昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会「RAW」と「SMACKDOWN」の放送が日本で開始された。さらに先月27日(日本時間28日)に行われた「ロイヤルランブル」以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEウォッチャー”の清野茂樹アナウンサーらが加わった。そんな清野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。第1回目のキーワードは「予測不能」。清野アナが語るWWEの面白さとは。
■「一寸先はハプニング」アントニオ猪木さんの口癖がぴったりのWWE
「WWEの魅力は何ですか?」と聞かれたら、私は迷わず「予測がつかないこと」と答えます。今週のRAWからひとつ例を挙げましょう。この日は「ロイヤルランブル」の直後ですから、ランブル戦で優勝したコーディ・ローデスが、統一WWEユニバーサル王座と世界ヘビー級王座のどっちに挑戦を表明するのか、が視聴者にとって最大の関心のひとつだったと思います。48時間前、優勝直後のコーディ・ローデスは、客席にいたローマン・レインズを指さすシーンがあったので、てっきり去年敗れた相手と再戦かと思いきや、「俺と闘えよ」と対戦を迫ったのは、世界ヘビー級王者のセス・ロリンズでした。
急に対戦を要求されたコーディ・ローデスは困惑した様子で即答しませんでしたが、こうなるとローマン・レインズは、次回のSMACKDOWNで何を言うのか?来場するのかどうかも含めて見逃せません。年間最大イベントである4月の「レッスルマニア」でコーディ・ローデスの相手は誰になるのか…こうやって視聴者の興味を持続させるのがWWEは本当に巧みなのです。私も長くWWEウォッチャーをやっていますが、「レッスルマニア」の対戦カードを予測するのは実に難しい。もちろん、コーディ・ローデス、ローマン・レインズ、セス・ロリンズという登場人物についての知識に差はあっても、予測がつかないという意味では、WWEは古参ファンも新規ファンも平等なのです。
この先の展開についての予想が難しいのは、試合形式も関係していると思います。日本のプロレスがシングルマッチを重んじるのに対して、WWEには実にさまざまな試合形式が存在します。恐らく、視聴者を飽きさせない工夫だと思いますが、ルールによっては、番狂わせが起きやすくなります。先日のロイヤルランブル戦なんかはその最たる例で、試合は30人のスーパースターがひたすらトップロープから場外に落とし合うだけ。しかも、どんな順番で誰が登場するかはまったくわかりません。その他にも金網の中での勝ち残り戦「イリミネーション・チェンバー」や、いつでも王座に挑戦できる権利証の入ったブリーフケースをラダー(はしご)をよじ登って取り合う「マネー・イン・ザ・バンク」など、WWEでは今後も変則的な試合形式を売り物にしたプレミアムライブイベントがあるので、視聴者の皆さんにはぜひ楽しんでもらいたいと思います。
さて、話を再び今週のRAWに戻しましょう。ロイヤルランブル戦の女子部門で優勝したベイリーは、世界女子王者のリア・リプリーとリングで対峙するかと思われていた中で、突然、ナイア・ジャックスが入ってきた場面にも驚かされました。このように、優勝者でも王者でもない人間が、あっさり主役の座を奪うこともWWEでは十分にあり得る話。ナイア・ジャックスはリプリーを襲撃した一方で、ロイヤルランブル戦では新顔のジェイド・カーギルと因縁も生まれていますし、こちらも今後の対戦相手が読めません。WWEは連続ドラマに例えられることも多いのですが、男女で並行して別々のストーリーが同時に展開されるのも面白いところです。
そして、予測がつかないと言えば、中継に関しても当てはまります。私は解説者と一緒にスタジオに入り、アメリカからの映像をモニターテレビで見て実況していますが、WWEの中継は試合中に突然CMが入ったり、入場の最中にバックステージのインタビュー映像が入ったりと、日本で経験する中継とはまったく異なるので、たいへんエキサイティングです。予測不能な映像にいかに付いていくかは、日本語実況者に与えられたタスクかもしれません。そうえば、WWEホール・オブ・フェイマーのアントニオ猪木さんは生前「一寸先はハプニング」が口癖で、予測できないプロレスを提供してきました。そんな猪木さんの試合を子供の頃から見て育った私が今、見ていてもっともドキドキするのがWWEなのです。
文/清野茂樹
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