【WRC】第8戦 ラリー・ラトビア(7月18〜21日)
世界最高峰のWRC(世界ラリー選手権)で、日本人ドライバーがライバルチームを思いやり、ドライバー間の信頼関係を感じさせる、ラリーならではの振る舞いが注目を集めている。
ラリー・ラトビア競技3日目(日本時間20日深夜)のSS(スペシャル・ステージ)14「ベクピルス」は、ゆるやかなコーナーが幾重にもつながった高速コース。路面は農道のような砂利道で、すべてのドライバーが激しい砂けむりを巻き上げながら疾走する姿が印象的だ。
しかし、前日終了時点で6位と追い上げが期待されたオィット・タナックのヒョンデi20Nラリー1が、バルーンタイプのアーチにマシンをひっかけてしまうアクシデントが発生。コース中央で走行不可能な状態に陥ってしまったため、一時的に競技は赤旗中断となってしまった。
WRCでは前走車のフィニッシュを待たずに次の競技車両がスタートするため、タナック以降に出走したマシンが、停車しているヒョンデのマシンに通せんぼされる形に。すると、後方のマシンも慣れたもので、ゆっくりとコース脇の草むらにマシンを入れながらリタイア車を回避して先へ進む様子が見られた。
そして、次に追いついてきたのは勝田貴元(トヨタ)のマシン。勝田のGRヤリスも上手にコース脇を追い抜いていくかと思いきや、なんとヒョンデの横にマシンを停車。コ・ドライバーと勝田が順番にマシンを降りると、タナック本人に状況を確認するようなシーンが見られた。
解説で全日本ラリー選手権に出場経験のあるコ・ドライバーの小坂典嵩氏によれば、「基本的にWRCで前走車がアクシデントで停車しているときは、マシンから火が出てないかなど乗員の安全が確認できれば、追い抜いて行っていいことになっている」とコメント。
さらに、「ラリーカーには『OK/SOS』ボードが用意されている。ボードを出して後方に状況を知らせられない際には、車外でサムアップをして後車に知らせる方法もある。それらが見られなかったので勝田は確認したのかも」と言及した。
勝田はフィニッシュ後のインタビューで、安堵の表情とともに「(タナック組に)怪我がないことを願ってたよ」とナイスガイな発言。ちなみに、タナックは2019年にトヨタで世界チャンピオンを獲得しており、その頃チームメイトだった勝田を今でも弟のように可愛がっている間柄だ。
そもそもモータースポーツはチームメイト同士でもライバル関係にあることが多い。ドライバー同士が複雑な人間関係になりやすい世界だが、それも踏まえて今回の勝田のシーンは美しく、「いざとなったら助けてくれるのはマーシャルではなく後方のマシン」という、ラリーならではのドライバー同士の信頼関係を象徴する紳士的な光景となった。
(ABEMA『WRC 世界ラリー選手権 2024』/(C)WRC)