“裏金問題で非公認”拡大 石破総理の危機感 専門家「政局の号砲が鳴った」
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裏金問題に関わった自民党議員の公認をめぐり、石破総理が10月6日、方針転換を打ち出した。これまで原則公認で調整していたが、新たな方針で“非公認”となる議員が出るほか、この問題で収支報告書に不記載があった者は、党内処分の有無を問わず、全員、比例名簿への登載を認めない。専門家は「政局の号砲が鳴った」と指摘する。

【画像】「政局の号砲が鳴った」自民党内の隔たり…野党の戦略は?

1)追い詰められていた石破総理 決断を迫ったのは…

これまで自民党は派閥の裏金事件で処分された議員を次の衆院選で原則公認し、比例重複の立候補も認める方向で調整していた。

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、今回の方針変更について、以下のように言及した。

方針
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私が取材したところ、この件に関して、3日(木)の夜ぐらいまで石破氏はかなり悶絶していた。国民からは「豹変」「嘘つき」などと言われていた中、朝日新聞が「原則公認 比例重複も容認」と報じて、何もしなかったらこれはまずい、というところまで来てしまった。共同通信の世論調査でも、裏金議員の公認は理解できないという回答が75%近くあり、これは何かしなければという流れの中で、石破氏自身や石破氏に近い閣僚、小泉進次郎氏や菅元総理らが動いたようだ。小泉氏はかなり後押ししたとされている。最終的にはもちろん石破氏自身と周辺で決めたことだと思うが、それはもう様々な声が届き、この発表に至ったようだ。

中北浩爾氏(中央大学教授)も、「このまま突っ込むと選挙が危ない、ほかの議員まで巻き添えになる、比例の扱いについても、逆に不公平じゃないかという批判が党内からも出ていた。一気に手を打てる環境が整ってきていたということだろう」と、このタイミングでの方針転換を分析した。

公認について
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末延吉正氏(ジャーナリスト)は、石破氏の党内基盤の弱さを指摘しつつ、以下のように述べた。

党内野党で割ときれいなことを言ってきたのに、総理に就任したら「原則公認」と。石破氏は「政治とカネ」で何かをやる人だから選ばれたはずなのに、何もしないじゃないか、と。主流にいなかったからこそ、この問題に切り込むことができる、そこにあなたの存在感があるだろうという声がバーッと出回った。この段階まで決め切れなかったというところに石破氏の性格と党内支持勢力の弱さが出ているが、結果としてプラスに出る可能性はある。今後に注視したい。

2)新方針で「非公認」増・比例重複ナシ “石破総理の賭け”どう出るか

石破総理が示した、公認についての新方針は以下の通りだ。

党則で定めている8段階の処分のうち
1)「選挙における非公認」よりも重い処分を受けたものについては、非公認とする。
2)選挙非公認よりも軽い処分であっても、現時点で引き続き処分が継続しているものについては、政倫審で説明責任を果たしているものを除き、非公認とする。
3)処分を受けたその他の議員のうち、説明責任が十分に果たされず、地元での理解が十分に進んでいないと判断されるものについても、非公認とする。
その上で、派閥の政治資金パーティーをめぐる不記載があった、その他の議員についても比例名簿への登載はしない。

新方針
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非公認よりも重い処分については、離党勧告を受けた塩谷氏と世耕氏はすでに離党している。党員資格停止1年の下村博文氏、西村康稔氏は、今回の衆議院選挙では非公認となる。さらに、党員資格停止6カ月の高木毅氏は、10月4日に党員資格が復活してはいるものの、1)の規定に該当し、非公認となる。2)に該当して非公認となるのは、萩生田光一氏、三ッ林裕巳氏、平沢勝栄氏の3人で、いずれも「党役職停止1年」の処分を受けたものの、政倫審には出席していない。

加えて久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、「派閥の政治資金パーティーをめぐる不記載があった議員が、今回確実に非公認となる人を除いても40人ほどいる。この人たちは、処分を受けたか受けていないかに関わらず、公認はするものの、比例名簿には載せない。つまり、重複立候補させないことが今回の方針の最大のポイントだ」として、以下のように指摘した。

3年前に岸田氏が衆議院を解散した際、比例の投票先をどこに入れるか、調査を行った。今回も同様の調査が行われているが、当時よりも5%~10%低い結果が出ている。ということは、前回、72議席を比例でとっているので、今回は5つか6つ、議席を減らすのではないかと言われていた。ところが、これだけ厳しく踏み込んだ方針を出すことで、自民党に対して少し追い風が吹く可能性も出てきたのではないか、という向きがある。その一方で、永田町関係者が「踏み込んだ」と言っているだけで、世論には「当たり前のことをしただけ」という見方も。今回の新方針が自民党全体に追い風となり得るのかはまだわからない。連立政権を組む公明党が推薦を出すかは、オールオアナッシングではなくて、これまでの経験値と協力関係に応じて、程度を変えてくるのではないか。

公明党
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今回の新方針に関して、中北浩爾氏(中央大学教授)は、「2つポイントがある」と指摘した。

一つは、非公認の処分よりも軽かった人を、今回、非公認にするということ。明らかに4月の処分に積み増している。一事不再理に反すると言われかねず、「党の役職停止」だった3人の非公認は、かなり踏み込んだ形になる。もう一つは、処分していなかった人たちまで、比例重複を認めない点。二重の意味で、我々の想像を超えた対処だった。党内での反発は当然出る。セーフティネットである比例重複ができないことは、議員にとっては衝撃的なことだ。
さらに、誰が非公認にならなかったかというところを見ると、岸田前総理や菅氏とそれぞれ関係の深い人や、石破氏を応援した人たちは、今回の対象から除かれている。非公認となる荻生田氏は、高市氏を応援するような発言を繰り返していた。

自民党は10月9日、以下の6人についても非公認とした。
・「党の役職停止 半年間」の処分を受けた中根一幸氏、菅家一郎氏、小田原潔氏
・「戒告」の処分を受けた細田健一氏
・処分は受けていないものの不記載があった越智隆雄氏、元議員の今村洋史氏
越智氏はすでに立候補しない意向を示している。

3)「政局の号砲が鳴った」自民党内の隔たり…野党の戦略は?

久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)も、自民党内の隔たりに注視しつつ、以下のように指摘した。

経済政策
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自民党と立憲民主党の経済政策を重ね合わせると、使っている言葉こそ違うが、主張はそっくりだ。これに注目するのは、自民党の裏金問題の処分と無縁でないと考えるからだ。
実は、きょうをもって、選挙でなく、政局の号砲が鳴った。自民党内における経済政策・外交政策の違いは非常に大きい。衆院選後の議席次第で、色々な動きが出てくる萌芽が含まれているように思う。野党第一党との間よりも、自民党総裁選における論争の方が大きな溝があった。衆議院の勢力を見ると、過半数は233。焦点は10月27日の投開票結果その一点だ。27日、自公で過半数を取れるのか、自民党が単独過半数を割るのか。「政局含み」どころか、「政局とワンセット」の衆議院選挙になる。

末延吉正氏(ジャーナリスト)も、今回の新方針で、積極財政派の安倍派の議員たちがかなりの議席を失うかもしれないことが、今後の政局につながっていくのではないかと、動向の注目点を挙げた。

党首会談
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一方、立憲民主党・野田代表は、石破総理の新方針の発表に先立ち、「裏金を受け取った議員」の選挙区では、野党候補の一本化を進めたいとして、3日、各党党首との会談を行っていた。党首会談を受けての反応は…。

日本維新の会・馬場代表
「野党候補が1人しかいない選挙区などは協力を考える余地はあるが、維新が立てた選挙区は取り下げない」

共産党・田村委員長
「総選挙の争点は裏金問題だけではない。自民党政治の全体を変えていくために、小選挙区で最大限立候補する」

国民民主党・玉木代表
「裏金問題は終わっていないが、立憲側がやってきた候補者擁立のあり方に一定の障害が残っている」

中北浩爾氏(中央大学教授)は、以下のように述べた。

今回の石破総理の、非公認拡大・比例重複の見送りの判断は衝撃的だった。それに対して野党はどういう手が打てるのか。いわゆる裏金議員の選挙区で候補者の調整が少しでも進むのかどうか。これがやはり一つの焦点だ。

10月11日現在の、各党の小選挙区での立候補予定者数は、以下の通り。
自民266人 公明11人 立憲208人 維新162人 共産216人 国民41人
れいわ19人 社民10人 参政85人 (各党ホームページ等より)

久江雅彦(共同通信社編集委員兼論説委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』)

中北浩爾(政治学者。中央大学法学部教授。専門は政治学。自民党の歴史などに精通。著者に『自民党-「一強」の実像』『自公政権とは何なのか』など多数)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題に精通)

「BS朝日 日曜スクープ」2024年10月6日放送分より」

外部リンク
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