1200年以上の歴史を持つ、岩手県·奥州市の黒石寺に伝わる“蘇民祭”。日本三大奇祭の一つと言われる理由になっている、五穀豊穣や疫病退散などを願い行われる男衆による麻袋の争奪戦では、雪の降る中、男参加者たちがふんどし一丁で本堂から降りていく。この熱気を感じるために県外から足を運ぶ人も少なくない。一時はコロナ禍で開催を自粛していたが、2023年1月、3年ぶりの復活を果たした。しかし、今月、黒石寺が来年2月の開催を最後に、祭りの歴史に幕を下ろすことを発表。今後は儀式などの信仰のみ継続していくという。
長く愛された祭りに惜しむ声があがっているが、なぜこのような決断に至ったのか。『ABEMA Prime』で、黒石寺の住職に話を聞いた。
■蘇民祭とは?「自分自身が生まれ変わるようなお祭り」
マツリテーターとして全国100以上の祭りに参加してきたマツリズム代表理事の大原学氏は、蘇民祭に2015年から5年間参加している。蘇民祭について「お祭りで使っている角灯、これを持って“ジャッソウー、ジャッソウー”と言いながらやる。異様で非日常だが、自分が願っていることを叶えるお祭りだ」と話す。
参加するには「1週間かけて、肉、魚、ニラ、卵、ニンニクといったものを断ち、自分自身を清めてから」と事前準備が必要だという。当日については「2月の岩手で、マイナス10度の極寒の中で水と煙を浴び、自分を清めると、男性の闘争本能が目覚め始める。最終的に蘇民袋を争奪して、取った人が取り主で1位になる。200~300人の男と戦いながら、最後までやりきることは、自分自身が生まれ変わるような経験」と振り返る。
なぜ参加したいと思うのか。大原氏は「お祭りから帰ってくると最後に焼肉をたべるのだが、そうするとエネルギーが満ち満ちて、また日常を頑張ろうとなる。こんなに気持ちを高めてくれるようなお祭りはない。願わくば、体が健康のうちは行きたいと思っていた」と来年以降の中止を惜しんだ。
■黒石寺·蘇民祭の意義 「大事にしないといけないのは“形”ではない」
妙見山黒石寺の藤波大吾住職は、中止を発表した背景に「人手不足、高齢化、担い手不足がある。僧侶は私ともう1人でやっていて、人数はずっと少ない」と理由をあげ、「黒石寺の蘇民祭は、地域おこしのためではなく、信仰のお祭り。お寺にお参りしたり、誰かのために手を合わせるのが原点で、本当に守らなければいけないのはそこだ。蘇民祭は一つの形であって、なんとしてもお祭りを続けたいわけではない」と述べる。
また、「蘇民祭は黒石寺だけではなく、岩手県や全国いろんなところにある。別の場所でお祭りを残していくのは価値のあることだと思う」とした上で、「実は裏で細かい儀式がたくさんあり、役割などが地域の人や家ごとに代々決まっている。蘇民祭を続けるために、外の人に入ってもらうのか、譲らずに黒石寺·蘇民祭としては終わりにするのか。私は“人”という核の部分は変えない」と決意は固い。
これに大原氏は「藤波さんが決断されて、こうやって認知されるのはかなり稀なケースだ。ひっそりなくなっていくお祭りが大半で、今回はある意味で、祭りそのものを考える問題提起だと思っている。もちろんその地域の方が決めていくことなので、何か方法があれば残っていくし、どうしても復活させたい人たちが生まれてくるだろう。そういうときのためにゼロイチで考えずに、いろんな人たちが関われる仕組みは持っておいたら、日本人として幸せになれるんじゃないか」との見方を示した。
藤波氏は「多くの地域の皆さんから蘇民祭を続けてほしい、こういう形ならできるんじゃないかという、ありがたいお言葉をいただいている。しかし、お寺として大事にしないといけない部分がある。“もう大変だから、お祭りはやめよう”と全員が納得しているものではなく、“お寺としてここは守りたい。だからごめんなさい”ということだ」と改めて語った。(『ABEMA Prime』より)
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