「教育においても、女性の進学や理系受験を妨げるような障壁の存在が指摘されている」。入学式の式辞でこう話したのは、東京大学の藤井輝夫総長。同大学の今年度の新入生3126人のうち、女性は2割ほどだった。
そんな中、注目されているのが、性差と革新を合わせた「ジェンダード・イノベーション」だ。開発・研究において、体格や内臓、骨などの男女差を科学的に正しく理解、認識し、生かしていこうとする考えのこと。例えば医療分野では心臓、血管の構造など、性差を分析することで、より女性に合った治療法の確立や薬の開発を進めることができる。
ジェンダード・イノベーションで社会がどう変わるのか、『ABEMA Prime』で考えた。
■社会的性差を決めつけてしまう側面も?
NPO法人「日本女性技術者フォーラム」理事長で、中央大学特任教授の行木陽子氏は、ジェンダード・イノベーションについて「さまざまなことが男性中心に開発され、女性が弊害を受けてきた。そうしたネガティブ要素ではなく、男性と女性、あるいは性差に着目して、分析を重ねて新しいものを作り出すことをベースとした考え方だ」と説明する。
例えば創薬実験のマウスは、かつてオスが多かったという。「メスには生理周期があって、臨床実験でデータを取るのに不便。そのために女性に効きにくい薬ができることもあった。一方で、オス・メス両方で検証すると、女性だけに効く成分も見つかる。こうしたイノベーションにつなげることが基本だ」。
ほかにも性差の考慮が必要な分野として、シートベルト設計が従来の男性の体格前提の開発では女性の重傷率が高くなってしまうこと、骨粗しょう症の診断方法は女性前提の診断法が確率されていたため男性患者が正しく診断されない場合があることなどがある。
社会的構造も同様だ。行木氏は「女性がパンプスで歩くのに道路が向いていない、階段が男性の歩幅に合わせて作られていることなどに着目する。男女ともに歩きやすい道になれば、高齢者や子どもなど、万人にプラスに働くインフラにつながる」とする。
一方で、リディラバ代表の安部敏樹氏は「性差に踏み込んでいく難しさもある」と指摘する。「科学的にこうだと知ることにより、差別的な目線も生まれる。『男性はこう』『女性はこう』と社会的性差を決めつけてしまうことにつながるため、サイエンスと社会のバイアスはセットに論じないほうがいい」。
■アンコンシャス・バイアスを乗り越えるには
「平等」と「公正」には違いがある。平等(EQUALITY)は全員に同じものを与える価値観で、公正(EQUITY)は機会へのアクセシビリティ確保を指す。塀の向こうのスポーツを見る場合、前者はそれぞれに同じ高さの踏み台が与えられるが、後者では身長に応じた踏み台が用意される。
この例をもとに、行木氏は「公正にすることで、同じアクセシビリティを提供できる。こういう考え方が社会の中で一定の認知度を得ると、考え方はずいぶん変わるのではないか」と投げかける。
一方、ひろゆき氏は、東大総長のコメントを引き合いに「『女性は東大を受験できない』『平均点数が高くないと合格できない』となると問題だ」と指摘。「男女とも自由に受けられて、結果として女性が少なかったとしても、それは女性の選択。入口がしっかりしていれば、何の問題もない」との考えを示す。
これに安部氏は「それは教育課程の男女差がある程度フェアになっている場合だ。例えば九州で『女の子は、東大ではなく九大が限界だ』と言われるようなことが残っている。スタートがフェアかどうかも見ないといけない」と返した。
行木氏は、そこにはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があると説明する。「『女性は理系に向いていない』『県外に行かないで家で過ごした方がいい』などの価値観から、女性が理系や研究職に進むのを望まなくなる現状は、社会課題だと感じる」。
女性比率の「ティッピングポイント」という考え方がある。スイス国際経営開発研究所のギンカ・トーゲル教授が提唱するもので、女性1人の「トークン(象徴)」の段階では1人が女性全体を代表すると思われがちだが、女性比率25%の「マイノリティ」になると女性も1人ひとり異なるとの意識が生まれ、女性比率35%の「ティッピングポイント」へ進むと性別という属性を気にせずに認識される。
その上で行木氏は、「現状ではティッピングポイントまでいっていない」とし、「女性をある程度優遇してその数まで持っていくことで、多様性を確保する。今はその過渡期だと思う。一定数の女性が活躍できれば、意識せずに過ごせる社会になっていく」との見方を示す。
安部氏は、社会的弱者の格差を是正する「アファーマティブアクション」を進めるべきだと言う。「ガンガンやって是正を進める段階を早く終わらせて、次のフェアに勝負できる社会を実現したい」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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