現在、決して良いとは言えない日中関係。これまでも中国による度重なる領海侵犯が問題視されてきたが、今年8月には中国軍機による初めての領空侵犯が確認された。緊張感が高まる中、9月18日には中国・深圳で、日本人学校に通う男児が登校中に刺され死亡する事件が発生し、現地の日本人に不安が広がった。
中国外務省の林剣副報道局長は「これまでにまとめた情報によると、これは個別の案件だ。類似の事件はどの国でも起こりうる」とコメント。一方、日本の上川陽子外務大臣は「登校中の児童に対して、卑劣な行為が行われたということに対して、誠に遺憾であると思っている」と述べた。
SNS上では「日本は中国に甘い。もっと強硬な対応を求める」「『遺憾』の一言で終わらせるのいい加減やめろ!」という疑問の声があがっているが、日本の対中姿勢はどうあるべきか。『ABEMA Prime』で議論した。
政治学者で東洋学園大学客員教授の朱建栄氏は「今回、現地の多くの人が弔いの献花をしたり、批判があがっている。日本で相当反発が起き、『個別事案、どの国でも起こり得る』という表現がまずいと中国側も認識し、その後はほとんど使われていない」と説明。一方で、「日本が中国に怒った時、すぐ中国の国家全体、“体制”と絡める。全てを一緒に捉えてしまうことにギャップがある。第一に、お互いに情報が十分共有されていない。第二に、信頼関係がない。すると、すべて悪い方向に解釈する。残念ながら、今の日中にはそのような対立がある」との見方を示す。
笹川平和財団上席フェローで前駐豪特命全権大使の山上信吾氏は「この事件がいかに非道かは誰しもが認めるもの。しっかりと謝罪する、それから二度と起こさないようにする、これが出発点だと思う。国と国との関係を考えた場合、信頼関係が根底から崩れてしまうような事件だったと思う」と指摘。さらに、日本政府の対応については「弱腰だ」と批判する。
山上氏は、日本政府の対応を6段階に分け、「遺憾」の表明は最も怒りレベルの低いものだとしている。「遺憾は玉虫色の表現で、相手が悪い時だけでなく、自身に非がある時にも使うことがある。なので、本当に怒った時はレベル2の『断固非難する』『受け入れられない』『言語道断』というのが、しかるべき表現だ。また、1~6は同時並行的に取りうる措置だが、今回は遺憾の表明にとどまっている。事件を受けて中国当局はどう取り締まりをしたのか、事実関係を含めて説明も受けていない」。
これに朱氏は「中国は偽情報や憶測を避けるため、慎重に調べる。そこで時間が経ってしまい、説明がないためにかえって皆が苛立ってしまう問題はある。ただ、母親はショックを受けている状態で、犯人も犯行は認めているが他は何も言っておらず、真相は整理して公表できるものではない。外務副大臣を中国に派遣して申し入れをしているのは、(先ほどの6段階で言えば)第3段階を超えていると思う」と返す。
一方で、「今日のような建設的な話は、中国にももっと聞いてほしい」と訴えた。「今の中国という国は、『すみません』『申し訳ない』と簡単には言わない。しかし、今回は日本人を侮辱するような表現をした80以上の反日サイトが封鎖されていて、行き過ぎていることはさすがにわかっている」。
山上氏は「取り締まりをしようとすればできるわけで、ぜひそれをやっていただきたい」とした上で、「私は日本に“強硬にしろ”と言っているのではない。怒るべき時に怒るのは日本外交にとって大事で、その相手は中国だけではなく北朝鮮やロシア、時にはアメリカかもしれない。『遺憾』という言葉で何となく事態を鎮静化しようとするようでは、なかなか進展はないのではないか」と主張した。
そんな中、パックンは「世界の外交の常識として、政府機関の職員だったり兵士が何か起こした時は大使なりを呼び出すが、民間人による個別案件に関してはレベル1で終わらせるだろう。そこでメディアを通して『中国謝れ』と言うと、反日感情を高めてしまうような、強硬姿勢が強行姿勢を呼ぶ悪循環に陥ってしまうおそれがある。今回の事件は、事実をしっかり確認して、メディアがもっと詳細まで伝えるべきだと思う」と投げかける。
山上氏は「そういう意味では、事態はもうエスカレートしているから申し上げているわけだ。領空侵犯などは国家の安全保障に関わる別次元の話だが、一児童の命も国家としてまた大事。ただ、感情的になる必要はなく、理路整然と説いていくこと。国際社会に対して問題の実態を知ってもらい、理解と支持を増やしていく上でも、それが大事だと思う」との考えを示した。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・キー局全落ち!“下剋上“西澤由夏アナの「意外すぎる人生」
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・「ABEMA NEWSチャンネル」知られざる番組制作の舞台裏