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【映像】起訴された「リンゴ日報」の創業者・黎智英氏
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 2019年、香港の民主化を求める人が立ち上がり、大規模なデモが勃発。しかしその翌年、「国家安全維持法」が施行され、取り締まりが強化されることになった。真っ先に標的となったのが、“民主の女神”と呼ばれた活動家・周庭氏。逮捕・保釈を経て、カナダに亡命している。

【映像】起訴された「リンゴ日報」の創業者・黎智英氏

 もう1人注目されたのが、政府に批判的なメディア「リンゴ日報」の創業者・黎智英(ジミー・ライ)氏。黎氏は起訴され、裁判にかけられることになったのだが、ここで名前が浮上したのが菅野志桜里元衆議院議員だ。独立系中国語メディア「自由亜洲電台」によると、黎氏の裁判で菅野氏が“共謀者”として名指しされたと報じた。

 菅野氏は議員時代、香港の活動家とミーティングを行うなど、彼らを支援する立場をとってきた。共謀については否定しているが、中国や香港に渡航したら逮捕される可能性はあるのか。国家安全維持法が日本に及ぼす影響について、『ABEMA Prime』で考えた。

■菅野氏「萎縮効果をもたらす狙いがあるのでは」

 菅野氏はそもそも黎氏と面識がないとした上で、「私が“人権侵害する人を制裁できるような法律を日本も作るべきだ”“ウイグルの強制収容にもっと非難の声を上げるべきだ”“香港の若者を日本はもっと守るべきだ”と言ってきたことが国家安全維持法に違反するとして、国会議員の活動が中国で犯罪化されるというのは主権の侵害に当たる。現職を名指しするよりはコンフリクトが少ないけれども、中国の問題に声をあげる政治家への一定の抑制、萎縮効果をもたらす狙いがあるのでは」と推測する。

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 現代中国研究が専門の社会学者で東京大学大学院教授の阿古智子氏は、2002年に内モンゴル滞在時に取り調べを受け、調査データ入りのPCや携帯電話を没取されたという。「一緒にいた中国人ジャーナリストと一晩留め置かれた。その後も2回、最近だと2017年に同じようなことがあった。ただ、これは国家安全維持法が成立する前で、今はより厳しくなっている」と説明。

 直近の動きについては、「IPAC(対中政策に関する列国議会連盟)への牽制があると感じる。中国政府は名指しでそのメンバーも制裁リストに入れている。政権に対してネガティブな動きや発言をする人たちの動きを何とか止めようとしている」との見方を示す。

 香港出身のウィリアム・リー氏は、警察に拘束された経験を持ち、現在は日本に暮らしている。「今のところ中国からの物理的な侵害はないが、こうした動きにはプレッシャーを感じる。私も2020年ぐらいに親中派の新聞紙に名指しされたこともある。香港に戻るのは怖くてできない」と語った。

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 菅野氏は「これまでに17人の邦人がスパイだということで身柄拘束され、日本のビジネスマンが中国から逃げ出すような環境を自ら作ってる。ウイグルでの強制労働に関しては、関与した部品が入っている疑いのある車が、アメリカの港で何千台も留め置かれ、その部品を交換するまで一切入れない。この動きがEUにも広がり、相当なダメージを受けるはずなのに、締め付ける方針から転換できない。ただ、日本は緩い。強制労働のリスクがある車は日本などに持ってきて、リスクがない車はアメリカに持っていくという状況も起きている。日本が抜け穴になってはいけない」と危惧した。

■阿古氏「“中国”という主語の中にはいろいろな人がいる」

 一方で、阿古氏は「“中国”という主語の中にはいろいろな人がいる」と指摘する。「トップ以外の政治家にも政策があるし、“経済を良い方向に動かしたい”という人もいる。ただそういう声を上げにくい。周辺の人たちが凝り固まって動きが取れない状況にある」。

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 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は、中国でNPO活動をする若者から「会ってほしい」と依頼を受けるという。「中国ビジネスに詳しい人に話を聞くと、“この団体の代表は共産党に中立を装ったことを言っていた”と親切心で警告してくれるが、実際に会ってみると、色々と思うことがあるのが分かる。若い人たち全員が共産党に万歳なわけではないので、対話を止めてはいけない。今、日本の若者がやれることがあるとしたら対話ではないか」と投げかける。

 これに阿古氏も賛同。「制限がある中で、いろいろな手段でつながっていたり、注意をしながらパイプを作ろうと若い人たち同士が活動をしている。私が彼たちに言っているのは、“中国にどんどん行きなさい”と。“私の学生だとは言わなくていい。見て、言葉も勉強しないと、良いところも悪いところもわからない”と伝えている」と述べる。

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 ウィリアム氏は、「人権侵害があるのは確かだが、だからと言って関係を一切断つべきではない。今、ロシアは戦争をやっているが、いろいろ理由があるわけだし、まず交流を深めてほしい。香港はまともな投票制度がなかったから、デモに発展して、弾圧されて、今の状況に陥っている。それを伝えるためにも交流が大切だ」と訴えた。

■ウィリアム氏「日本が同じ状況になったらどう対応するか」

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 日本にはどういう影響があるのか、どのような姿勢を示すべきなのか。菅野氏は「中国の国民や国家が悪いわけではなく、今の指導者の問題だということをハイライトするためには、マグニツキー法(人権侵害制裁法)を導入する。日本は“香港に渡航したり滞在する人、法人はできるだけ守る”と言うだけで終わっていて、大変残念だ。政治活動が犯罪化されることを今非難できる国は日本だけなので、その役割を果たしてほしい」と呼びかける。

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「国際社会に対して日本がどういう哲学を持つのかが求められている」と指摘する。「戦後に日本は“平和憲法があるから戦争をしないで済んだ”というテーゼを守りすぎて、実際に侵略国家が出てきた時のことを議論してこなかった。憲法の前文には、“我々は国際社会で名誉ある地位を占めたい”と、我々こそが国際社会の秩序を作る側に立つんだというポリシーが書かれている。そこに立脚して、ただ仲良くするわけでもなく、過度に対立するわけでもなく、リベラルな秩序を守る側の戦い方を示すべきだ」。

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 ウィリアム氏は「日本では、人権や政治に対する若い世代の関心が低く、支援してくれるのは40代、50代以上の方だ。ただ、皆さんが香港に関心がないわけではなく、知る機会がない。周庭さんのことはみんな知っていると思うので、彼女のYouTubeを見るとか、私みたいな香港出身の人もいるので接触を増やして、もし日本が同じ状況に陥ったらどう対応するのかを考えていただく。投票をちゃんとしていれば、自国の利益を守る政府を選ぶことができるので、皆さんは関心を深めてほしい」と訴えた。

(『ABEMA Prime』より)

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