【写真・画像】人間の出生を否定する“反出生主義”とは 「幸せがあっても崩れる。なら最初から存在しないほうがいい」 哲学者に聞くその思想、“誕生肯定”の提唱も 1枚目
【映像】「人類は絶滅していくべき」“反出生主義”の女性に聞く
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 出生率が過去最低の1.20を記録するなど、少子化が深刻化する中、注目を集めているのが「反出生主義」。つらいことや苦しいことが多いこの世の中に、新しい命を産み落とすべきではない――つまり「全ての人間は、子どもを産むべきではない」という思想だ。ただ、あくまで「人間が生まれること」への問題視であり、今を生きる人々に自死を促すものではない。

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 ネット上では、「“子どもを不幸にしたくないから生みたくない”はめちゃくちゃ共感できる」「人生には嬉しいことよりも圧倒的に辛いことが多すぎる」などの声があがる。なぜ反出生主義に共感するのか。生まれることが不幸ならば、生きる意味とは何なのか。『ABEMA Prime』で当事者とともに考えた。

■幼少期から「生まれなければ良かった」という感覚

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 30代の福原さんは、幼少期から「生まれなければ良かった」と感じていた。「幸せなことがあっても、災害や戦争、病気、事故でガラガラと崩れることは珍しくない。だったら最初から存在しないほうがいい」。

 細かいことが気になる上、かんしゃく持ちの性格だったため、家庭や学校にもなじめず、常に孤独を感じていたという。「『お誕生日おめでとう』と言われると、『誕生したからつらいんだよ』と複雑な気持ちになる。『なぜ私だけうまくいかないのか。生まれてこなければ、全ての苦しみはなかった』と思っていた」。

■「99人幸せでも1人が不幸なら、100人生まれないほうがいい」

 30代の田中さんは、「人類は子どもを産むべきではない。ゆるやかに絶滅したほうがいい」「この世は争いや差別だらけで、格差も大きい。子どもを産むのはギャンブル」と考えている。21歳までは子どもを産むイメージがあったが、徐々に考えが変化していった。要因は「看護師として精神科病棟で働いた経験」「風俗業界で様々な格差を見る」「発達障害で生きづらかった」こと。

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 特に「学生時代の病院実習」が大きかったという。「看護師免許を取るための実習で、生まれてくる命、消えていく命に出会ったことが、命について真剣に考えるきっかけだった」。10代までは「社会でよしとされる価値観を疑わず、そのまま自分の中に落とし込んでいた」といい、「社会の深い部分を見なければ、『子どもを産むのはいいこと』との考えを疑うことはなかった。子どもを産み、今頃は子育てをしていたかもしれない」と語る。

 また、「99人の幸せな人がいても1人が不幸なら、100人生まれないほうがいい」との考えも持っている。これにパックンは、「幸せは足し算で、相対的にプラス・マイナスになると思うが、かけ算に感じているのか。99人分の幸福より、1人の不幸が優先されるべきということか」と問いかける。


 田中さんは「かけ算とは少し違うが、幸福と不幸は足し算できるものではない」と説明。「私の経験上、不幸で苦しんでいる人から『少数の人が苦しむのはやむを得ない』という発言を聞いたことがない。犠牲になっている人がたとえ1人だけだったとしても、その苦しみを軽んじることは倫理に反する」と答える。

 今後、考えが変化する可能性については、「私が幸せだろうと不幸だろうと、戦争や差別、貧困はなくならない。自分自身の幸福度と反出生主義はあまり関係しておらず、考えが揺らぐことは今後もないだろう」と否定した。

■哲学者「反出生主義は500年後もあるだろう」 “誕生肯定”も提唱

 「反出生主義」を研究する哲学者の森岡正博氏は「予備知識がないと、『反出生主義の考えを持つ人は、家庭問題や悲惨な事故・災害の経験がある』と思いがちだが、そうした誘導には反対だ」と主張する。「ふと思いついたり、理詰めで考えたりする人もいる。学術研究が進んでいないため、経験が影響するかは客観的にわかっていない。直感は大体正しいと思うが、学者としては『わからない』と言うしかない」。

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 反出生主義が普及した背景には、(1)説明に納得した上で同意する「インフォームドコンセント」が一般化した、(2)SNSの発達で少数意見が見えるようになった、(3)経済問題など将来の見えない社会で、子どもを産もうと思わなくなった、(4)社会の脱宗教化と道徳意識の向上が進んだといった4つの要因がある。
森岡氏によると、「大学で話すと、『よくわかる』と賛成する学生もわりといる」という。

 田中さんの「99人の幸せな人がいても1人が不幸なら、100人生まれないほうがいい」という考えは、99人が1人を助ける社会であればいいのではないか。森岡氏は「宇宙に誰もいない中で、次の瞬間に『99人の幸せな人と、1人の不幸な人が生まれた』『0人のまま、誰も生まれなかった』という2つの宇宙を考えた時、後者のほうがいいという考え方だ。前者の場合、産む・産まないは『生み続けるのが良い』と思う99人にかかる責任であり、1人でも不幸な人がいたらその人を全員で救う義務がある」との考えを述べた。

 ただ、反出生主義自体は紀元前からあり、「最近出てきた話ではない」と指摘。「人間が自意識を持ってしまったことが全ての根源で、500年後もその時の形として存在するだろう。人の集団のあり方に関係しているのではないか」と推察した。

 一方で森岡氏は近年、「誕生肯定」の概念も提唱している。「私の中には、この世に生まれないのが一番よかったという“誕生否定”があるが、もう生まれてきてしまっている。残りの人生で『生まれてきてよかった』と思い、生まれてきたことにイエスと言える“誕生肯定”をもって死にたい。そうした考え方について、もっと多くの人と話したい」と語った。(『ABEMA Prime』より)

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