「はるかぜちゃん」の愛称で知られる俳優で声優の春名風花さんへの名誉毀損をめぐり、横浜地裁が5月、被告の男性に327万5000円の支払いを命じた。被告は2015年から6年間にわたり、X(旧Twitter)などで「合法的に葬り去りたい」「お前みたいな奴ほんと要らんからとっとと辞めろ辞めちまえ」のように、春名さん親子を攻撃する投稿を1000件以上行っていた。
【映像】1134投稿のうち唯一誹謗中傷と認められなかった投稿
春名さん側は、ネットやSNSの投稿で名誉を傷つけられたとして、投稿者の男性に対して約3600万円の損害賠償を求めていた。今回の支払命令を受けて、春名さんは「これは“誹謗中傷”というだけではなく、僕の10年以上積み重ね続けた傷に対する金額」とポスト。ネット上では「賠償金が安すぎる」との声も多数見られる中、『ABEMA Prime』では春名さんと誹謗中傷について考えた。
■「“お金もらえていいね”と言われたことも…」 1000件超の誹謗中傷を訴え、決着の経緯
春名さんが裁判を起こした相手は3人で、今回の被告が「一番訴えたかった相手」だったという。「最初の1人は約315万円の示談金で決着がついた。2人目は1件のみ訴えて、賠償額は30万円ほど。今回は1000件以上投稿した相手に、1件3万円の計算で訴えた。Twitterを始めた9歳から殺害予告が相次ぎ、今回の被告からは2015年、14歳ごろから誹謗中傷されてきた」と話す。
しかし、実際に命じられた賠償額はその10分の1ほど。「1人目の約315万円の示談が決まった時、ネットでは『300万円以上もらえていいね』『300万円もらえるなら、自分も誹謗中傷されたい』と言われたこともあった。今回は示談と形式は異なるが、世間から『安すぎる』と言ってもらえたのはうれしい」。
被害を警察に相談しようにも、苦労の連続だった。「近所の交番に相談しても、そもそも『SNSやTwitterって何?』と返される状態だった。高校生になった2018年ごろから弁護士に相談し始めて、刑事事件としてようやく警察とつながった」。しかし、壁もあった。「最初の示談相手を刑事告訴しようとしたが、告訴状が警察に届かず返ってきた。弁護士の方が『何とかする』というのと、『そのまま送り返された』と私がニュース番組で話したことで、警察の上層部に届き受理してもらえた経緯がある」と明かす。
今回の裁判では、被告が行った1134投稿の全てに反論と検証を行った。「弁護士が1件ずつ確認して、それに対する反論を考えた。このうち、受理されなかったのは1件だけ。相手側も反論したが、裁判官は『ほぼ誹謗中傷だ』と判断した」。
今回の被告はある種の正義感から動いていると、春名さんは感じていたという。裁判を起こしたのは「金銭目的ではなく、もう二度と同じような発言をしてほしくないこと」で、「謝罪の言葉が聞けるわけでもなく、否定の連続でつらかった。これを乗り越えれば、私には嫌なことを言うかもしれないが、私の周囲を攻撃することはきっとないだろう」との思いを語った。
■どこからが誹謗中傷? ひろゆき「誹謗中傷する人も“正義感”があるのでは」
今回の裁判では、ほとんどの投稿が誹謗中傷と認められたが、どこからが“誹謗中傷”と言えるのかの線引きは難しい。例えば、とある店のラーメンがおいしくなかった時、このような発信が考えられる。
(疑問)「おいしくなくない?」
(感想)「まずかった」
(指摘)「麺を変えたほうがいいよ」
(論評)「店主は茹での修行が足りない」
(人格否定)「もうラーメン作る資格ないよ」
(脅迫)「次こんなまずいラーメン出したら殺すぞ」
(無関係)「店主嫌い!ぜったい性格ゴミ!」
なんもり法律事務所の南和行弁護士は上記を踏まえ、「『麺を変えたほうがいいよ』と書くだけなら、人格の侵害とは言えない。ただ、そのラーメン店の悪口大会が行われていて、『ここに書くと攻撃になる』と認識されているネット掲示板の投稿ならば、文脈から一定の権利侵害が認められることもある。どういう種類のSNSか、ある投稿に対するリプライなのかなどで判断する」との見方を示す。
そのため、「著名なラーメン評論家が自身の立場を自覚した上で、飲食の口コミサイトで『ここはおいしくない』と書くのは、誹謗中傷にあたらないと思う」とした。
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は、「誹謗中傷する人も、正義感があるのではないか。自分自身が正しいと思って投稿している以上、人によって基準は異なる」と指摘する。「ラーメンがまずかったと書く人も、春名さんをたたく人も、正義でやっている。『これはアカン』と思って誹謗中傷している人のほうが少ない」。
春名さんは「弁護士は『社会常識的に考えて、こうである』と反論するが、『周囲からどう捉えられるか』の情報が多いほど、裁判官に認めてもらいやすい。他のユーザーから見て『この人は悪意を持っている』とわかる証拠が多ければ訴えることができる」と自身の経緯を振り返りつつ語る。
では、裁判の決着を受け、社会にどのようなことを望むか。「厳罰化が進むと、自分の意見を広めるために、異なる意見をつぶしていく人も出てくるだろう。どれだけ良い法律でも、悪用する人はいる。厳罰化は求めないが、賠償額が『1件3000円』の現状では、訴えたい人も消極的になってしまう。訴えるハードルが低くなるのはうれしいが、裁判官には1件1件ちゃんと判断してほしい」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
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