日本で交通事故を起こし禁錮3年の判決を受けていた米兵がアメリカに移送され、釈放されたことに日米で賛否の声が上がっている。
「家にいるのは素晴らしいことで、子どもたちを学校に連れて行ったり、朝食を作ってあげたり、息子にサーフィンを教えたりすることは本当に楽しいです」(米海軍所属 リッジ・アルコニス受刑者)
CNNの取材に対し、家族と過ごす日常の喜びを語る男性。3年前、静岡県富士宮市で2人が死亡する事故を起こし、日本で実刑判決を受けたアメリカ海軍所属の男性受刑者だ。
事故が起きたのは2021年5月、蕎麦店の駐車場に男性受刑者が運転する車が突っ込み2人死亡1人けがを負った。
裁判で男性受刑者側は「直前に富士山を訪れ高山病にかかっていた。過失ではなく病気による事故だ」として無罪を主張していたが、判決では居眠り運転があったとして禁錮3年の実刑判決を受け収監された。
これに対しアメリカでは、超党派議員が「不当な拘束」だとしてバイデン大統領と岸田総理に身柄の引き渡しを求めていた。
CNNによると去年12月、この受刑者がアメリカに引き渡され、年が明けた1月12日には釈放が認められたという。これをアメリカでは「GREAT NEWS」として報じ、上院議員の1人は「日本は家族とアメリカに謝罪すべきだ」と主張している。
15日、林官房長官は会見にて「他国議員の個別の発言についてのお答えは差し控えさせていただきたい。いずれにいたしましても(引き渡しは)法に基づいて適切に対応されているものと承知をしている」と発言。
日米地位協定では、日本でアメリカ兵が公務外で罪を犯した場合、日本の法律が適用される取り決めとなっている。そんな中での移送と釈放にSNSでは「納得できない」という声が相次いでいる。
今回の受刑者の引き渡しは、果たして妥当だったのか?国際刑事司法に詳しい立命館大学の越智萌准教授に聞いた。
▪️専門家「受刑者移送は条約に基づき妥当」
越智准教授は「日本と米国は受刑者移送条約の締約国であり国際的な枠組みとしてはこの条約が使われたと思われる。受刑者の円滑な社会復帰がメインの目的であり、受刑者が釈放後に一番社会に戻りやすい場所で服役させる趣旨から考えると家族もいる米国に移送されたことは妥当だ」と説明。
条約の観点からいえば妥当とはいえ、移送されていなければまだ刑期は残っていた今回のケース。だがこれも「制度に則った判断ではないか」と越智准教授は説明する。
「『刑の執行を継続する方法』と『刑を転換する方法』の2種類があるがアメリカは後者を選択している。今回のケースでは日本で認定された過失致死は変えずに、カリフォルニア州の刑法の場合どれくらいの罪に当たるか審査して刑を新たに執行した形だ。同じ過失致死だとカリフォルニア州の刑法では最大禁錮16カ月、今回日本では既に17カ月以上拘束されていたため、カリフォルニア州での法定刑はすべて日本で服役したと判断されたのではないか」
一方で、日本人が海外で犯罪を行った場合でも、条約を結んでいる国であれば今回の逆のパターンも起こり得るという。
「服役には人を罰するという目的も古くから根底にはあるとしても、現在の主な目標はやはり社会復帰をさせる矯正だ。そのため、今回のような議論が生じた際に『制度自体がない方がいい』といった極端な考えには飛びつかないほうがいい。制度自体が作られてきた趣旨がもう少し広く伝わってくれたらいい」
▪️見つめるべきは「メディアの道義的な問題」
この出来事に対し、ノンフィクションライターの石戸諭氏は「法的な問題はないようだが、メディアの道義的な問題は残る」と指摘。
「やはり日本人の心情としては2人が亡くなる事故を起こして『GREAT NEWS』ではないだろう。自分だけ良ければそれでいいのか、と見えてしまう。もし、日本人が逆の立場になったとしても冤罪でもない限り、メディアが祝うようなことはまずない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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