【写真・画像】ガザ停戦のカギ握る? “暗殺許可証”を持つ、イスラエル“世界最強”の諜報機関「モサド」とは?「世界中にユダヤ人ネットワーク“サイアニム”を持っている」 1枚目
【映像】「モサド」のバルネア長官
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 ガザでの停戦をめぐり各国政府が協議を続ける中、カギを握ると言われているのが、世界最強ともされるイスラエルの諜報機関「モサド」だ。5月、モサドの長官が仲介役のカタール首相やアメリカCIA長官と会談、人質解放の交渉再開が決まったと報じられて注目を集めた。

【映像】「モサド」のバルネア長官

 モサドの存在が最初に注目されたのは1960年。かつて600万人ものユダヤ人が虐殺されたホロコーストの責任者で、アルゼンチンに潜伏していたアイヒマンをモサドが見つけ出した。その後、アイヒマンはイスラエルへ連行され、絞首刑に。1972年には、ミュンヘンオリンピック開催中に、パレスチナ武装組織がイスラエル選手ら11人を殺害する事件が発生。モサドはこの報復として「神の怒り作戦」を実行。“目には目を”でターゲット11人に手をかけた。

 自国のために手段もいとわないと恐れられる一方、モサドの実態については隠された部分も多い。どんな組織なのか、専門家とともに『ABEMA Prime』で迫った。

■「日本の省庁のように組織の法的根拠はない。逆に言えば何でもできる」

 防衛省防衛研究所の元主任研究官で、日本大学危機管理学部の小谷賢教授は「モサドはユダヤの言葉で“組織”を指す単語だが、今は諜報機関の意味合いも込められている」と解説する。「アメリカのCIAや、イギリスのMI6と似たような活動をしている。表向きは外国で情報収集して分析結果を首相に報告することだが、破壊工作や暗殺工作も行っている。過去に数百〜1000件以上の暗殺工作を繰り返してきた組織だ」。

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 モサドの諜報員を取材してきた朝日新聞国際報道部次長の渡辺丘氏は、「基本的には外国の情報収集がメインだが、暗殺を含む特殊作戦や秘密交渉も行っている」と語る。「外交分野でも、国交がないカタールやハマスなどとの交渉ではモサドが出てくる。それぞれは異なるが、つながっている性質の役割を担っている」。

 渡辺氏による取材から、暗殺計画の例を見る。1997年に起きたハマス幹部の暗殺未遂事件は、イスラエルで相次ぐテロを背景に、当時のモサド長官が、隣国・ヨルダン国内のハマス幹部への暗殺を指揮した。工作員が潜入・毒殺を図るも、ヨルダン国王が激怒し、解毒剤を提供したことで、暗殺は未遂に終わった。

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 渡辺氏は、約5年前までイスラエルに駐在。10人ほどのモサド元幹部に取材した経験から、「成功した作戦はなかなか表に出ず、失敗したケースが表沙汰になる」「現役の人は厳しいが、私が話を聞いたのは元長官。イスラエルは人口1000万人未満の小さい国で、ジャーナリストなどの紹介で比較的取材しやすい」と明かす。

 小谷氏によると、「すべての省庁の仕事ができる“万能の組織”」と呼べるほど、モサドの守備範囲は広い。「日本には“外務省設置法”があり、法律で外交の仕事が定められているが、モサドには法的根拠がない。逆に言えば、首相が命じれば何でもできる」。

■モサドが最強たるゆえん “暗殺許可証”も?

 モサド構成員の採用方法について、渡辺氏は次のように説明する。候補者は2〜3年かけて、人格もチェックしながら選抜。試験では、試験官が「困ったらこの番号に連絡して」と伝えつつ、わざと仕込んだトラブルを起こす。しかし、そこで電話をかけてしまうと不合格になるという。

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 小谷氏は「基本的にスカウトで、志願して入ることはできない。他薦でしか入れない諜報機関はあとロシアだけで、どちらもダントツで能力が高い」と説明。「イスラエルは国民皆兵制で、誰もがいったん軍に入る。そこで目をつけられた人に声がかかる。格闘技や銃撃は重視されず、語学やコミュニケーション能力を見られる」「給料は普通の国家公務員レベルで決して高くないが、やりがいを求めて入る」という。

 さらに渡辺氏は、「18歳の高校卒業時、能力で振り分けられて、インテリジェンスやサイバー分野に優秀な若者が配属されていく。軍での成績や人格的評価が推薦にかかわり、評価された人には招待状が届いたケースも聞いている」と補足した。

 モサドが他の諜報機関と異なる点として、世界中にユダヤ人ネットワーク“サイアニム”を持っていることを小谷氏は指摘。「母国語のバックグラウンドが多様で、外国語ができる。使命感も高く、『命をかけないとイスラエルが危ない』との危機感が、モサドの人間に共有されている。その“必死さ”がクオリティーを高めている」とする。


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 また、モサドによる暗殺は、“レッドページ”と呼ばれる「殺害許可書」によって実行される。「モサドが暗殺する人のリストを作り、長官・首相の決裁を取る。かつてドバイでハマス幹部が殺害されたが、ドバイ警察は『首謀者はモサド長官とネタニヤフ首相である』と指名手配した。トップリーダーが知らないところで暗殺するほうが、諜報機関の暴走になるため問題だ。大抵の国は口頭でGOサインが出るのだが、イスラエルのように書類で形に残す国は少ない」。

 特徴的な体制には成り立ちも関係すると、渡辺氏は解説。「ホロコーストを受けて生まれた、周辺国の情報収集に特化した組織。そのため、『同じことを他の人にやってはならない』との内部の声もある」とした上で、「『他者をよく理解するのが情報収集の基本だが、そこが昔より弱くなっている』と言う幹部や、『軍事に傾斜して、外交が弱まっている』との指摘もある。そういう冷静な見方があることは紹介したい」と伝えた。(『ABEMA Prime』より)

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