常に革新を求める棋士にとっては、絶好の機会だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2024」は、今大会からより厳選された11人のリーダーがドラフト会議に出席、エントリーチームと合わせて計12チームで戦う。名人経験もある佐藤天彦九段(36)は昨シーズン、同世代で普段から馴染みのあるメンバーを選び、チームとしても機能。ただ今シーズンはドラフト前に後輩から“立候補”があったという。「そういう人を中心に考えたい」と、意気込みを買い指名に前向きだ。
名人にまで登り詰めた居飛車党が一転、振り飛車党に転向。趣味であるクラシック音楽で、数々の作曲家が新たな世界を切り開こうとしてきたように、佐藤九段も新境地を開拓中だ。だからこそ、昨シーズンは戸辺誠七段(37)、三枚堂達也七段(30)と仲良し三人組で団体戦を戦い、いいチームにも仕上げたが、今シーズンは変化を求める。「戸辺さん、三枚堂さんともに、もともと付き合いがある仲の良い人でした。チームを組むことになって本当に想像以上にというか、お互い助け合って相乗効果が出たなという感じでしたね」と、いい思い出は大事にしながら、次のステージに進む。
きっかけは後輩からのアピールだ。「またちょっと昨年度は趣を変えてというか、大きくコンセプトを立てるというわけではないんですけれども『ABEMAトーナメントに出たい』と言ってもらったこともあるので、そういう人を中心に考えたいです。あまりそういうことをリクエストされることも多くはないので、せっかくなので、ドラフト会議で取ることができれば考慮しながらやりたいです」と意気込みを買った。
リーダーを務めるようなトップ棋士は、将棋ファンにもよく知られた存在だが、これからという若手にとって、ABEMAトーナメントに出場することはこれ以上ないアピールの場だ。「これだけその注目される舞台なので、特に若手とかだと出てみたいという気持ちはわかりますし、そこで名をあげられれば周りの評価も高まって、将棋界の中での扱いも有利に運ぶことができることもあります。非常にやりがいのある舞台です」。毎年出場している佐藤九段からしても、熱い思いを持って出場を求める若手は、実にいい刺激だ。
団体戦になってから、羽生善治九段(53)や佐藤康光九段(54)といった、いわゆる「羽生世代」のリーダーがいたが、今年はドラフト会議から大きく若返る。「今年は30代を中心としたドラフトになると思いますので、私たちの世代からすれば、大先輩というかを選ぶことになるかもしれないというか、そういう選択肢がやっぱり現実的に出てきている」と、戦略的には元気な若手と経験・実績豊富なベテランをどう組み合わせるかが、今年のドラフトのトレンドだと読みを入れた。
勝負の世界にいるものは停滞、現状維持を嫌う。常に新しい自分になっていかないと取り残される。自身の将棋を大きく変えた佐藤九段が、ドラフト会議でもまるで新しい視点の指名をしたとしても、周囲は納得だ。
◆ABEMAトーナメント2024 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり今回が7回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士11人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全12チームで行われる。予選リーグは3チームずつ4リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)