昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会であるRAWとSMACKDOWNの放送が日本で開始された。さらに先月27日(日本時間28日)に行われた「ロイヤルランブル」以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEフリーク”の塩野潤二アナウンサーらが加わった。そんな塩野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。今回のテーマは、ファンを惹きつけ、熱狂させる「人生模様」。
■現王者が、少年時代の思い出をトレースして正面玄関から入場する予想外の演出
結局プロレスファンは、その人の人生を見に来ているんだなと思いました。レッスルマニアでのコーディ・ローデスの『ローデス家の物語』然り、今回のサミ・ゼインの人生模様もそうでした。そして、何年見続けても想定外のことが起こるのがWWEです。レッスルマニア前から始まったサミ・ゼインとチャド・ゲーブルの友情物語が、思わぬ方向に転がり始めました。
チャド・ゲーブルは、コーチとしてレッスルマニアでサミ・ゼインのインターコンチネンタル王座獲得をサポートした人物。サミが、その感謝を込めて最初の挑戦者に彼を指名しました。
試合に敗れたゲーブルは、試合後に握手をしたと思いきや豹変し、サミを後ろから襲います。しかもサミの家族の前で。これが何を意味するのか不明ですが、注目すべきは、実力はあるけど燻っていたゲーブルがこのまま良い人で終わらなかった点です。この辺のリアルな人間模様がWWEの面白さです。そりゃ自分のおかげでベルトを取ったサミが、地元でハッピーエンドなんて許せない気持ちもわかりますよね。
一方、カナダ出身のサミ・ゼインにとって、今回のRAWの開催地、モントリオールはホームタウンでした。
サミは25年前、今回の会場であるベル・センターで初めてプロレスを観戦したと言います。プロレス少年だった彼が、夢を叶えチャンピオンになって故郷に帰って来るというリアルなストーリーです。彼はインディ・マットでの下積みが長かったことを考えると、この凱旋は余計に泣けます。
ちなみにこの会場は、プロレス史に残る1997年のサバイバー・シリーズでのブレット・ハートとショーン・マイケルズの不穏試合・『モントリオール事件』の起こった場所でもありました。
それを意識してか、あるいは単純に故郷のスターへのリスペクトか、サミは試合でブレット・ハートの必殺技、シャープ・シューター(サソリ固め)を敢行します。どよめく会場。サミは本当にあの頃のプロレスファンのままなんだなと思いました。
さて、今回私が最もグッと来たのは、サミ・ゼインの入場です。サミは、自分がプロレス少年だった頃を思い出し、会場の正面玄関から入って行きます。レッスルマニアでも見られた、カメラがバックステージからスーパースター(選手)を追っていく演出です。
昔の日本のプロレス中継でも、入場前の集中する選手の表情をカメラが捉えて選手の背中を追って行く演出がありました。WWEの場合は、それをさらに一歩進めて、バックステージで様々なやりとりをしながらそのままカメラと共に会場に出て行きます。
サミは正面玄関から観客のいる売店を通って、客席の通路からリングへ向かって行きました。この臨場感は凄いです。さらに、観客にもみくちゃにされるサミを、上のカメラが俯瞰でとらえる。故郷の人々がいかにサミを愛しているかが、ひと目でわかる斬新な入場でした。
また、バックステージから入場ゲートはこうなっているんだとか、舞台裏を覗けて少し得した気持ちにもなります。これだけ完璧なエンターテイメントでありながら、まだまだ新しいものを通常回のRAWで作っていることに感動しました。WWEは様々なジャンルの人たちを集めて、ものづくりの幅を広げようとしているそうです。素晴らしい取り組みですよね。何年見ても新しい場面に出会えるWWEは、本当にワクワクさせてくれます。
実質WWEの舵を取るトリプルHは、レッスルマニアのオープニングで『新時代』という言葉を残しました。プロレス界ではよく使われる表現ですが、今のWWEにふさわしい言葉だと思います。歴代ヒーロー大集合で、まるで『最終回』のようだったレッスルマニアのフィナーレ。今年のレッスルマニアは、前オーナーの時代から脱却することが大きなテーマだったように思います。
まだまだできることは無限にある。WWEも私たちも。
文/塩野潤二
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