シャアが感情を爆発させる、珍しいワンシーンだった。ガンダムがシャア専用ゲルググにとどめを刺そうとした瞬間、エルメスがかばうようにゲルググの前に飛び出し、ビームサーベルはエルメスのコックピットを貫いた。ララァ・スン(CV:潘恵子)を失った瞬間、シャア・アズナブル(CV:池田秀一)はこれまでにないほど激しく感情を昂らせた。
ガンダムとエルメスが直接対決した際、アムロ・レイ(CV:古谷徹)とララァは互いの正体にはじめて気づいた。2人の意識が共鳴し合い、やがて対話が始まる。はじめこそ主張をぶつけ合うだけだったが、次第に互いを理解し合える寸前まで達していた。
しかしそのとき、セイラ・マスとミライ・ヤシマはアムロがララァに引き寄せられることを恐れたのか、アムロの名前を呼び引き戻そうとした。一方のシャアも、ララァがアムロに連れて行かれると危惧するようにララァの名を呼んだ。シャアが「ヤツとの戯言はやめろ!」と割って入ったことで、2人の意識は現実の戦場に戻っていった。
その後、シャアはララァに「私はガンダムを討ちたい。私を導いてくれ!」と頼んだ。アムロとの対話を経て分かり合いかけた“人が背負った宿命”とは結局アムロを倒すことだったのか、ララァは一瞬悩むように沈黙したが、「お手伝いします。お手伝いします、大佐」とシャアと共にガンダムを討つ決意を示した。
セイラはGファイターでガンダムを援護しながら、シャアに呼びかけ続けた。しかし、シャアはガンダムを倒すことに集中しすぎており、Gファイターのパイロットがセイラであることにまったく気づかない。混戦の中でゲルググがGファイターを斬ろうとした瞬間、ララァの「大佐!いけない!」の声でようやくセイラの存在に気づいた。
そのときシャアに生まれた一瞬の隙を突いて、ガンダムがゲルググの右腕を切り落とした。そしてとどめを刺そうとしたその瞬間、エルメスがゲルググを庇い、ビームサーベルがエルメスのコックピットを貫いた。
ララァは死の間際、再びアムロと意識を共鳴させ、分かり合えたことを確認するように会話を交わした。エルメスの爆発後、アムロは涙を流しながら「と……取り返しのつかないことを、取り返しのつかないことをしてしまった……」と心底悔やんでいた。一方、シャアもララァを失ったことで、ガンダムに勝てる見込みがなくなったことを悟ったように操作パネルを叩いて悔しがっていた。
ここまで感情的に悔しがるシャアの姿は珍しかったが、劇場版「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」では、TVアニメ版とは異なり感傷に浸るように静かに涙をこぼす描写に変わっており、また発言するセリフも大きく異なっている。どんな違いがあるか、見比べてみるのも面白いだろう。
アニメ「機動戦士ガンダム」は1979年4月から1980年1月まで放送されたサンライズ制作のロボットアニメで、富野由悠季監督が手掛けた作品。“リアルロボットアニメ”という新ジャンルを開拓し、以後のアニメに多大な影響を与えた。放送当時の視聴率は振るわなかったものの、再放送や劇場版の公開で人気が急上昇すると、「ガンプラ」ブームも生まれるなど空前のヒットに。現在に至るまで数多くのシリーズやスピンオフなどの派生作品が制作され、高い人気を誇る。
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