中学生の思い出の1ページとなる修学旅行。半世紀以上も前から定番の旅行だが、今、京都の旅館の大きな負担となっている。
京都の「旅館こうろ」では、年間の予約のうち半分が修学旅行の生徒たち。一般客とは違い、2年前から予約が入るため、経営の見通しが立ちやすい。そんな中、頭を悩ませていたのは“物価高”だ。旅館の修学旅行生1人あたりの平均単価は9300円。企業努力で採算はとっているが、1500円から2000円程度単価を上げたいという。
「旅館こうろ」の北原茂樹会長は「特に今困っているのがお米の値上がりだ。野菜も今年急にキャベツが全然とれないとか、かなり厳しい状況ではある」と述べた。
一方で、現在京都で深刻化しているのが、多くの外国人観光客が詰めかけたことによる、オーバーツーリズムの問題。そんな混雑の中、そもそも修学旅行先を見直す必要はないのか。旅館・ホテルが物価高にあえぐ中、京都への修学旅行の是非を『ABEMA Prime』で考えた。
■「中学生の京都・奈良への修学旅行は見直すべき時期」
修学旅行生を受け入れる京都の旅館が、物価高で厳しい状況にあると話題になっているが、番組では約20件の旅館に取材したところ、経営努力によって赤字にはなっていないものの、物価高や少子化の影響は大きいという。
背景には修学旅行の価格設定を決める時期に問題がある。日本修学旅行協会によると、一般的には1年半~2年前に契約するため、その後に価格を決めることができにくく、生徒の人数も減っているため、全体の収益が下がっている。また、物価高で近距離に変更する学校も出始めているなどが実情として挙げられる。
「アーストラベル水戸」代表の尾崎精彦氏は「中学生の京都奈良への修学旅行は見直すべき時期」といい、「旅費が今8万5000円ぐらい。その中で、八ツ橋をつくる体験や舞妓さんを旅館に呼んで、所作を学んだりする体験だけで2200円だ。8万5000円のうちの体験費用で使えたのが約2.5%。本来であれば、京都らしい体験にたくさんお金を使った方がいい。今、旅費が上がっているので、大事な体験を絞るしかない状況になっている」と問題視した。
■京都のオーバーツーリズム化
日本修学旅行協会「教育旅行年報データブック2023」では、中学校の修学旅行先の1位が京都、2位が奈良。全国修学旅行研究協会「2023年度調査研究報告」によると、学校側が感じる修学旅行の課題として「インバウンドが増える中、京都観光の自由度が狭くなっている」「特に京都方面は観光客が多すぎて実施内容に支障をきたす」「旅行方面を分散させるのも手段の1つだが京都・奈良の魅力もあり難しい問題」が挙げられる。
オーバーツーリズムが起こっている京都を修学旅行先とすることについて、「TeaRoom」代表、裏千家茶道准教授の岩本涼氏は「各地の誘致が足りない話だと思っている。それこそ、京都に無思考に行ってしまうこともあると思う。その学校がどういう方針を立てているのかということと、理念が合う都市を選んでいくと、体験としてはいいのではないか」との見方を示した。
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「京都の価値や歴史、存在意義を否定する日本人は誰もいないと思う。一方で、現状の京都は、完全にテーマパークになってしまっている。それが肥大した結果、観光客向けのコンテンツを見に行くことが旅行になってしまっている。それは本当に旅行の価値があるのか」と疑問を呈す。
「大西常商店」女将の大西里枝氏は「観光客は多いが、清水寺、金閣寺、四条河原町という点でしか見られていない。私たちは普通に暮らせるし、混んでいない所もある。京都の反省点として、観光名所と言われる所以外のメニューをたくさん持っていない、もしくはちゃんと広報できていないところ」と答えた。
さらに「京都市は努力して京都に修学旅行生を安全、安心して来てもらえるように、コロナの時も24時間365日、修学旅行生のためだけにコロナダイヤル(きょうと新型コロナ後遺症相談ダイヤル)を作った。安心して来てもらえる取り組みは、他の都市、民間の事業者さんも含めてしっかりしているのも原因だと思う」と付け加えた。
■日本文化を知ることの必要性
大西常商店では、修学旅行生に対し、京扇子作りや茶席体験などをしている。大西氏は「旅館の夜の時間に絵付け体験や、生活文化にも触れてもらって、例えば襖の開け方、なぜ茶室ではこう歩くのかとか、マナーみたいなところもお話させていただく」と説明した。
日本文化を知ることの必要性について、佐々木氏は「我々は京都の歴史が深いと思っているが、そんなこと知ったこっちゃないのが中学生。歴史よりも直感で理解できる体験のほうが強く残る。ちゃんと学校側が設計していかなきゃ駄目なんじゃないかと思う」と述べた。
大西氏は「今覚えていなくてもいいけど、頭の片隅に置いておいたほうがいいことはやっぱりある。その最初の一巻きができるのが、私たち京都の観光事業者の役割だと思っている。来ていただける方には、そういったかたちで文化や文脈をお伝えできたらいい」とした。
(『ABEMA Prime』より)
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