懸念を示した。
また、「北朝鮮は今後さらに打ち上げると言っているし、韓国の中ではその度に強い措置を出すべきだという声が出ている。軍事境界線沿いで、巨大なスピーカーを北朝鮮に向けて“いかに韓国が優れているか”という宣伝放送を昔やっていたが、それを再開すべきだという声も出ている。先ほど言ったように若い世代が韓国ドラマなどを見ているので、北朝鮮はそれを一番嫌がる」とした。
■台湾有事に朝鮮半島有事をぶつけてくる?
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「北朝鮮が今後、衛星に核を載せたという時に、それが本当なのか誰もわからない。アフリカのどこかの国と軍事協定を結んだとして、この国を攻撃したら北朝鮮が言っている核が落ちてくるかもしれない、という可能性もゼロではない。そういう意味で、軍事オプションや交渉オプションになると思う。アメリカやフランスなどの西欧諸国が今、北朝鮮を攻撃する余力はないので、やりたい放題。けっこう独壇場になると思っている」との見方を示す。
池畑氏が考える最悪の事態は、台湾有事に連動して北朝鮮が大きな挑発に出ること。「この2つの有事が同時に起きるのは考えたくないが、アメリカ軍などは当然そういうシナリオを含めて検討している。台湾に駆けつける兵力を朝鮮半島に割かざるを得なくするために北朝鮮が何か衝突を起こす、などいろいろ考えられているわけだ。沖縄からアメリカ軍が出動するので、必然的に日本も巻き込まれてしまう」と説明。
日本政府はそれを現実的に想定しているのか。「ここ数年、本州や北海道に置いていた自衛隊の能力を、南西諸島、特に沖縄を中心とする南西シフトが進んでいる。現実問題としてそういう有事があり得るからだ。もう1つ、そうした姿勢は当然中国にも示していて、“妙な気は起こすな”“日本は今備えている”というメッセージでもあるが、その抑止がどれだけ伝わっているかだ」とした。(『ABEMA Prime』より)
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