“高額療養費制度”の上限引き上げ見直し示唆も…増大する医療費どうすべき?
【映像】8月からの自己負担上限額(年収別の詳細)
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 高額療養費制度の上限引き上げ撤回を求めて、国会で野党の反発が続いている。引き上げ検討が始まったのは2024年11月で、高齢化と医療費の増大を背景に、2025年8月からの段階的な上限引き上げを決めた。

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 その後の反発を受け、石破総理は「あらゆる可能性」を強調して、上限引き上げについても修正を示唆。厚労省に対し患者団体との意見交換を指示し、福岡厚労大臣が近く面会する意向を明らかにした。

 全国がん患者団体連合会(全がん連)の天野慎介理事長は、「多くの人が自分の人生を終わらせる決断を迫られることになる」と、とくに長期治療の患者や家族を思って、理解を求める。『ABEMA Prime』では、悪性リンパ腫患者の経験も持つ天野氏とともに、年々膨れ上がる「医療費」の未来について考えた。

■高額療養費制度とは?

古川俊治参議院議員
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 高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、1カ月の上限額を超えた際に、超えた額を支給する制度だ。上限額は年齢や所得に応じて設定されている。すべての人が安心して医療を受けられる社会を維持する目的がある。高額療養費に年1回以上該当する人は、厚労省の推計で70歳未満が約400万人、70歳以上が約850万人となっている。

 参議院自民党の政策審議会長を務め、医師でもある古川俊治参議院議員は、「医療費は保険の他、一部は自費になる。現役世代は3割負担が基本だが、月の医療費が100万円かかると、30万円は払えないとなる。セーフティーネットとして上限を定め、リスク分散の機能を果たしている」と説明する。

 引き上げで自己負担額はいくら増えるのか。平均的な所得層(年収550万円・70歳未満)で、月額医療費が100万円の場合、自己負担額は現行で8万7430円だ。これが2025年8月から9万5260円、2026年8月から10万7440円、2027年8月から11万9620円に増額し、現行から3万2190円増になる。

 全がん連の天野理事長によると、「年単位で飲み続ける薬もあり、ある種の乳がんでは、発見から進行するまで数年間、毎日飲む人もいる」という。定期的に支払うことになるため、「毎月限度額がかかると、やはり負担が大きい。長期にわたって治療を継続する人の負担を、なんとかして軽減しないといけない」と問題意識を挙げる。

■「上限引き上げは現役世代に直撃する」

天野理事長
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 上限が引き上げられる背景には、高齢化や医療高度化、高額薬剤普及などにより、高額療養費総額が年々増加(総医療費の6〜7%相当に)していることがある。結果として現役世代を中心に保険料が増加している現状を鑑みて、セーフティネットとしての役割を維持しつつ、健康な人を含むすべての世代の保険料負担軽減を図ることを目的としている。

 天野氏は「引き上げは現役世代に直撃する」と指摘する。「低所得者だけでなく、中間層も一度病気になると、収入が減る。民間団体の調査では、3割程度は収入が減ると言われている。収入が減っている中で、がんの治療費を払うのは、なかなか負担が大きい」。

 天野氏は自身の経験談として「20年以上前に抗がん剤治療を受けた。当時は今と比べれば安かったが、それでも月100万円かかった。そのうちの3割負担でも30万円だ。若年層や子育て世代は、経済的な基盤が弱く、治療費を出すのはかなり厳しい」と振り返る。

 がん患者団体は「高額療養費制度引き上げ反対」の緊急署名に動いた。1月29日のオンライン署名開始から、12万人以上が賛同し、「高額療養費の負担上限額引き上げを見直すこと」「がんや難病などの患者・家族の切実な声を石破総理・福岡厚生労働大臣に届けること」を要望している。

 天野氏は、「年単位の長期治療を受ける患者にとっては、家賃や食費が毎月数万円上がるのと同じだ」として、政府の再考を求める。また「保険は大きなリスクに備える部分が大きい。俗っぽく言えば『市販薬を安く買えるか、大病のリスクに備えるか、どちらかを選べ』と言われているようだ」とも話す。

■「国民皆保険制度は限界が来ている」「5割負担は保険と言えるのか」

自己負担上限額
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 天野氏は「大きなリスクに備える」に重きを置き、海外の「小さなリスクに目をつぶる」事例を紹介する。「フランスでは、がんの医療費は低く抑えつつ、風邪は割とかかる。そういった方向は、ひとつの手ではないか」。

 これに古川氏は「保険料を払っているから、ちょっとした風邪やケガで病院に行く。全額自費になれば、『何のために若年層が保険料を払っているのか』となる。どのリスクに備えるのか、民間保険もまじえて、国民的な議論をする必要がある。国民皆保険制度は、宝物だったが、そろそろ限界が来ている」と返答する。

 天野氏は、若くしてがんにかかった経験から、「それまでは病気もしたことがなかったが、いざ20代でがんにかかったら、一気に経済的に困窮してしまう。そこでカバーがないのは、かなり厳しい」と嘆いた。

 今後、どのような方向性が予想されるのか。古川氏は「3割から5割負担になっても、本当に保険と言えるのか。半額を払うことになれば、『自分は病院にかかれない』となる。引き上げで、どのくらいの財源が生まれて、足りないところに手当てできるか。その場合の保険料も含めて、皆で議論しなければいけない」と答えた。

(『ABEMA Prime』より)

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