サッポロビールが、新たなテレビCMの放送見送りを発表した。振付師でアーティストのRIEHATA氏を起用予定だったが、彼女の過去のブログから未成年飲酒を疑う声が続出。サッポロビールは本人に確認し、「事実とは異なる」との回答を得たと説明しつつ、「総合的に判断した」という。
SNS上では「事実と異なるなら、そのままでいいのでは」「総合的判断とは何か」といった疑問が噴出。タレントや著名人の過去の言動が問題となり、広告起用が物議を醸す例はこれまでもあった。ときに不買運動に発展し、“キャンセルカルチャー”も叫ばれるなか、企業側とタレントに求められるものはなにか。『ABEMA Prime』で考えた。
■本人否定の疑惑もダメ?企業側が過敏に?
大手広告会社に19年勤め、マーケティングや広告事情に詳しい桜美林大学准教授の西山守氏は、前提として未成年飲酒という法律違反の事案であり、特にお酒のCMでは企業側が取り下げを決断するのは致し方ないとの見方を示す。「アルコールのCMは最近コンプライアンスが厳しく、何かあると取り下げになる。しかも出演者の未成年飲酒疑惑となれば、取り下げもしょうがない」。
イレギュラーなのは、本人が否定している点だ。疑惑のまま取り下げが決まれば、説明責任が果たされていないことになる。本来であれば事実認定をした上で、継続か取り下げかを判断することが望ましいとする。
これにコラムニストの河崎環氏は、「ネットでは証拠のようなものが“魚拓”として取られていた。事実関係としては『否定した』ということにして、RIEHATAさんのタレント生命が終わることのないように、きちんと配慮をした上でまとめたと感じる」との見方を示す。
SNS上では「そもそもずっと疑惑があったのに、事前に調査しないのか」といった疑問も出ている。西山氏は「一般的には、事務所と詳細を確認し、過去について検証した上で起用する。しかしRIEHATAさんは独立系で、ブログやSNSで情報発信が多く、過去までさかのぼれない部分はある。またサッポロのCMはシリーズもので、降板しても差し替える素材があり、早く判断できる」と語る。
サッポロビールは番組の取材に対して、広告見送りの判断について、「寄せられた様々なご意見やタレント選定基準等を踏まえ広告展開を見送ることにしました」と回答。採用基準については「採用するタレントの経歴・イメージを確認し、その時点の判断において社会的良識に反する場合は採用しないこととしています」「今後、確認を今まで以上に徹底してまいります」としている。なお、疑惑のまま取り下げたことについての回答はなかった。
■過去の“掘り返し”のラインは?キャンセルカルチャーの是非
河崎氏は、時代背景の観点から今回の事案を考える。「15年前の社会的風潮では、18歳で入学した大学生が、そのまま飲み会に行くことがまかり通っていた。当時のモラルと照らし合わせると問題なかったからと、意識していなかったのではないか」。
西山氏によると、最近の広告炎上トレンドとして、過去の不祥事・発言が蒸し返されがちなことがある。企業がタレントの発信をチェックしきれていない可能性があるほか、“アンチ”が過去を掘り返して攻撃するケースもある。また、疑惑段階でも降板させがちなのも昨今の特徴だ。企業へのバッシングやキャンセルカルチャーがより強くなり、企業側が過敏になっている面もある。
その上で「本来は『あまり過去のことは問うべきでない』というのが大原則」だと指摘する。「ログが残り、過去のことが蒸し返されやすくなり、良いか悪いかは別として窮屈な時代になった。批判されたら下ろすのではなく、基準ははっきりさせたほうがいい。ただ、時代によって基準は変わるため、不適切だと思った情報は発信しないことが重要だ」。
企業は簡単に取り下げすぎなのか。西山氏は「法律違反・差別・ジェンダーに関する発言などはアウト」とした上で、賛否が分かれるものも「なんでも取り下げ」とするのは好ましくない面もあるとする。「あの大企業がそう判断した」とタレントイメージ・人格を傷つけるおそれから、「だったら最初から起用するな」という批判も出る可能性があり、企業側にも「取り下げるリスク」がある。
そうした背景を鑑みながら、今回のケースは「本当に未成年飲酒がけしからんという気持ちから炎上したのかは疑問だ」と投げかける。「ネット上で調べて、批判を楽しむ人たちの調査能力は高い。集合知としてネガティブなパワーが結集し、引きずり下ろそうとする。私は“アンチの批判は気にしないで”と伝えてきたが、そもそもアンチはそのCMの商品を買わない。タレントのアンチであり、商品のアンチではないからだ。一方で、SNSの発信力が高いタレントにはその投稿も契約条件に入れている。プラスとマイナスの両面でレバレッジがかかっている状況だ」。
河崎氏は「ファンがキャンセルできるという成功体験となっている。『私たちの力を見よ』みたいに、過去をほじくって、“魚拓”を取ってさらして、引きずり下ろすのが“文法”になると困る」との懸念を示す。
一方で、西山氏は「降板になったタレントをうまく使う例もある」と語る。「文化や表現は、常にギリギリのラインを攻める。本当に清廉潔白な世界はなく、どこかに毒がある。炎上しても面白いCMを出して、業績が好調な企業もあり、過剰にコンプライアンスやキャンセルカルチャーを受け入れる必要はない」。(『ABEMA Prime』より)
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