「4月1日に入社できません」「他の会社にご縁を感じたので、貴社には入社できません。申し訳ありません」
入社式を10日後に控える中、職場を凍り付かせた一通のメール。「内定辞退」に関する採用担当者の投稿が話題を集めている。
「航空券もホテルも研修用のテキストもキャンセルするにはもう遅い。いや、そんなことはどうでもいい。こんな大切なことをメール1通で済ませられたことが重くのしかかる。怒りを通りこして呆れてしまう。」
Xに投稿したのはメーカーで10年以上採用担当を勤めるぱぱごりさん。メールを受け取ったのは、別の社員だったという。
「メール自体は見た。ただ、3行くらいの短文だったので。『あ、こんな感じなんだ』という驚きがすごくあった。メールを受け取った社員は涙声というか『本当どうしたらいいんでしょう』というような反応。これから関係部署に『実は 1人減りました』とか、そういう連絡するのもやはり憂鬱で『どうしたらいいんでしょう？』というようなすごく慌てていたというか辛そうだった」
ぱぱごりさんの会社では今年度およそ100人を採用。そのうち3人から、内定辞退の申し出があったという。
「内定式のタイミングで入社の誓約書を書いてもらっているが、実は毎年内定辞退はある。『今年も出てしまったか。仕方がないな』という思いが一番強い」
会社員時代に採用を担当していたことがあるという社会保険労務士の西野毅氏は入社前に書いてもらったという誓約書について「誓約書には『正当な理由なしで辞退しません』などといった内容が盛り込まれているかと思うが、実際にそれに縛られてしまうと、職業選択の自由などが侵されてしまう」と説明。
誓約書自体には法的な拘束力はないという。では企業は、内定辞退を防ぐために何ができるのか？
西野氏は「内定を出した後もしっかりと関係性を深めていくような取り組みをすべきだ。モヤモヤした状態のまま関係性を深めずにいると、どこかからの甘い言葉について行ってしまう」と述べた。
今回、内定辞退に関する投稿が反響を呼んだぱぱごりさんも、採用選考後の内定者のケアについて、反省を口にする。
「内定式の後にもみんなで会う機会は設けるべきだった。もし12月くらいにみんなで集まって話をしていたら『実はもう一社から内定をもらっていて悩んでいる』などと相談してもらえたかもしれない」
その上で、「内定辞退などは早い時期に連絡してもらえれば次の学生を採用するなど企業側も手を打てる。もし来年就職活動をする人がいたらバッドニュースは早めに伝えてほしい」と思いを語った。
入社式直前の内定辞退について政治学者の佐藤信氏は「以前よりも就職状況は改善をしており、複数内定をもらっている学生が珍しくない“売り手市場”という状況が前提にある。そんな学生の中には、片方の会社の配属が分かった段階で『思っていた仕事が出来なさそうだからやっぱりこっち』などと判断している者もいる。そのため、事前の情報開示が大事だと思われる。日本ではなかなか難しい実情もあるが、収入ベースや配属など、情報を早い段階で明らかにすることでこのような事態は少なくなるだろう」と見解を示した。
マイナビが就活生の保護者に行った調査を見ると、子どもの内定企業から内定確認の連絡＝「オヤカク」を受けたことがある保護者は初めて52.4％と過半数に。
内定辞退を防ぐというだけでなく、企業側にとっては自社の魅力を保護者に伝え、学生との関係を構築する上で保護者との関係も大切にしたいということがあるという。
さらに、子どもから頼まれて保護者が金銭面以外で行った就職活動の支援については、「特に支援は行っていない」が過半数だが、「履歴書やエントリーシートの添削＝18％」「自己分析の手伝い＝16.6％」「面接対策の手伝い＝15.2％」となっている。
この結果について佐藤氏は「コロナ禍もあって大学の中での付き合いが希薄になったこと、そんな中で親との関係が相対的に高まっているのではないか。また地方から大都市に出てきて、二世・三世となった世代が増えてきている。大都市の大学に通って就職していく人たちは、親と同居していたり、親が近くにいる場合が多い。自然と親との接点も増えるのだ」と分析した。
（『ABEMAヒルズ』より）
