“世界最高峰の格闘技イベント”ONE Championshipの約4年ぶりとなる日本大会=1月28日(日)東京・有明アリーナ「ONE 165」。当初、今大会ではロッタン・ジットムアンノンと武尊のスーパーファイトが予定されていたが、ロッタンが負傷欠場。ONEキックボクシング世界フライ級王者スーパーレック・キアトモー9と武尊によるタイトルマッチが行われることとなった。
昨年11月30日に日本で記者会見が実施され、ONEのチャトリ・シットヨートンCEO、そして両選手が出席のもと武尊とロッタンの一戦は発表された。武尊にとっては「THE MATCH 2022」以来の日本での試合で、対戦相手は武尊が対戦を希望していたロッタン。チャトリCEOも「世界的に注目される」と語ったドリームマッチの実現に日本そして世界中のファンが熱狂した。
決戦に向けてプロモーション撮影も進む中、事態が急変する。年末にロッタンが怪我をしたという情報がインターネット上で飛び交うようになったのだ。そして年が明けた1月5日にロッタンが左手首の怪我で負傷欠場することが正式にアナウンスされ、武尊との一戦は消滅となった。
ここでロッタンの代役として白羽の矢が立ったのがONEキックボクシング世界フライ級王者のスーパーレックだ。しかも試合形式はスーパーレックが保持するベルトをかけたタイトルマッチ。ロッタンVS武尊が消滅したことにより、急転直下、王者スーパーレックVS挑戦者・武尊のONEキックボクシング世界フライ級タイトルマッチが実現することになったのだ。
武尊の耳にロッタン欠場の一報が入ったのは年明けすぐ。武尊自身も大きなショックを受けたが、スーパーレックとのタイトルマッチというオファーで「K-1王者がONEデビュー戦でタイトルマッチを組んでもらうことになって、それだけの評価をしてもらえているというのは正直嬉しい。すぐに気持ちを切り替えることができたし、あとはもうやるだけ。今はONEのベルトを獲ることしか考えていない」と気持ちが途切れることはなかった。
スーパーレックは昨年9月の「ONE Friday Fights 34」でロッタンと対戦し、計量オーバーがあったもののロッタンからダウンを奪って勝利している。武尊はこの一戦を現地で観戦し、ロッタンだけでなくスーパーレックへの対戦にも興味を持った。
「ONEと契約したときにONEで戦いたいと思っていたのがロッタン選手とスーパーレック選手で、2人の試合を現地で見ていて、スーパーレック選手がロッタン選手に勝つ姿を見て、改めて戦いたいと思いました。こんなに早く組んでもらって嬉しい気持ちもあります。
半年近くかけてロッタン戦に向けて準備してきたものもあったので、そこに対してはちょっと悔しさもあったんですけど、今までもこういうアクシデントや相手が変わることはあったし、僕はそういう逆境にこそ強い・いい結果を残しているので、あとはやるだけですね」
ロッタンはパンチ&ロー主体で打ち合いを得意としており、武尊とは似たファイトスタイルの持ち主だ。一方のスーパーレックは前蹴り・ロー・ミドル・ハイ・ヒザと右の蹴りを得意にしている。直接対決での結果はもちろん、武尊にとってはロッタンよりもスーパーレックの方が相性が悪いという声も多い。しかしそんな周囲の予想や下馬評は武尊の闘志に火を点けている。
「僕はよく逆境に強いと言われるんですけど、勝って当たり前と言われる試合は本当にキツイんですよ。でも困難だったり、アクシデントがあればあるほど、周りは『武尊大丈夫か?』という空気になるじゃないですか。僕はその空気が逆に燃えるんですよね。相手が変われば対策も変わるし、準備も変わる。下馬評でもスーパーレック有利が多いですが、こういう状況は燃えますね。
(武尊はスーパーレックと相性が悪いという声について)そう言ってくれている方がありがたいですね。『武尊まずい』や『武尊負けるんじゃないか』という空気が僕のエネルギーになるし、見てろよ、(予想を)覆してやるって気持ちが乗ります」
また挑戦者という立場でスーパーレックのベルトを取りに行くシチュエーションも武尊のギラギラした野心を取り戻させた。
「日本でチャンレンジャーとして戦うことは久しぶりだし、気持ちはいい方向に持っていけていますね。会見でスーパーレック選手のベルトを見て、あのベルトが欲しくてたまらなくなりました。(ギラギラしている?)どうしても守る試合はギラギラよりも守らなきゃいけないって気持ちになっちゃうんです。
こういう気持ちで試合に臨めるのは久しぶりだし、この試合に勝つことで色んなことを証明できて、僕のことを認めてもらえる試合になると思います。ONEのタイトルマッチ=世界最強を証明する試合にもなると思うし、モチベーションが上乗せされて、めちゃくちゃ気合いが入っていますね」
常に武尊は命を削るような練習で自分を追い込み、いつ選手生命が終わってもおかしくないような試合をリング上で繰り広げてきたが、それはスーパーレック戦も同じだ。またチャトリCEOが「武尊がONEのベルトを巻けばグローバルヒーローになる」と話すように、武尊がONEの世界チャンピオンになれば、戦いの舞台は日本から世界へと広がっていく。武尊が日本でこれだけのビッグマッチを戦うのはスーパーレック戦が最後になる可能性もゼロではない。
「僕はずっと日本で戦ってきましたけど、この試合を通じて世界中の人たちに武尊という面白い試合をする選手、強い選手がいるんだなと思ってもらいたいです。(勝ってロッタンと防衛戦で戦いたい?)今は何も考えていないです。スーパーレック選手は次のことを考えて勝てる相手じゃないし、それは勝った後に考えます。今の僕はスーパーレック選手に勝つこと、ONEのベルトを獲ることしか考えていません。
僕は毎試合いつ終わるか分からないぐらいのギリギリのところで練習していて、僕は命を削って自分の戦いを表現しています。一本一秒そのすべてを見届けて欲しいと思うし、もしかしたらこれが日本でやる最後の試合になるかもしれないので、ぜひ会場で見て欲しいです」
1月28日、武尊の一分一秒、その一挙手一投足をその目に焼き付けよう。
文/中村拓己