電車やバスなどの公共交通機関に設置される“優先席”。一般には高齢者、障害者、傷病者、妊婦、ベビーカー含む乳幼児連れなどを対象としているが、あるXの投稿が話題になった。
「『座ってんじゃねえよ』友人が妊娠初期の頃、バスで優先席に座っていたら、近くにいた女子高生2人組にそう言われたそうだ。そして、なんと足を蹴られた。恐怖心で席をたち移動したあと、しばらくして『お腹に赤ちゃんがいますステッカー』を目にして、『やべぇ、妊婦じゃん』と言っているのが聞こえてきたそう。彼女たちは友人がどいた席にお年寄りを座らせていたという。だから悪い子達じゃないと思うけど、怖かったと、言っていた。正義感が根っこにある攻撃ほど怖いものはないと、そのとき知った」(Xから)
SNSでは「自分も体調不良で座っていたら文句言われたことがある…」「こういうトラブルが嫌だから優先席は座らない」と様々な声が上がった一方で、優先されるべき人たちも座りづらさを感じているという。必要な人が座れるようになるにはどうすればいいのか、『ABEMA Prime』で考えた。
■「“譲ってください”と声をかけるのも勇気がいる」
金沢工業大学教授の土橋喜人氏らの研究によると、関東3路線の優先席の利用率は対象者の1~3割にとどまっているという。妊娠8カ月のえみさん(30代前半)は「まだお腹が目立たない頃、つわりで立っているのも辛い時があったが、初期のうちはマタニティマークは配られない。付けるようになってからも、見て見ぬふりされるのを肌で感じるようになった。お腹に赤ちゃんがいて、“譲ってください”と声をかけるのも勇気がいる」と話す。
普段の移動時には杖を利用している土橋氏は「妊婦さんと女子高生のやりとりはよく分かる」といい、「私は赤い色の派手な杖を使っているのだが、目につきやすいようにしないと障害者だと分からないからだ。以前はおとなしい色のものを使っていたが、若い頃に“元気な若僧が座ってるんじゃない”と蹴られたことがある」と明かす。
Xの騒動自体については、「高校生は蹴るのではなく“ここにおばあちゃんいますよ”と言ってあげればよかった話。それが日本人のコミュニケーションが下手なところだとすると、正義感が根っこにある攻撃が問題ではなく、社会的な要因を考えなければいけない」と指摘した。
配慮を求めるマークには、聴覚障害であることを示す「耳マーク 手話マーク」、身体内部に障害があることを示す「ハート・プラスマーク」、妊娠初期・義足など外見から分かりにくいが配慮を必要とすることを示す「ヘルプマーク」などもある。
土橋氏によると、声かけをすると9割の人は席を譲ってくれるというが、「例えばイギリスだと、席を譲ってくださいという“Please offer me a seat”マークがある。それを使うと言葉を交わさずともコミュニケーションが取れるので、日本人に合うのではないか」と述べた。
■優先席を“専用席”にするべき?
札幌市営地下鈇では、優先対象者から「座れない」との声を受けて、1975年4月から優先席を“専用席”に変更した。利用可能としているのは、高齢者、からだの不自由な方、乳幼児をお連れの方、妊娠されている方、内部障がいをお持ちの方。メリットには、満員電車でも空いているため座りやすい、対象者が座ることのうしろめたさが少ないなどが挙げられる。
土橋氏は「うまく札幌市民に根付いたということで、今ではほとんどの人が専用席に座らない。調査した結果だと、札幌の3路線の優先対象者の利用率は9割以上で、他の地区と比べると圧倒的に高い。よく混み具合だろうと言われ、関東なんかは混めば混むほど落ちているが、札幌は横ばいで対象者がちゃんと座れている」と説明。
専用席は全国に広めていくべきなのか。コラムニストの河崎環氏は「Xの投稿にあった高校生たちの中には、優先席に座るべき人とそうではない人で0か1かの線引きがある。その正義感に則って行動をとったわけだが、優先席の曖昧さだったり、TPOを考えさせたりするところで混乱してしまうのでは。専用席という明確な線引きがあれば、だいぶ日本は楽になるのではないか」との考えを述べる。
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「譲らない理由にフォーカスすると、義務や制約が生まれてしまう。おそらく目の前に優先席が必要な人が来たら、譲るという人のほうが多いだろう。“譲ってありがとうと言われた”“自分も相手もハッピーだ”というポジティブな側面に着目して前進していくべきだと思う」との見方を示した
土橋氏は「夢を語るのであれば、優先席も専用席もない。誰がどこに座っていても、より必要としている人が座れるような、そういう成熟した文化を持ってくれるのが理想だ」とした。
(『ABEMA Prime』より)
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