元2階級制覇王者の亀田和毅(TMK)が3月31日、名古屋国際会議場イベントセンターで開催された「3150FIGHT vol.8」に登場。フェザー級10回戦でケビン・ビジャヌエバ(メキシコ)に5回終了TKO勝ちし、年内の3階級制覇挑戦をアピールした。
亀田が生まれ変わったニュースタイルを披露した。これまでの亀田は長身とスピードを生かして相手に触れさせないアウトボクシングを身上としていた。ところがこの日はガードを高く掲げて徹底的に前に出るファイタースタイルで勝負。初回からビジャヌエバにグイグイと圧力をかけ、ジャブから右ストレート、左右のボディ打ちを見舞っていく。相手にブロックされてもお構いなしにパンチを打ち込んでいった。
WBCユース・スーパーバンタム級王者の肩書きを持つビジャヌエバは亀田に押されて下がるばかりだが、それでも懸命に手を出し続けたのはボクシング大国、メキシコのボクサーとしてのプライドだろう。しかし、立て続けにボディにパンチを浴び、5回には強烈なアッパーを何度も打ち込まれると限界。このラウンドをしのぎ切ったものの、6回開始のゴングには応じられず、セコンドが棄権を申し出た。
試合後、亀田は新たなスタイルについて次のように説明した。
「今回のテーマは前に出て打つ。それはできたのかなと。相手はもともとファイターなんですけど、こちらが前に出続けたので下がるしかなくなった。10ラウンドあるので、ちょっとずつ、ちょっとずつ、ダメージを与えていくつもりだった。このスタイルを完成させれば、相手にプレッシャーをかけ続けることができて、12ラウンドあれば後半に相手が疲れてくると思う。さらに磨いていきたい」
亀田はなぜ、今までとは180度違うともいえるスタイルを選択したのか。話は半年ほどさかのぼる。亀田は昨年10月、世界ランカーのレラト・ドラミニ(南アフリカ)と対戦して惜敗。スピードのあるドラミニに対してなかなか手を出せず、最後まで山場を作れずに敗れた。スピードがあって目がいい亀田はディフェンスが良く、滅多にクリーンヒットをもらわない。ただ、試合をうまく組み立てられないと手が出ず、消極的でつまらない試合に陥ってしまうことがあるのだ。
亀田のようなタイプの選手が時に陥る悪いパターンなのだが、これに「ファンが納得しない。応援したくならない」と憤慨したのが亀田ファミリーだった。長兄の元3階級制覇王者、3150FIGHTの亀田興毅ファウンダーは「ああいうスタイルならもう辞めたほうがいい」と三男の和毅に直言。次男の元世界王者、亀田大毅・KWORLD3ジム会長にいたっては「これ以上やってもボロが出るだけ。世界チャンピオンになったことを誇りにして、第2の人生を歩んだ方がいい」と強く引退を求めたという。
兄たちの厳しい言葉は、亀田の心をえぐったものの、現役を続けたい気持ちは讓ことができなかった。話し合いの末、導き出された結論は3人の息子を世界王者に育てた父の史朗トレーナーにもう一度教えを請うこと。興毅ファウンダーは「和毅に足りないのはメンタル。そこを鍛えられるのは親父しかいない」とその意図を説明した。
史郎トレーナーの指導を受け、亀田はアウトボクサーからインファイターへの転換にトライした。言葉で言うのは簡単だが、スタイルチェンジはどんなボクサーにとっても困難な作業だ。失敗例も多い。ましてや亀田の場合、足かけ16年、プロボクサーとして44試合もリングに上がり、従来のスタイルで世界タイトルを2階級で獲得した実績がある。にもかかわらずチェンジを求めるのは、大きな賭けであり、裏を返せば、それが亀田の並々ならぬ決意の表われだった。
もちろん新たなスタイルは一朝一夕に身につくものではない。亀田自身が次のように語っている。
「前回負けて、親父とトレーニングを始めたのが去年の11月ごろ。4カ月で一気に変えて、いまできるのはこれくらいかなと。もちろんこのスタイルはまだ完成していない。前に出て打つといっても、前に出て行き方にはいろいろとテクニックがある。そうした課題にこれから取り組んでいきたい」
今回の相手、ビジャヌエバはWBCユース王者とはいえ、1階級下の選手であり、フェザー級の世界王者クラスと比べれば力は落ちる。対戦相手が当初、再戦を予定していたIBFフェザー級2位のドラミニであれば、4カ月で作り上げたファイタースタイルは機能したのだろうか。興味深い想像ではあるが、いずれにしても生まれ変わろうとする亀田が大きな一歩を踏み出したのは間違いない。
4カ月前、亀田に引退を勧告した興毅ファウンダーは試合後、「成熟したキャリアを持つ和毅が短期間であれだけガラッと変わったことに感じるものがあった。やっぱりボクシングはメンタルが大きく作用するスポーツ。あらためてそう感じた」と弟の変化に納得の表情だった。
亀田は当初、ドラミニとの再戦をIBF挑戦者決定戦に認定してもらい、これに勝利して世界タイトルマッチにステップアップという青写真を描いていた。このプランは結局、白紙に戻る形となったが、世界3階級制覇を目指す亀田の心に迷いはない。
「(ドラミニ戦がなくなったのは)そういうことはボクシングでは必ずあること。4団体あるので、4団体どこでもいけるように準備しておかないといけない。今年中に世界戦がやりたい」。
兄弟から「引退しろ」と言われてから4カ月あまり。崖っぷちから生還した亀田が5年ぶりとなり世界タイトルマッチ挑戦に向け、あらためてウェイティングサークルに入った。