将棋の第9期叡王戦五番勝負第5局が6月20日、山梨県甲府市の「常磐ホテル」で行われ、挑戦者の伊藤匠七段(21)が藤井聡太叡王(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖、21)に勝利した。この結果、シリーズ成績を3勝2敗で制した伊藤七段が叡王位を奪取。「1つ結果を出せたことは良かった」と語り、終局後に行われた感想戦冒頭では目に涙をにじませる場面もあった。
将棋界の歴史に新たなスターの名前が刻まれた。藤井叡王と伊藤七段、3度目の同学年対決となった第9期叡王戦五番勝負では、これまで挑戦した2期のタイトル戦から“三度目の正直”を目指す伊藤七段が躍進。初戦は落としたものの、第2・3局で連勝を飾り、流れを掴んだ。
第4局では藤井叡王が底力を見せつけるように快勝を飾り、2勝2敗のフルセットに持ち込まれることとなったが、先に“王者”を追い詰めた伊藤七段の心は折れない。大一番では、振り駒の結果で後手番となったものの、両者得意の角換わりで激戦を繰り広げた。超攻勢に出た藤井叡王に対し、長く我慢を強いられる展開となった伊藤七段。「途中はこちらだけ終盤戦のような感じになってしまって自信のない展開が続きましたが、なんとか辛抱強く指すことができた」。攻め合いとなった終盤で訪れた勝機をしっかりと捉え、伊藤七段がついに八冠王の牙城を破ってみせた。
伊藤七段の21歳8カ月での初タイトル獲得は、歴代8位の快記録。2020年の棋聖戦五番勝負において17歳11カ月で初戴冠した藤井叡王の背中が遠かったが、ついに同じタイトルホルダーとして肩を並べる日が訪れた。終局後インタビューでは、「今シリーズも苦しい将棋が多かったので、勝因についてはちょっとわからない」と新叡王となった実感はまだ沸かない様子。それでも、「やはりひとつ結果を出せて良かった」と喜びを噛みしめていた。
終局後に行われた感想戦冒頭では、一局を振り返るにつれて顔を赤く染めてわずかに目に涙をにじませる場面も。これまでの苦しい道のりからついに訪れた伊藤七段の歓喜を慮り、ABEMAの視聴者からは「本当におめでとう」「泣いてる~」「もらい泣きしちゃう」「新叡王、おめでとうございます!」と祝福のコメントが殺到していた。
伊藤新叡王は、タイトルホルダーとして来期は挑戦者を迎える立場に。「まだだいぶ先のことではあるんですけど、開幕までにしっかり調整できるようにしたいと思います」と語っていた。
◆伊藤 匠(いとう・たくみ) 2002年10月10日、東京都世田谷区出身。2020年10月1日に四段昇段。2021年度には新人王戦を制し、将棋大賞の新人賞、勝率一位賞をダブル受賞し、将棋界の次世代を担うスター候補として注目を集めた。さらに2023年度には、竜王戦七番勝負でタイトルに初挑戦したほか、棋王戦五番勝負にも挑戦。2024年には、新年度の幕開けとなる叡王戦五番勝負で同学年の藤井叡王を3勝2敗で破り、自身初のタイトル獲得を果たした。通算成績は146勝51敗、勝率は0.741。
(ABEMA/将棋チャンネルより)