車両認証試験をめぐる大規模な不正問題を受け、13日、ダイハツ工業は社長の交代を発表した。
今回の不正はなぜ起きたのか? その背景や自動車業界が抱える問題についてテレビ朝日経済部の吉田貴司記者に聞いた。
━━今回のダイハツで起きた不正はどのようなものか?
「車両の安全・環境基準への適合性を調べる試験で起きたものだ。例えば、エアバッグは衝突検知時に自動で作動させる必要があるが、試験ではタイマーを仕込んで作動させていた。第三者委員会の調査によってこのような不正が174件見つかった」
━━不正発覚後、どのような動きがあったのか?
「2023年4月に海外向け自動車で発覚して以降、去年12月まで調査が行われた。結果を受けてダイハツは国内4つの完成車工場での生産を停止。国も調査を行い、特に悪質な不正だと判断した3車種について今年1月に『型式指定』を取り消し、再発防止策をダイハツに求めた。これを受けてダイハツは今月9日に国交省に再発防止策を提出、12日には京都工場で生産を再開。13日には、社長交代の人事を発表した」
━━そもそもダイハツの不正はなぜ起きたのか?
「調査報告書によると開発期間の短縮が主な原因の一つだ。2011年に発売した『ミライース』においては開発期間の短縮に成功した後、さらなる短期開発を求められるようになった。その上、コストカットで管理職が減り、彼らは幅広い領域を担当することになり、現場と管理職との断絶を生み出した」
━━現場の職員は悩んでいたのか?
「調査委員会の調査に対して、現場からは『根本にあるのはギリギリの短期開発日程。机上で決定した日程は綱渡り日程でミスが許されない』『上司に相談しても〈どうする?自分で考えろ〉が多く相談にならない」などの声が上がっている。また、不正の原因についての社員アンケート(複数回答可)では、『開発スケジュールが過度にタイトになる傾向(計画の問題性)』には8割、『公表された発売時期や開発日程遵守(延期不可)のプレッシャー』には7割が回答している」
━━自動車業界ではこういった不正が蔓延しているのか?
「2022年、トラック大手の日野自動車はエンジンの排ガスや燃費の性能を偽っていた問題で役員4人の辞任など経営陣の処分を発表した。最近では豊田自動織機が業務用車両のほか乗用車のディーゼルエンジンに関する不正が発覚し、トヨタのディーゼルエンジンを搭載した『ランドクルーザー』など10車種の出荷停止を決めた」
━━なぜトヨタ傘下で不正が相次いでいるのか?
「直接トヨタが圧力をかけたという認定はない。一方でトヨタの期待に応えるために身の丈に合わないスケジュールを組んでしまったという声もある。ダイハツについては完全子会社化して社外の声に直面しなくなっていることも一因かと思われる。また、豊田自動織機の調査報告書では“受託体質”が形成されており、自分で課題解決する力が弱くなっていると指摘されている。2社の不正には自分たちで物作りにしっかり向き合えなくなったことが共通しているものと思われる」
━━この問題についてトヨタのトップは言及しているのか?
「トヨタ自動車の豊田章男会長は先月あった戦略説明会の会見で不正を見抜けなかったことについて『トヨタを何とか立ち直らせるだけで、正直精一杯だった。見ていなかったというよりは、見られなかったのが正直なところだ』と話している。豊田章男会長は社長就任後、リーマンショックや東日本大震災など大きな課題に直面している」
━━この問題は他の企業の教訓になるのだろうか?
「製造業の現場、それ以外の業種においても『納期に間に合わせるためなんとかしろ!』という要望はあるだろう。だが『なんとかしろ!』と言うだけでなく、人員補強やIT化を進めるなど解決策や前進するための考え方を提示するべきだ。また、上司とのコミュニケーションにおいて、相談しても答えやヒントをもらえなければ失望につながり、現場の社員も腐ってしまうだろう。今回はダイハツやトヨタの幹部も口にしているように『現場をちゃんと大事にできなかった』ことが不正につながってしまったようだ」
━━なぜ、不正は30年も続いてしまったのか?
「ダイハツの調査報告書では、最も古い不正は1989年からあったと示されている。コンプライアンスの意識が低い、認証に対して不正を行うことへの悪影響が自動車のみならず、製造業全般への不信にもつながりうるという意識を欠いていたと言わざるを得ない」
━━今回の問題は自動車業界全体にどの程度の影響を及ぼしたか?
「ダイハツの販売台数は不正問題を受け前年同月比6割減となっている。親会社のトヨタ自動車も今回の影響で販売見通しを減らしている。また、あるダイハツのサプライヤー幹部は『早く生産再開の筋道ができたというところはほっとしているが、具体的な補償の話し合いはまだできおらず不安だ』と話していた。自動車は部品や販売店なども関わる産業であるため、課題を乗り越えて立ち直る必要がある」
━━現在、ダイハツ車に乗ることにリスクはないか?
「車は命を預けて運転するものであり、不安に思うのも当然だ。ただ、今乗っているダイハツ車については改めての調査を行なった結果、使い続けても問題ないとされている。不安に思う利用者はダイハツの専用ダイヤルに連絡するのもよいだろう」
━━ダイハツは今月国交省に再発防止対策を提出したが、今後企業体質は変わっていくのだろうか?
「開発期間を1.4倍にしたり、認証に関わる人員を増やすなどの再発防止策が挙げられており、社長の交代人事もあった。ただ一方で、あくまで働く人たちが開発を立ち止まるように声をあげたり問題点を指摘できる風通しの良い風土作りが求められるだろう。社長や経営陣が変わっただけで社内風土はガラッと変わるものではない。環境は急に変えられないが着実に防止策を進め、安全性と信頼を積み上げる必要がある」
(ABEMA/倍速ニュース)