間違えなければ勝ち、という局面が多数あるのが将棋だが、考慮時間が約10秒しかない極限状態で、それを成し遂げるのは至難の業だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2024」予選Cリーグ第2試合、チーム藤井 対 チーム天彦の模様が6月22日に放送された。第5局ではチーム藤井・羽生善治九段(53)と、チーム天彦・斎藤明日斗五段(25)が対戦。最終盤、持ち時間が約10秒しかない状況が続き、仲間から「わからない!」と悲鳴が飛ぶ中、羽生九段が見事に即詰みに討ち取り、ファンから大絶賛されることになった。
タイトル99期、七冠独占、永世七冠と数々の大記録を打ち立てた羽生九段。現在は日本将棋連盟の会長職もこなし、対局に公務にと、多忙を極めた日々を送っている。それでも大不振だった2021年度(14勝24敗 勝率.3684)から復調。前人未到の大記録であるタイトル100期達成に向けて、各棋戦で力強い将棋を見せ続けている。自らの発案で始まった同大会も、若手が有利と言われる超指しで強さを発揮。健在ぶりが際立つ結果を残している。
見ている者も息詰まる局面の連続になったのが第5局だった。羽生九段の先手番で始まった一局は、後手の斎藤五段が角交換型振り飛車からダイレクト向かい飛車を採用。対抗形の出だしになると、序盤は斎藤五段がポイントを得た。羽生九段にとっては我慢の展開が続いたが、中盤から終盤にかけてはABEMAの「SHOGI AI」でも勝率50~60%あたりで、先手と後手を行ったり来たり。いつどちらに大きく傾いてもおかしくない難解な局面となると、観戦していたチーム藤井・青嶋未来六段(29)も「全く何をやればいいかわからない(苦笑)。手番をもらってもわからない」と、笑い出してしまうほどだった。
斎藤五段が王手、王手と攻め立てる中、チェスクロックの音に急かされつつも間違えることなく受け止めた羽生九段。すると手番が回ってきたところで、斎藤玉に即詰みが生じた。しかし持ち時間は約10秒。1手指すごとに5秒増えるとはいえ、5秒間で指して現状維持という痺れる状況だ。間違えたら即逆転負けということは羽生九段もわかっていただろうが、141手目から王手ラッシュをかけると、見事に153手で勝利。この瞬間、青嶋六段が「いやあああ」、藤井聡太竜王・名人(王位、王座、棋王、王将、棋聖、21)も「はああああ」と言葉にならない声を出し、視聴者からも「素晴らしい」「ハラハラしたわ」「見応え十分!」「すごい戦いだった」といった声が相次いだ。
対局後、羽生九段自身は「だいぶ苦しかったですね。私も何が起こっているか、わかっていなかったです」と苦笑いするほどの大熱戦は、改めてフィッシャールールの醍醐味と、レジェンドの底力を感じさせる一局となった。
◆ABEMAトーナメント2024 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり今回が7回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士11人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全12チームで行われる。予選リーグは3チームずつ4リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)