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 「この作品は、今後も監督をやっていく中で“残りの監督人生”の出発点になる」そう語るのは、映画『孤狼の血』シリーズ、ドラマ『極悪女王』など、話題作を生み出し続ける白石和彌監督。自信をのぞかす新作『十一人の賊軍』(11月1日より公開)は、幕末を舞台にした集団抗争劇。『凶悪』から11年ぶりに再タッグを組んだ山田孝之と、白石組初参戦となる仲野太賀がW主演を務める。

【画像】山田孝之、仲野太賀らが戦う『十一人の賊軍』場面写真ほか(全11枚)

 旧幕府軍と新政府軍(官軍)で争われた「戊辰戦争」のさなか、新発田藩で起こった旧幕府軍・奥羽越列藩同盟への裏切り事件をベースに、藩に捕らえられていた罪人たちが決死隊として砦を守る様を描いた同作。名もなき罪人たちの戦いを白石監督はどのように描いたのか。本作にかける思い、山田孝之への信頼、そして“ごった煮”と表現するキャストの魅力を語ってもらった。

「全員討ち死になんて辛気臭いものはやめろ」東映からストップがかかった笠原和夫の幻のプロットを映画化

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――観終わったときに『孤狼の血』のときのような、“血湧き肉躍る”感覚がありました。令和ではなかなか見られない「かっこいい男」を見ちゃったなと。

白石監督:ありがとうございます。確かに、『孤狼』以来、ここまで男臭いのはあまりやってなかったかもしれないです。いや、やってるのか?自分でもわからないな(笑)。最近は、男臭い男に憧れる人が減っていますよね。

――『仁義なき戦い』の脚本家・笠原和夫さんのプロットを元に、『孤狼』のときの製作チームが集結して、作ったとのことですが、どのように進んでいったのでしょうか?

白石監督:荒井晴彦さんが笠原さんのインタビュー本『昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫』というのを出していて、僕も監督になる前に読んでいたんです。その中に、新発田藩の話を企画したことがあると書いていて。それは一回ポシャってると。岡田茂(東映京都撮影所所長)に「全員討ち死になんて辛気臭いものはやめろ」と言われたと。
それで、僕も東映さんと仕事するようになって「次何やりましょうか」となったときに、自分からプロデューサーに「こういうのあるんですけど」と持ちかけました。
これは東映以外ではあり得ない企画なので他の会社と、というわけにはいかないし。そこで東映さんが断ったら終了する企画だったんです。ある程度お金もかかるし、できませんって言われても仕方ないと思ってたんですけど、紀伊さん(紀伊宗之プロデューサー)が「やりましょう」と言ったので進みました。
でも、実際に動くと大変でした。果たしていくらでできるんだ?とか、いろんなことも計算しなきゃいけなかったし。これ、どこで撮影するんだ?とか。結構日本全国を回ったんですよ。

――実際はどこで撮影されたんですか?

白石監督:千葉です。あの砦周りは、実は千葉なんです。

――時代劇のロケ地を探すのって難しいんですね。

白石監督:ロケする場所が本当に日本にないんです。建物が残ってるところは観光地になっていて、そこではもう撮影できない。昔は二条城で撮影している映画がたくさんあるんです。
でも今は観光客でいっぱいになってるから、お願いしたら「いいですよ」って言うんですけど、「朝8時半から9時まで」とか。できるわけないんです。彦根城とかはまだ撮影させてくれるんですけど。もうちょっと苦しいですよね。
これからどんどん苦しくなっていくと思います。『碁盤斬り』のときも困ったんですけど、本当に宿場町がないんです。『SHOGUN 将軍』とか観ると全部村ごと作っていましたね。

「山田さんが僕を監督にしてくれた」再タッグを組んだ山田孝之への信頼

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――今回、山田さんが主演を務めていますね。

白石監督:監督をやって十何年経つ中で、この作品は、今後も監督をやっていく中で残りの出発点になるんだろうなって思ったんです。それで山田孝之さんにお願いしました。『凶悪』以来、お願いできていなかったので。

――それはやはり『凶悪』の評価を2人で勝ち取ったという感覚があったのでしょうか?

白石監督:むしろ僕を監督にしてくれたのは、山田さんであり、ピエール瀧さんであり、リリー・フランキーさんなので。山田さんは魂を作品に入れてくれる人だと思っているので、最初に口説きに行きました。でも、最初に会いに行ったときには既に「やる」って決めてくれていたみたいなので、「暴れ倒す準備はできています。覚悟してます」と笑いながら言ってくれました。

――今回の山田さんが演じた政のキャラクターは意外に感じました。こんなに主人公なのに卑怯なんだ…って(笑)。

白石監督:すぐ逃げる、すぐ裏切ろうとするからね(笑)。
ただ、自分のことしか考えてない政の最後の行動に、人間らしさが出ていると思います。
鷲尾兵士郎(仲野太賀)も一番藩のことを考えてるのに、切り捨てられていくっていうのが、やっぱり侍だし、名もなき兵士たちなんだという。

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――もう一人の主演・仲野さんは、人格が個性的な面白いキャラクターを演じているイメージが強いんですけど、今回演じた兵士郎は、武士道を貫いて最後の最後まで一本気でかっこよかったですね。彼のイメージがだいぶ変わる作品になったのではと思います。

白石監督:仲野太賀爆上がりだよ!(笑)
本人は「一生懸命頑張ります!」と日々目の前のことにいっぱいいっぱいになって頑張ってました。仲野太賀は尻上がりな俳優なので、いくつかテイクを重ねた方がよくなっていく。殺陣も最初の頃は一番ボロボロだった。最初の練習に立ち会ったときに、「これ仕上がるかな」っていうドキドキ感がありました(笑)。本人もそれを感じ取って「監督、今はやばいと思ってると思いますけど、ちゃんと仕上げますので!」と。そして、本当に仕上げてくれた。
殺陣の感じも、兵士郎らしいというか……。これは作品全体ですけど、飛んだり跳ねたりというか、地に足ついた感じのものをやりたくて、「阪妻」(時代劇映画の大スター・阪東妻三郎の愛称)とか、ああいう感じの殺陣っぽく見えたらいいなと思ってたんですけど。最後の兵士郎はかっこよかったですね。

――仲野さんとはずっとお仕事したいと考えていたそうですが、オファーしたのは今回が初めてだったんですか?

白石監督:はい。そうですね。『碁盤斬り』が、去年の2、3月とかに撮影してて、その前に年末とかに仲野太賀に会って、殺陣の練習をしといてもらいました。
それで『碁盤斬り』の撮影で僕は京都に行ったんですけど、京都の松竹撮影所の前に「餃子の王将」があるんですけど、そこで昼飯を食うと仲野太賀のCMとかポスターがあるわけでですよ。「太賀くん殺陣頑張ってるかな」って毎日飯食いながら思い出すという(笑)。
「『碁盤斬り』撮りながらもずっと太賀くんのことを考えてたよ!」って(笑)。
イメージ通りまっすぐな俳優さんで、かっこよかったです。

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――山田さんとは『凶悪』ぶりでしたが、変わったなと思うところはありましたか?

白石監督:山田さんは、その後、プロデューサーをやったり、作る側も経験されている。だから、“クリエイター”としての側面が“俳優”としての存在も大きくしているなと思いました。心強かったです。周りが「孝之くん、どんな芝居してるのかな」って見ているのが分かりました。現場では、山田さんみたいに兄貴感を発揮してくれると助かります。みんなを連れてフィリピンパブに行ってくれたりもした(笑)。終わりくらいに「監督も行きましょうよ!」って誘われて、僕も館山に行きました。その頃には、俳優はだいぶいなくなってて数人で行ったんですけど、街を練り歩いてる時に「あ!山田さん来てくれた!」みたいに声をかけられる。フィリピンパブとかでも「タカユキサン!」みたいな(笑)。

――(笑)求心力がすごいですね!

白石監督:山田さんは、どこに行ってもフラットだから。面白いですよね。

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――現場でも“兄貴感”は出ていましたか?

白石監督:山田孝之は頭ひとつ飛び抜けてますね。映画における実在感。映画の世界観を支配する能力というのが、『凶悪』のときとは比にならないくらいになってるなと思いました。
この背中を見れたのは仲野太賀くんにとっても大きかったと思います。彼ももちろん素晴らしい俳優ですけど、きっと(山田さんと)この作品を一緒にできたことで、太賀くんにも引き継がれていくと思います。

怖さを更新し続ける阿部サダヲ、イケメン枠のナダル、即死する音尾琢磨…個性的なキャスティングの理由

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――今回、他にもすごく面白いキャスティングをされてますよね。

白石監督:お、それは特に誰が気になりましたか?(笑)

――官軍側で出ていたナダルさんですね。ナダルさんっぽい人が出てるなと思ったら、アップになってもナダルさんだったので驚きました。賊軍側には、元モー娘。の鞘師里保さんが女郎役で出ていたり、出家されたせいじさんが坊主役で出ていたり、かなり個性的に感じました。

白石監督:賊軍は“ごった煮”にしたかったんです。歌舞伎俳優がいたり、アイドルがいたり、相撲取りがいたり。でも、官軍たちは結構イケメンにしたいと思いました。ナダルさんもイケメンじゃないですか。目とか、顔のパーツは。

――そうかもしれないです…!兄弟役の佐野岳さんともよく似ていたので驚きました。

白石監督:あの二人が似てるとネットで話題だったんです。だからプロデューサーから「どう?」って。

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――基本的にはシリアスな展開ですが、ナダルさんやせいじさんがいたり、山田さんのキャラクターだったりで笑える要素もある。そういうところは意識しましたか?

白石監督:話自体が全員知らないとはいえ、死んでいく話だから、暗いは暗いじゃないですか。だから意識してのほほんとしているシーンも入れました。阿部サダヲのところは酷いけどね(笑)。

――阿部さんは『死刑にいたる病』よりも怖かったです。

白石監督:阿部サダヲの怖さを更新し続けます(笑)。

――この残酷な物語の元凶である、新発田藩の城代家老・溝口内匠をお願いしたいというのは、やっぱり阿部さんへの信頼感だったのでしょうか?

白石監督:この話は主人公たち“賊軍”を描いているけれど、笠原さんが一番描きたかったのは溝口だと思ったんです。中間管理職として、藩も守らなきゃいけない、殿も守らなきゃいけない。そのために苦渋の選択をしていって、その内のいくつかが、「賊軍を送ろう」だったり、同盟軍を退散させるために信じられない作戦したりとか。結構トリッキーなんだけど、溝口なりに一生懸命やってる。新発田城にいる溝口匠をずっと忙しくしたかった(笑)。

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――爺っつぁん(本山力)をはじめ賊軍たちの戦い方も、エンタメ色が盛り込まれてて男心をくすぐりそうだなと感じたのですが、そういうところにも監督の意向が詰まってましたか?

白石監督:はい、入ってますね!戦い自体は泥臭いけど、どこかポップにしないと、本当に悲惨な話になってしまうので、それは割と意識しました。

――特にこだわった戦い方、散り方みたいなのはありますか?

白石監督:死に方は見せ場になるようにしましたね。一瞬で死ぬやつもいるんですけど。

――白石組の常連の音尾さんは即死でしたね(笑)。

白石監督:音尾さんは5カット目くらいで死んじゃう(笑)。
「別の舞台で頭しかいれません」って言うから。「最初に殺される役でもいい?」って言ったら、「ありがとうございます」って。

――音尾さんの即死は見どころですね(笑)。

「人間の抱えている喜怒哀楽はずっと変わらない」白石監督が『十一人の賊軍』で得た気づき

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――『十一人の賊軍』を観て、市井の人の苦しみ、戦いを描くという白石監督の作風が、時代劇にがっちりハマっていると改めて感じました。監督自身は、今回どのような手応えがありましたか?

白石監督:やらないとわからないことがある。『碁盤斬り』と『十一人の賊軍』をやって、時代劇の色々なことがわかりました。手応えもあるし、同時に課題も感じました。先ほども言ったようにロケする場所が本当に日本にない。その物量の差は如何ともし難いところがありますね。でも、不条理のあり方、封建制の中での今とはシステムの違う中での人間の在り方。ただ、人間の抱えている喜怒哀楽はずっと変わらないはずだから、その中での映画的な人物の動かし方というのは見えてきました。いくつか企画をスタートさせてますので、これからも頑張ってやっていこうと思います。

取材・文:堤茜子

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映画『⼗⼀⼈の賊軍』
2024年11月1日(金)全国公開
【出演】 
山田孝之 仲野太賀
【スタッフ】 
監督:白石和彌

(c)2024「十一人の賊軍」製作委員会

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