“世界最高峰の格闘技イベント”ONE Championshipの約4年ぶりとなる日本大会=1月28日(日)東京・有明アリーナ「ONE 165: Superlek vs. Takeru」。今大会ではMMA戦績8戦8勝の山北渓人がボカン・マスンヤネと対戦する。
「今ONEで日本人が勝てなくなっている。選手はたくさんいるけど、ONEでトップを目指すことは難しい。今の日本にグッドファイターはいるけど、ベストファイターはいないんだ」。約4年ぶりのONE日本大会が発表された際にONEのチャトリ・シットヨートンCEOにインタビューした時の言葉だ。
確かに現在のONEのチャンピオンに日本人の名はなく、MMA・キックの両ルールで日本人の苦戦が続いているが、その状況を打破する可能性を持っているのが山北だ。山北は専修大学出身のレスリングエリートで、2020年2月にパンクラスでプロデビュー。2022年7月にストロー級キング・オブ・パンクラス王座を獲得すると、無敗のままONEの舞台へ。
ONEデビュー戦となった3月のONE Fight Night 8では元ONEストロー級世界王者アレックス・シウバとのマッチアップとなったが、抜群のレスリング・スクランブル力でシウバを攻略して金星を挙げた。この一戦を山北は「自分のスタイルだったら海外でも戦っていけると思った」と振り返る。
「シウバ選手は元王者&柔術黒帯で、自分の組み技がどこまで通用するだろうかと思っていたんですけど、上手いこと自分の動きがハマったし、シウバ選手も動く選手だったので見ていて面白い試合ができたなと思います。僕は参戦する前からずっとONEを見ていて、シウバ選手は好きな選手で、ずっとカッコいいなと思っていたんです。僕はアレックス・シウバ=レジェンドだと思っているので、その選手に勝てたことは自信にもなるし、ONEのマッチメイカーにもいい印象を与えられたと思います。
僕はレスリングベースで柔術もできるというスタイルだと思うんですけど、打撃さえしっかり見えていれば、自分の思い通りのスタイルで海外でも戦っていけると思いました。僕は毎回相手の試合映像を見る方なんですけど、相手に得意技があったらその対策をやるぐらいで、基本的に自分がやることを変えないんですよ。だから自分はまだ伸びしろがある方だと思うので、そこをしっかり伸ばすように練習しています」
ハイドレーションテストがある=水抜き禁止のストロー級が存在するONEは、山北のような軽量級の選手たちにとって世界で戦うことが出来る数少ない舞台だ。MMAを始めた頃は将来的にフライ級への階級アップを視野に入れていた山北だったが、ONEにストロー級があることを知り、ONEのストロー級で世界王者になるという目標が出来たという。
「僕がMMAを始めた頃はまずストロー級でデビューしてベルトを獲って、世界で戦うためにはフライ級に上げなきゃいけないと思っていたんです。でもONEを見るようになって、ONEのストロー級が世界最高峰だと思ったので、自分もONEのベルトを目指そうと。実際に今その舞台で戦えていることでいい流れだと思います。ONEストロー級という目指す場所があるからこそ、ここまで頑張ってこれたし、現チャンピオンのジャレッド・ブルックスはUFCでも勝っている選手なので、このベルトを目指して間違っていなかったと思います」
シウバ戦から約10カ月、山北のONE2戦目はONE日本大会に決まった。対戦相手はランキング2位のボカン・マスンヤネ。南アフリカ出身選手らしい身体能力の高さを誇るファイターだ。マスンヤネと似たタイプのスパーリングパートナーを探すことが難しく、実際の試合でもマスンヤネは思い切ったことを仕掛けてくるため、試合のイメージや対策を立てづらいタイプだ。そんな難敵を前にしても山北は「自分がやってきた格闘技が誰にでも通用することを証明する」と力強く言い切った。
「次はランカーじゃなくてもいいかなと思っていたんですけど、ランカー、しかも2位のマスンヤネ選手を当ててくれてうれしいですね。実際にやりたかった選手で、自分とは噛み合うというか、やっていて楽しそうな選手なんです。ずっとやりたかった相手と地元日本のビッグイベントで戦えることは最高です。
自分の勝ちパターンとして、最初に組んだ感じでなんとなくいけるなとかヤバいなというのが分かるので、最初にマスンヤネ選手と組んだ時にどう思うかですね。当然、アフリカの選手と試合するのも初めてですし、他にあんな動きをする人はいない。だからこそ楽しみというか、自分がやってきた格闘技が誰にでも通用することを証明したいし、試してみたいです」
元王者のシウバに続いて、ランキング2位のマスンヤネに勝利すれば、自ずとタイトル挑戦が見えてくる。山北も「シウバ戦で自分のいいところは見せられたと思う。今回、次につながるとしたらタイトルやそれに近いところになると思うので、しっかりONE側にもファンの皆さんにも自分をアピールして、タイトル戦までつなげたい」とそのつもりだ。
ONEの世界王者は高い頂ではあるが、ストロー級に関しては内藤のび太、猿田洋祐と2人の日本人がベルトを巻いているだけに、山北は「ストロー級は日本人がベルトを獲れる階級で、それが証明されている。だから次そこを獲るのは自分しかいないと思っている。手の届く位置にあるものだから、確実にベルトを獲りに行きたい」と明確にONEのベルトを見据える。
決してビッグマウスではなく、実力と実績に裏打ちされた言葉で山北はONEのベルトを狙っている。日本人MMAファイターが反撃の狼煙を上げる時が来た。
文/中村拓己