アップル製品もインスタグラム、テスラも「マウント消費」なのだろうか?
『「マウント消費」の経済学』(小学館)の著者で起業家の勝木健太氏と共に“経済を動かす承認欲求”について考えた。
マウント消費の名付け親である勝木氏はその意味について「人の欲求の中でも『見せびらかしたい』『自己顕示したい』みたいなところははるか前からあったが、『露骨な自慢ではなく、さりげないマウント』のような、“さりげなく”なっているところが現代的であり、消費行動として今後増えるのではないか」と説明。
アップル製品、インスタグラム、テスラについても「テクノロジーに重点を置いたサービスと思われがちだが、『アップル製品を持っている俺』、テスラも『地球環境に優しい』『俺は先進的だぞ、特別だぞ』という小さな優越感みたいなものを提供しているサービスが伸びている」と分析。
さらに、著書ではマウント消費をうまく刺激している企業として「ホームワイン」というワインのサブスク企業を取り上げている。
「ワインを楽しむ行為を“教養を手に入れる体験”へと変えた」
「では実際にテイスティングをしながら2つのワインの違いに触れていきます」
カメラに向かってワインについて語る男性。これは自宅でワインを学ぶことができるサービスだ。
「自宅で、かつワインを飲みながら学べるサブスクのサービスだ」と語るのは、ソムリエとしてサービスを監修するWINE TRAIL代表の佐々木健太氏。
「ホームワイン」は月額15,000円のサブスクサービスで、契約すると毎月、自宅に佐々木氏が厳選したワインとその解説動画が届く。
佐々木氏は「ワインの品種やその土地の気候、歴史、文化、料理との合わせ方などを10分に情報量をあえて少なくして伝えている」と説明する。
このサービスは、「マウント消費の成功例」として、勝木氏の著書で紹介されている。
「『ホームワイン』は『ワインを楽しむ行為を“教養を手に入れる体験”へと変えた』」(『「マウント消費」の経済学』)として評価されている。
書籍について佐々木氏は、「どうしてもワインは“マウントを取る・取られる”みたいなところがあり、その根源的欲求が『ワインを学びたい』ということにつながっているのであればありがたい」と語る。
彼は21歳でソムリエの資格を取得し、フランスや日本の有名レストランでの研鑽を積んだ後、ワインの裾野を広げるためにこのサービスを始めた。
ホームワインは、ワインに親しむ段階を5つに分けており、最初はワインを好きになるところからスタートし、最終的にはワインを自分の言葉で評価できるようになるという。
勝木氏の著書では「『ホームワイン』の真価は知識の提供にとどまらない。それ以上に『自分は他者とは違う ワインに詳しい』という優越感を味わえる体験にこそある。銘柄や特徴を会話の中にそれとなく織り交ぜることによって『ワイン通』として認められたような気分を得ることができる。この体験は消費者の『マウント欲求』を巧みに満たしている」と記されている。
年間で48種類のワインが送られ、フランスやアメリカといった有名どころから、知る人ぞ知るものまで。全15カ国のワインを楽しむことができる。
「セレクションへのこだわりもまた『ホームライン』の大きな魅力である。単に高級な銘柄を揃えただけでなく『知る人ぞ知る』希少なワインを厳選することでユーザーに対して『流行に流されるのではなく本当に価値あるものを私は選んでいる』という感覚を提供している。この徹底したこだわりによって『さりげなくマウントを取る』ための完璧なツールとして見事に機能している」(『「マウント消費」の経済学』)
「マウントビジネス」として紹介されていることについて、佐々木氏は「マウントを取りたいというよりは、マウントを取られたくないという欲求が強いと思う。それがワインを学ぶきっかけになっている節はあるのかな」と述べる。
現在の利用者数はおよそ3,000人。老若男女問わず、幅広い層が利用しているという佐々木氏。今後はワイン会の開催など、学んだ知識を生かせる場を提供したいと話す。
「ワインの勉強は半分ぐらいはワインじゃない。歴史や文化とか、今まで受験勉強的に断片的に学んできた知識が全部ひとまとめになってくるのがワイン。人生を豊かにするツールとして数えていただきたい」
慶應三田会は“マウント消費”の最高峰?
企業がマウント消費を刺激するために何がポイントになるのだろうか?
勝木氏は「一見するとマウントに見えないさりげないマウントというか、“小さな優越感”をいかに埋め込んでいくが大事だ。あからさまにやるのは現代的ではない。自分自身の知性をさりげなく際立たせるような、現代的なマウントをより理解する。そのために、SNSを見て現代のマウントスタイルを研究するのは必須の教養だ」と説明した。
教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授は『「マウント消費」の経済学』でも紹介されている「慶應三田会」について「本当にすごくて、外から見るとなかなか理解できない世界かもしれない。たしかに若干『私は慶応卒ですよ』と言いたいのはあるかもしれないが、慶應卒と言うことによって、慶應OBに助けてもらえるのもあると思う。私が聞いた話だと、早稲田大学の中にも早稲田慶應三田会というものがあって、早稲田大学の中にいる教員で慶應出身の人で集まっているという。よその大学でそんなことをしているOB会があるかなと思うと、強力な組織だ」と述べた。
勝木氏も「最高峰のマウント」として「日本の財界で慶應三田会ネットワークも全くもって無視できないレベルの影響力がある。あらゆるコミュニティが参考にすべき事例だと思う」と述べた。
さらに中室教授は「マウント消費の中心層は高齢者なのではないか」と分析した。
「若者はコロナ禍以降、けっこうサブスク系の消費に切り替わってきている。高齢の男性で、例えば車や新しい家電などに対する消費が増えているとしている民間シンクタンクのレポートもある。これはまさにマウント消費のいい例ではないか。彼らの方がお金を持っていることもある。そういった需要を掘り起こしていけば、さらなる消費につながる可能性もあるのでは」
勝木氏はマウント消費の未来について「日本のGDPの60%近くが個人消費で、この中でマウント消費がかなり増加していると思われるので、この部分から経済にテコ入れしていくのは一つだろう。そして、欧米の自己顕示に比べて、日本の自己顕示は直球ではなく、変化球というか、日本ならではの見栄消費とか、他人との比較をすごく気にすることがあると思うので、この辺りは日本の隠れた競争力になるのでは」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)




