【写真・画像】違法な捜査に、証拠のねつ造 冤罪事件の裏側に隠された公安の思惑とは「手柄を立てたい」「上層部の出世欲」 大川原化工機事件 1枚目
【映像】病院も受け入れ拒否…「犯罪者が来られても困る」
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 黙秘すると保釈されず、黙秘しないと無罪とならない「人質司法」。大川原化工機の元顧問・相嶋静夫さんは、その犠牲者だ。
 
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 相嶋さんが顧問を務めていた大川原化工機は、警視庁公安部から「生物兵器が製造可能な機械を輸出している」との嫌疑をかけられ、大川原正明社長や相嶋さんら3人が、外為法違反の容疑で逮捕された。後に冤罪と判明するものの、相嶋さんは起訴取り消しの半年前、72歳で「被告」として亡くなった。
     
 相嶋さんは幼い頃から、ものづくりや実験好きの技術者気質だった。大学の工学部を卒業後、当時社会問題になっていた公害をなくしたいと、大企業ではなく空気中の風じんを除去するメーカーに入社した。その後、大川原化工機に移籍し、専務や関連会社社長、そして顧問として技術部門を率いてきた。
     
 大川原社長は「納得しなかったらやらない性格。安全に関することだけは、非常に厳しく言っていた」と、人となりを振り返る。同社粉体技術研究所の伊藤幸雄部長も、技術的なアドバイスから、新入社員の教育まで、「わからないことを聞けば、すべて教えてくれる」。おかしいと言ったら、夜までかかっても解明する性格で、「知識に関しては私が会った中で一番」だと語った。

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 相嶋さんは約1年半にわたる、任意の事情聴取を経て、2020年3月11日に逮捕され、弁護士の指示通りに黙秘を貫いた。相嶋さんが記した「被疑者ノート」には、日々の取り調べが克明に綴られている。
 
「あらかじめ作ってあったシナリオにうまく乗せようとしていた」
「黙秘すると長くなるよ、『痴漢』でも1年以上かかることがある」
「組織組員は黙秘する。これは組織を守るためだが、普通の人は黙秘しない」
「黙秘はあなたの為にならない。早く話して会社に戻ってあげなくては」
「不起訴をねらっているのか」
 
 勾留され続ける相嶋さんの体調に異変が起きた。健康診断で極度の貧血が判明したのだ。輸血も行われたものの、詳しい検査はなかった。当時の被疑者ノートには「便が出ない。血便?」「専門医にかかりたい」と書かれている。ようやく内視鏡検査をしたところ、胃の出口付近に大きな潰瘍が見つかった。結果的にガンと判明するのだが、本来は行われるMRIやCTなどの詳しい検査はなかった。
     
 長男は父親を救おうと保釈請求するが、すべて却下された。そこで事件を担当する高田剛弁護士らは、一時的に外出できる「勾留執行停止」を利用し、朝8時から夕方4時までの短い時間で、検査と治療を受ける計画を立てる。しかし向かった大学病院では、簡単な検査のみで終了してしまう。相嶋さんの長男によると、「事前連絡なしに犯罪者が来られても困る。お引き取りください」と言われ、精密検査は受けられなかったという。
     
 元裁判官の木谷明弁護士は「ああいう段階まで行って保釈しないということは人道問題。裁判官が責めを負うべき。いくら検事におどかされても保釈しなきゃいけない」。その後、受け入れ先は見つかるも、すでにガンは肝臓に転移。緩和ケアを選ぶほかなく、相嶋さんは2021年2月7日に亡くなった。起訴が取り下げられたのは、7月30日だった。大川原社長が釈放されたのは、相嶋さんが亡くなるわずか2日前で、葬儀にも出られなかった。保釈の条件に「関係者との接見は禁止」とあったからだ。
 
「起訴取り下げまでの間、奥さんにも会えなかった。社員との連絡も、弁護士を通してしかできない。亡くなったのを聞いたのも翌々日だった」(大川原化工機・大川原正明社長)
 
 高田弁護士は、検察官や裁判官には「一時的な勾留執行停止があるのだから、保釈する必要はない」という考えがあると指摘する。
 
「保釈が先にあって、どうしても認められないときに、勾留執行停止があるにもかかわらず、順序が逆の思想を持っている。そういう思想を持っている限り、是正されない」(高田剛弁護士)
 
 元大阪地検検事の亀井正貴弁護士も、高田氏の指摘に同意する。
 
「保釈を一旦してしまうと、その後ずっと保釈が効くため、必要な期間だけ釈放すればいいという発想になる。拘置所の医療施設は充実していないし、医者もちゃんと対応していない状況。検察関係者でも『今回のケースはひどい』とよく聞く」(亀井正貴弁護士)
 
(『ABEMA的ニュースショー』より)

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