“世界最高峰の格闘技イベント”ONE Championshipの約4年ぶりとなる日本大会=1月28日(日)東京・有明アリーナ「ONE 165: Superlek vs. Takeru」。今大会では唯一の日本人対決として、平田樹VS三浦彩佳の女子アトム級MMAの一戦が組まれている。
前回2019年10月のONE両国大会に続いて、2度目のONE日本大会出場となる平田。ABEMAの格闘ドキュメント番組「格闘代理戦争」を経て、ONEでプロデビューしている平田にとっては、海外で戦うことが当たり前で、日本での試合や日本人対決の方が少ない。ある意味、日本で戦うことは特別だ。
「日本大会は応援に来てくれる人がたくさんいてうれしいというのはありますけど、私の場合はONEがステップワンなので、海外と日本の違いについて質問されると、逆に日本で試合する方が知らないことがたくさんあるんです。事前に記者会見があって、試合前に対戦相手と顔を合わせるのも不思議な感じでした。(前回の日本大会に出た時との違いは?)注目されるようになったこともそうだし、私はONEで戦う=平田樹みたいなところもあると思っているので、そこが自分の中では一番変わったかなと思います」
そのキャリア同様、平田は「日本人相手に経験を積んで海外勢と戦う」ではなく「デビュー当初から海外勢としのぎを削る」道を歩んできた。直近の試合となった昨年3月のONE Fight Night 8ではUFCでも戦った元RIZIN王者のハム・ソヒに挑み、そして敗れた。あの一戦で平田は何を感じたのか。それはキャリアを積んだファイターの覚悟だ。
「前回の試合は最後のラウンドは調子が出て良かったと思うんですけど、それを最初からやる勇気がなかったというのが一番ですね。次の試合までにその勇気の壁を突破することが自分の中の目標でもあるし、やる勇気・やられても行く勇気や覚悟がないとダメだということも感じました。次の試合はそこで一歩でも踏み出せれば成長かなと思っています。
(ソヒは)やっぱり試合の持ち込み方や試合までの流れだったり、全部が全部ベテランだなというのを凄く感じて、そういう部分でも圧倒的にならないとこれからの勝ちはないなと思いました。みんな練習もコンディショニングも必死にやっていると思うんですけど、それを一発勝負の試合で出せるかどうか。それが自分にはなくて、ベテラン選手にはある。いくら練習やスパーリングをやりきったとしても、それを試合で出せなかったら意味がないし、練習でやってきたことを試合で出せる=覚悟が違うんだと思います」
対戦相手の三浦はストロー級=平田が戦うアトム級よりも一階級上で戦っていたこともあり、平田は「対戦相手として考えたことはなかった」という。三浦と言えば首投げからの袈裟固め&アームロックの通称“あやかロック”という必殺技で勝利を量産しているが、平田は一つの武器ではなく総合力で勝負すると話した。
「私も三浦選手と同じで柔道がバックボーンなので、いざそう(あやかロックの形に)なったら何をやられているのか分かると思うし、逃げ方も分かるかもしれない。実際にそこを対策して勝っている選手もいるわけなので、別に困るところじゃないかなっていう感じです。
もともと私もMMAを始めた頃はあんな感じだったんです。デビュー戦の頃は投げて袈裟固めで抑えて、みたいな。でも私はMMAをやるんだったら、柔道技だけじゃなくて、ちゃんとMMAが出来る選手になりたいし、MMA=総合格闘技だからこそ、打撃・組み・寝技が全部出来るようになりたいと思ってやっています。
実際、三浦選手みたいに一つの技・形で勝つ選手もいるので、なんとも言えないところはあるし、三浦選手の投げと袈裟固めに期待している人も多いと思いますが、私にはそれができないんだよというところを見せて、自分がやっているMMAの練習を発揮できたらいいなと思います」
ONEでのキャリアも5年目を迎えた。ONEは世界各国から選手が集まる舞台で、今まで意識することがなかった新興勢力や新たに参戦してくる選手たちとも戦っていかなければならない。それと同時に結果を出せなければ、いつリリースされてもおかしくないシビアな団体だ。平田はONEで戦い続ける目標と同時に危機感も持っている。
「私は何も知らない状態でONEに飛び込んだのですが、新しい選手がドンドン出て来るんだなということを感じています。そこで負けていたら自分の名前がONEから消えると思うし、しっかり勝ち続けないとONEでは生きていけないなと思いました。実際にONEからリリースされる選手もたくさんいるし、もしそうなったら私は迷子になっちゃうと思うんですよ。私はONEでしか戦ったことがないから。この試合もONEに居続けるために生き残らなきゃいけない戦いだと思っています。私はまだランキングに入っていないので、今年はランカーとドンドンやっていきたいという目標がありつつ、新しい選手たちに飲み込まれないように上を目指していきたいです」
カード発表会見では「試合を盛り上げるために煽りやバチバチしたムードを作りたいか?」という質問もあがった。平田自身「私はBreakingDownも大好きだし、UFCのショーン・オマリーも好き」と話す一方「試合が近づいてくれば自然と熱くなるし、いつも映像を撮ってもらっている時も結構自然で、タイミング的に試合前が多いんですよ。私は周りに求められるからじゃなくて、自然に言える方が好きです」と自然体を貫く。
「結局、相手は相手、自分は自分です。もし会見で煽られていたとしても、あの時は落ち着いていたから自分は自分のスタイルで『あっ、はい』みたいになってたと思います。それは試合も同じで、向こうが(攻めて)来たとしても、自分がやりたいことがちゃんとできればいいと思ってます」。
約4年ぶりのONE日本大会、日本人対決、そしてハム・ソヒ戦からの復帰戦。三浦戦は普段以上に注目が集まる一戦だが、平田は自然体のまま、一歩踏み出す勇気と覚悟を持ってリングに向かう。
文/中村拓己