自民党の麻生太郎副総裁による“ある発言”がまたも物議を醸している。
【映像】「麻生の逆襲」自民党内の相関図
 
 麻生氏が上川陽子外務大臣の名字を「カミムラ」と間違えた上に、「このおばさん、やるね。少なくともそんなに美しい方とは言わんけれども……」などと発言し、失言だと話題になっている。岸田文雄総理は「年齢や容姿を揶揄(やゆ)し、相手を不快にさせるような発言をすることを慎むべき」として、麻生氏も珍しく文書で謝罪し、発言を撤回した。しかし麻生氏といえば、これまでにも不適切発言を繰り返している。
 
 その内容は、1983年「婦人(女性)に参政権を与えたのが最大の失敗だった」、2003年「豊かな時代だねぇ。ホームレスも糖尿病という時代ですから」、2007年「7万8000円と1万6000円は、どっちが高いか。アルツハイマーの人でもわかりますわな」、2011年「日本ほど安全で治安のいい国はない。ブサイクな人でも美人でも、夜中に平気で歩けるのだから」というものだ。
 
 ただ、今回の「おばさん発言」は、同じ調子で行われたわけではないようだ。ジャーナリストの青山和弘氏は「単なる失言ではない。いわば『確信犯』。岸田総理への宣戦布告となる言葉だ」と指摘。発言の裏には「裏切り者は許さない」という信念と、キングメーカーであり続けるための戦略があると語る。
     
 そもそも岸田氏が総理に就任できたのは、麻生氏のおかげであり、「岸田総理にとって麻生氏は、感謝してもしきれない恩人中の恩人」だと青山氏は説明する。しかし、相次ぐ「裏金問題」で内閣支持率が急落するなか、岸田総理が国民の支持を取り戻す切り札として、「派閥解消」を検討したことが転機となった。
     
 岸田総理は、みずからをトップに政治刷新本部を設置し、最高顧問に派閥存続派の麻生氏と、派閥解消派の菅義偉前総理を据えた。そんな中、青山氏によれば、茂木派のある有力議員が岸田総理に「この際、全ての派閥は解消しましょう」と提案。この提案で岸田総理は派閥解散に大きく傾いたと青山氏は見る。そして、他の派閥にさきがけて岸田派の解散を決断。しかし、事前の根回しをしていなかったことが、麻生氏の反発を招いた。青山氏の取材によると、その後の会談で、麻生氏は岸田総理に対して、「麻生派はそのままやらせてもらう。お前は派閥を解散して、次の総裁選に出られると思ってるのか」と発言。岸田総理は「出られますよ。派閥がなくても人間関係がある」と返答したという。
     
 「麻生の逆襲」を起こす上で、ポスト岸田を誰にするのか。麻生派の河野太郎氏は「党内での人気がない」、茂木敏充幹事長は茂木派の小渕優子氏や青木一彦氏の離反で求心力を失っている。とはいえ、国民から人気の石破茂氏(無派閥)も、麻生氏が断固として推薦しない。そこで目をつけたのが、総理になれば「女性初」となる上川氏だ。上川氏は、法務大臣時代に「AV新法」を成立させるなどの手腕を発揮し、外務大臣になってからはウクライナを訪問。派手ではないが、実直な政治家として知られている。そして、上川氏は岸田派。麻生氏が上川氏を推すことは、岸田派を分断する戦略だと考えられる。
 
「もし上川さんが立てば岸田派は割れる。 “人間関係”を引き裂く狙いもある。そもそも上川氏を外務大臣に推したのは麻生氏。『日本初の女性総理に!』と売り出せば、裏金のダークなイメージも払拭できる。キングメーカー麻生氏の『逆襲の一手』だ」(青山和弘氏)
 
 この流れを上川氏も認識していたと、青山氏は見ている。外遊から帰国するたび、上川氏は岸田総理に加えて、必ず麻生氏にも報告。また、今回の麻生発言が「セクハラ」「ルッキズムだ」と批判されるなか、上川氏本人は「どのような声もありがたく受け止めております」と受け流している。これに青山氏は「上川氏も、麻生氏が自分を総理に押し上げてくれるキングメーカーだとわかっている」と推測。麻生氏の一連の発言は「お前が言うこと聞かないなら上川を立てるぞ」という、岸田総理への牽制だと指摘した。
     
 麻生氏の発言では、上川氏の外交手腕を評価して「新しいスター、新しい人が、そこそこ育ちつつある」と述べられていた。青山氏は「つまりポスト岸田になれる人が、別にいると言いたかった」。上川氏からしてみても、岸田派ナンバー2である林芳正官房長官を差し置いて、総理大臣になることが難しいなか、「喜んでいると思う」と見方を示した。
 
「自民党の支持率が下がっている。『女性初』で生まれ変わったと、刷新感を出したい時に、上川さんの可能性は出てくる。目先を変えて『疑似政権交代』は、いままで自民党がやってきた手。それには適任な人のひとり」(青山和弘氏)
 
(『ABEMA的ニュースショー』より)