「満面の笑みで5分間のシートノック」…“幻の甲子園”が開幕 元高校球児たちの“3年間”と“今”に迫る【あの夏を取り戻せ】
【映像】佐久長聖OB「あの三振を取り返す」
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 新型コロナの影響で中止になった夏の甲子園を今度こそ。元高校球児たちによる野球大会が11月29日に開幕した。過去に区切りをつけ未来への一歩を踏み出す、若者たちの熱い想いを取材した。

【映像】佐久長聖OB「あの三振を取り返す」

 ファンファーレが響き渡る、聖地・甲子園。行進するのは、新型コロナによって「最後の夏」を奪われた元高校球児たちだ。11月29日、兵庫県の阪神甲子園球場で、「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児野球大会2020-2023」が開幕した。

 戦後初めて夏の甲子園が中止となった2020年に高校球児だった学生らが中心となり、プロジェクトを立ち上げた。2020年に各都道府県で行われた「独自大会」を優勝した高校など、全国から42チーム、約700人が参加した。

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「一投一打に思いをこめて、正々堂々最後まで戦い抜くことを誓います」(聖隷クリストファー高校OB・大橋琉也さん)

 試合前には、参加した全チームが5分間のシートノックを行い、選手一人一人が聖地の土を踏みしめた。甲子園で開幕戦を行う長野県の強豪、佐久長聖高校のOBチーム。彼らにも”あの夏”にかける思いがあった。

「夜行バスで8時間くらいかけて行ったのがすごく記憶に残っていて、そういう舞台で自分たちも活躍したいと感じたのを覚えている」(佐久長聖高校OB・蛭田魁人さん、以下同)

 現在は東海大学3年の蛭田魁人さん(21)もまた、未知のウイルスによってあの夏を奪われた一人だ。甲子園に行きたい、そんな思いで長野県の高校へ越境入学した高校1年の夏、先輩たちが甲子園に出たことでより強い思いになった。

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「『先輩達かっこいいな』というのと、『俺もベンチに入りたいな』と思っていた」

 しかし最後の夏の大会直前、2020年5月20日に、夏の甲子園の中止が決定した。

「やっぱり甲子園というあったものがなくなることが、すごく悲しい。しかも自分たちの代に」

 現在、大学に通いながら中学生に野球を指導している蛭田さんは、「教え子たちに甲子園に出る姿を見せたい」と意気込み、「選手としてそのグラウンドの土を踏んでみて、何か感じたことを伝えてあげられたら説得力もあるだろうし、自分が目標になればいいかなと思う」と話す。

 あれから3年。元球児たちが甲子園に登場。この日を待っていたのは選手だけではない。

「こういう機会を与えてもらい本当に感謝している。自分たちの力で勝ち取った代替大会優勝ということで、手を抜かずにやっていった結果でこういうご褒美をもらえたのかな」(蛭田さんの父・伸一郎さん)

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 そして午後1時、「あの夏を取り戻せ」の開幕試合、愛媛県の松山聖陵高校OBチームとの一戦。あの夏が始まった。

 1回表を無失点で抑えた佐久長聖はその裏、打席には当時キャプテンだった3番の藤原太郎選手が立った。2018年の夏の甲子園、1年生で唯一打席を経験している。

「代打で三球三振した。自分の力不足を感じたり、甲子園に行きたいという思いで3年間やっていた。あの三振を取り返すために全球HR狙うつもりでフルスイングしていきたい」(佐久長聖高校OB・藤原太郎さん)

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「いけー!いけー!」「ちょっと感動した。一番本人が喜んでいると思う」(藤原さんの父・康成さん)

 5年越しとなる聖地での初安打を打った藤原さんは、「一打席にすべての思いを込めて。5年前の自分と比べたら少しは成長できたかな」と話す。

 5回の守りにつく佐久長聖、サードは蛭田さん。父・伸一郎さんも食い入るように見つめる中、サードへのファールフライをキャッチした。両親の目の前でファインプレーを見せることができた。

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「最後にいいプレーができてよかった」(蛭田さんの父・伸一郎さん)

 そして最終回。試合は1対1の引き分けで終えた。夢の時間はあっという間だったが、それでも元球児たちの胸には確かなものが残ったようだ。

「甲子園球場っていうのはそう簡単に入れる場所じゃないので、そういうところで野球ができたというのは、これからの野球人生においても財産になると思う。しっかり自分の頭に記憶したい」(藤原さん)

「すごく楽しかった。甲子園の舞台を走れたのはすごくいい経験になった。“あの夏”を取り戻せたと思う」(蛭田さん)

 「あの夏を取り戻せ」の発起人、大武優斗さんは、自身も甲子園を目指していた元高校球児で、約1年半かけてこのプロジェクトを実現させた。

「小学校のときから目指し続けてきた甲子園が突然奪い去られたあの日以来、僕は『なんで自分たちは不幸な世代なんだろう』と思い続けてきた」「甲子園は高校まではずっと目指してきた場所、夢だった。あのときの悔しさが、今誰かのきっかけに変わったんじゃないかと思う」(大武さん)

 夏の甲子園大会中止から3年が経ち、野球を続ける者、別の道に進む者とそれぞれ歩んできた。しかし今だけは、甲子園を目指し、白球を追いかけたあのころのように戻る。

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「めちゃめちゃ気持ちよかった」(佐久長聖・小林禅さん)
「ヘッドスライディングした」(松山聖陵・金城善太さん)
「一つ吹っ切れた。払拭することができた」(クラーク・野坂さん)
「甲子園サイコー!」(佐久・松山OBたち)

 「あの夏を取り戻せ」は12月1日までの3日間、兵庫県内各地の球場で、全チームが交流試合を行う。過去に区切りをつけ、未来に向かって進みだす元高校球児たち。

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「本当に幸せな時間だったなと思うし、次に向けて未来を変える、そんな強い絆を得られた日になったんじゃないかと思う。夢を語って実現するというのを少しでも同世代の方に見せることができたと思うので、本当は今夢を持っているけど言えないような人たちが、自分たちのプロジェクトを見て夢を語って、多くの方を巻き込んで進んでいってほしい」(大武さん)

(『ABEMAヒルズ』より)

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