私はというと、おばあちゃんが縫った菊の柄。「すずの浴衣、渋いね」。好きな男の子から半笑いでそう言われ、恥ずかしくて逃げ出した。
「こんなのいらない!」。帰るなり浴衣を脱ぎ捨て、何度も踏みつけた。「菊の花ってお葬式じゃん!私に死んでほしいわけ?」。おばあちゃんに怒鳴ると、『ごめんね。おばあちゃん、お節介だったね』と浴衣を拾い、ゴミ袋に入れた。
それ以来、おばあちゃんと会話らしい会話はしないまま、大学進学と同時に家を出た。
おばあちゃんが亡くなったのは、それから半年後だった。お父さんと遺品整理中、桐だんすからスズラン柄の振袖や菊柄の浴衣が出てきた。「すずが生まれた時、おばあちゃんが名前を考えてくれたんだよ。スズランの『すず』がいい、って言ってね。なんでも、再び幸せが訪れるって花言葉だから、って」。
花言葉――。私はすぐにスマホを取り出した。「浴衣の柄 菊」の意味を見つけて、涙がこみ上げてきた。「ごめん、おばあちゃん。ごめんね…」。
菊柄の意味は、不老長寿。おばあちゃんはずっと私の健康と幸せを願っていたんだと知り、菊柄の浴衣を抱きしめながら、私はずっと謝り続けた。
稲田、号泣
