30歳を過ぎてから平凡なギルド事務員から冒険者になることを決意した主人公のリック・グラディアートルは、大陸最強の伝説のパーティ「オリハルコン・フィスト」による2年間の壮絶な訓練を経たことで、新米ながら最高ランクの戦闘力を有していた。10代で冒険者になるのが通例となっている世界で、32歳の新米冒険者・リックはEランク昇級試験会場で本人の自覚がないまま、圧倒的な戦闘力で快進撃をみせる。
現在放送中のTVアニメ『新米オッサン冒険者、最強パーティに死ぬほど鍛えられて無敵になる。』は、リックを中心とした冒険者たちが織りなす痛快アクションコメディだ。放送に先駆けたタイミングで、リックを演じる声優の佐藤拓也と「オリハルコン・フィスト」のメンバーで「断裁剣姫(だんさいけんき)」の異名を持つハーフダークエルフのリーネット・
エルフェルト役大西沙織にインタビューを実施した。
リックが新米のFランクながら最高位のSランク相当の戦闘力を得た訓練は、先輩冒険者によって死亡と蘇生を繰り返しながら行われる壮絶な内容。コメディタッチで描かれていることで痛快さがありながらも、リック本人の努力によって圧倒的な力を獲得したという説得力がある。
それほどの訓練とは言わずとも、声優という実力が必要な職業で活躍していくうえで、佐藤と大西にも厳しい修行の日々があったのではないかと思い、今につながる経験になったエピソードについて伺ってみることに。まずは佐藤に話を聞こうとすると、大西も「ぜひ聞きたいです!」と興味津々。
すると佐藤からは「現在進行形で、自分たちが生まれる前から声優の世界でお芝居をされている先輩方がみなさんお元気ですから」とリックの境遇にも準えた回答が。大西も「確かに(笑)」と合いの手を入れつつ、話は続く。
「その先輩方の背中を見させていただくと、鍛えられたなと言いますか、リックの第1話冒頭のセリフそのままですが『まだまだ先輩たちには遠いな』という気持ちしかないですね。逆にその先輩方が元気で背中を見せ続けてくれるからこそ、まだまだ自分たちもやれることがあって伸び代を信じられると思っています。そんな気持ちでいられることは、とてもありがたいです」と感慨深く答えてくれた。
声優という職業は定年がないため、80歳を超える大ベテランも現役で活躍していることは声優ファンならずとも周知の事実だろう。佐藤の実感が込められた話に頷きつつ、大西にも同様の話を伺う。
「私の世代では、現場で何時間も同じセリフをできるまで演じるというような伝説になるようなエピソードはなくて。リックは先輩たちにそれこそ死ぬほどきついことをやらされて、それに耐え抜いた結果として今の能力を獲得していると思うのですが、私たちは誰かに言われることなく自分で感じて気づいて直していかないと生き残れないと言いますか」と、コンプライアンスにも厳しくなった現代に活躍する若手声優ならではの厳しさがあることを明かしてくれた。
続けて「現場での対応も、自分で学んで変えていかないといけないことが多い時代の声優なのかなって個人的には感じています。リックみたいにビジバシと鍛えられて、泣きながら演じるというような経験はないですね」と語る。
佐藤も「(リックのような経験とは)別の厳しさがあると思います。誰かに言ってもらうことで気づけることもあるかもしれませんが、自分自身を客観的に見て鍛えていかなきゃいけないということは、別のベクトルだと思いますし、どっちが良いとも悪いとも言い切れないですよね」と述べる。
この大西と佐藤の見解に、声優という職業に限らず自分で気づいて変えていかないといけない環境は、ほかの仕事でも多くなってきているのでは? と深堀って質問を重ねる。大西は「たしかに、どの仕事でも今はそうかもしれないですね」と同意すると、佐藤は「僕なんか不安ですもん。言われないから。(自身が年長となる現場では)言ってくれる先輩と一緒になれないから、不安なんですよ」と率直な心情を吐露。これには大西も「わかります!」と頷いていた。
わかりやすい答えが出せないことではあるが、インタビュー中に佐藤は本作について「リックがものすごく強くなって無双するというお話ではなく、努力と根性で一生懸命がんばった人が報われていくお話なのだということがストレートに伝わってきました。努力したことが報われることはすごく素敵なことで、どの世代の人にとっても共通の思いとして伝わるのではないかと思っています」と述べていた。
リックのような厳しい修行をする努力、佐藤のように先輩の背中を追い続けて自身を高めていく努力、大西のように自ら客観視して学んでいく努力。やり方はそれぞれであっても、その努力がそれぞれの形で結果に結びついていることは、我々にとって大きな希望となるのではないだろうか。
TVアニメ『新米オッサン冒険者、最強パーティに死ぬほど鍛えられて無敵になる。』を見て、好きなことにもう一度挑戦しようと思った人は、ぜひそれぞれの努力を糧に、リックのように突き進んでほしい。
(C)岸馬きらく・ホビージャパン/2024新米オッサン冒険者製作委員会
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取材・写真・テキスト/kato