バイデン大統領が11月の大統領選から撤退を表明し、後継にハリス副大統領を推薦した。ハリス氏とはどのような人物なのか? この先どうなっていくのか? ANNワシントン支局の梶川幸司支局長に聞いた。
━━バイデン氏は新型コロナウイルスに感染していたが、その中で撤退を決定したのか?
「バイデン氏は先週新型コロナウイルスに感染し、デラウェア州にある別荘で療養中だった。この週末にも撤退を決断するのではないかという観測があった一方で、選挙戦を続ける意思は硬いという見方もあり、我々も緊張感を持って見守っていたが、これほど重大な決定をまさかSNSで発表するとは考えていなかった」
━━SNSでの発表は異例なことなのか?
「とても異例だ。通常、これほど重大な決断であればホワイトハウスの大統領執務室『オーバルオフィス』から国民向けに演説し、テレビ中継される。しかし、バイデン氏は自らのSNSに声明の文書を貼り付ける形で公開した。ニューヨーク・タイムズによると、バイデン氏は土曜の20日夜に側近二人を呼び、撤退を伝えるメッセージ作りに着手したという。最終的に決断したのは21日になってからで、後継に推薦したハリス氏に伝えたのも21日だったという。撤退を知っていたのは本当に一握りの側近で、SNSで発表されるまで情報が外に漏れなかった。バイデン氏はテレビ討論会で“失敗”した後、信頼していた盟友からも支持を得られず孤独を感じ、報道を見て怒りを覚えたという。そのいった経緯から、情報を自らコントロールできるSNSによる発信を選んだのかもしれない」
━━バイデン氏は撤退の声明でどんなことを伝えたのか?
「バイデン氏は声明の中で、自身の実績をあげた上で『再選を目指してきたが、身を引いて大統領の残りの任期に専念することが、民主党やアメリカにとって最善だと考えた。決断の詳細は今週、国民に話す』としている。また、それに続く投稿でハリス副大統領を『党の候補者として全面的に支持し、推薦したい。民主党は今こそ団結して、トランプ氏を打ち負かす時だ』と訴えた」
━━なぜ、このタイミングだったのか?
「バイデン氏は19日に支持者向けのメッセージで『来週、選挙活動を再開することを楽しみにしている』と伝えていたが、その前日からオバマ元大統領やペロシ元下院議長といった長年の盟友が『バイデン氏じゃ戦えない』と周辺に伝えていたとの報道が相次いだこともあり、民主党内で撤退を求める議員が急増した。また、有力な献金者からの資金提供もストップしかねないなど、先週から“包囲網”は狭まり、撤退を求める圧力に耐えられなくなっていたのでは。バイデン氏としては選挙戦を続けたいという思いはあったものの、民主党内の混乱を最小限にとどめ、トランプ氏への反転攻勢を図るにはタイミングが重要だった。来月の民主党大会まで残された時間は少なく、トランプ氏の勢いも増すばかりであるため、このタイミングで決めるしかなかったのだと思われる」
━━ハリス氏はどんな人物か?
「ハリス氏は59歳。黒人・アジア系としても、女性としても初の副大統領だ。もし、民主党の候補になって秋の選挙でトランプ氏に勝利すれば、ヒラリー・クリントン氏がなし得なかった女性初のアメリカ大統領となる。ハリス氏にはカリフォルニア州で検事を務め、上院議員にもなった経歴があるが、政治経験は浅く、副大統領として目立った実績を挙げられなかったことから、評価は必ずしも高くなかった。しかし、バイデン氏がテレビ討論会で“失敗”した後、バイデン氏に代わる候補者として民主党内で待望論が高まった」
━━ハリス氏の他に候補はいないのか?
「ハリス氏で決まったわけないが、バイデン氏から後継として推薦を受けたハリス氏が最有力であることは間違いない。ハリス氏は現職であるバイデン氏の推薦を得たことで、党大会に全米から派遣される代議員の支持を得やすくなり、また、『バイデン・ハリス陣営』として集めた巨額の献金を自身の選挙資金として使うことが可能となる。民主党内ではニューリーダーとされる人物もいるが、視線は4年後の2028年を向いている。現在の混乱した状況でトランプ氏と戦うのはリスクが高く、共和党の勢いを止めるにはハリス氏で一本化することが最善と考えているようだ」
━━今後、民主党はどういう流れで候補者を決めるのか?
「本来は各州での予備選を戦い勝ち残った人を候補者とするが、バイデン氏が降りたことでそのプロセスが消えてしまった。また今回、民主党はオハイオ州の投票用紙を巡る特殊な事情から、『党大会の前にオンラインで候補者を指名しよう』と5月に決めており、その具体的なルールを今週決めることになっていた。これらの事情から、今後8月1日〜7日までのオンライン投票で決まるか、あるいは8月19日からの党大会で決めることになるかはわからない。だが、ハリス氏がどのような形で選ばれるにしても、民主党の支持層や国民に対してオープンで透明性のあるプロセスを示す必要がある。その設えをどう整えていくかが民主党の課題だ」
━━トランプ氏はハリス氏についてどのように発言しているのか?
「トランプ氏は自身のSNSに『民主党が今後、誰を擁立しても同じことの繰り返しだ』と投稿し、CNNの記者には『ハリス氏の方がバイデン氏よりも倒しやすい』とも言っている。だが本音は『このままバイデン氏が相手だったほうが良かったと』と考えているだろう。共和党関係者も『バイデンがもう少し粘ってくれると思っていたのに』と恨み節をこぼしている。トランプ陣営は早速ハリス氏を標的にしたCMを流し始め、『ハリス氏はバイデンの衰えを知っていたのに隠していた』『不法移民の急増はハリスに責任がある』と攻撃している。ハリス氏は副大統領として移民問題・国境対策を担当していたものの、ここ3年で移民が過去最多を更新している。今後、共和党は特に移民問題でハリス氏を攻撃すると思われる」
━━トランプ氏対ハリス氏を世論はどう見ている?
「ニューヨーク・タイムズの最新調査では、対トランプ氏ではバイデン氏よりもハリス氏のほうがいい数字が出ている。民主党はバイデン氏の撤退表明後、5時間以内にオンラインで2750万ドル(43億円)を集めたというが、ハリス氏なら寄付しないという大口献金者もいる。また、ハリス氏は検事出身で舌鋒鋭いため、トランプ氏がハリス氏との討論会を避ける可能性もある。ハリス氏がトランプ氏に勝てる保証はないが、現時点では民主党としてはハリス氏に賭けるより他ない状況だ」
━━ハリス氏が大統領になればアメリカ史上初の女性大統領だ。国民の期待感は?
「ハリス氏は多様性をアピールし、バイデン氏に幻滅した支持者を取り戻す力があるが、中西部の激戦州で白人男性労働者の支持を得られるかは疑問だ。また、副大統領候補が誰になるかも注目され、ハリス氏にない属性を補完する人物がキーとなる」
(ABEMA/倍速ニュース)
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