
捜査を逃れ、逃亡を続ける容疑者たちがいます。特に凶悪な犯罪を行ったとされる「重要指名手配」を含め、現在、全国で指名手配されている容疑者はおよそ600人。今回、番組では、そんな指名手配の容疑者を追跡する警視庁の捜査班に密着。容疑者確保の瞬間を相次いで捉えました。(4月5日OA「サタデーステーション」)
■雑踏の中で容疑者を発見
捜査員「他の捜査員が見つけたっていうのでちょっと応援で移動します」
別のチームから確保の応援依頼を受け、急いで現場へ向かう捜査員たち。探していたのは、指名手配中の男。そして…

捜査員「警察です。〇〇警察から逮捕状でてるから、なんか言い分あったら」
指名手配の男「警察署?」
捜査員「ちょっと話聞いて?〇〇警察から探してくれっていわれて探したから言い分があるならそこで話して。うちらもそこまで詳しくわからないんだよ。投げ飛ばしたって聞いているから」
指名手配の男「投げ飛ばしたって相手がつかんできたからで」
捜査員「だから言い分があるんでしょ?」
指名手配の男「いろいろあったの。逃げないし、逃げないし、無理だから、逃げないから。こんだけいると無理だって」
傷害の疑いで逮捕された男性。その後、略式起訴され即日罰金を納付したということです。

全国には、「殺人」「強盗」などの凶悪事件や「暴行」「窃盗」「詐欺」などの事件を起こした後も逃亡を続ける、指名手配されている容疑者がいます。その数およそ600人。

これらの容疑者を専門に摘発するのが警視庁捜査共助課「見当たり捜査班」です。
■「500人の顔を記憶」捜査の裏側
「見当たり捜査」とは、どのような捜査手法なのでしょうか。その“裏側”を取材することができました。
(Q:今何を見ているんですか?)
捜査員「被疑者(容疑者)の写真ですね」
捜査員が現場でも見ている黒い手帳。ここにのっているのが、指名手配中の容疑者の顔写真です。
警視庁刑事部捜査共助課 熊谷達也課長
「指名手配犯の顔写真を基に容疑者の特徴を記憶し、繁華街など人混みの中にいる容疑者を見つけ出して検挙する捜査員の係りを見当たり捜査班と呼んでいます」
捜査員らは手帳に入った容疑者の写真を見て、顔を覚えていきます。
(Q:だいたいどれくらいの人数を覚えている?)
捜査員「おおむね500人くらいですかね」

全国に逃げ回る容疑者の1人1人違う顔の特徴、例えば、ほくろや耳たぶまでしっかり頭に叩き込んでいるといいます。そのためルーペで顔のパーツを大きくして覚える様子も。

手帳の中には、あの容疑者の姿がありました。
捜査員「八田與一(容疑者)です」
大分県別府市で大学生が死亡したひき逃げ事件で重要指名手配されている八田與一容疑者。

(Q:どの部分を覚えているんですか?)
捜査員「特にあげれば、目元です。変わらないと言われているので」
指名手配されている容疑者の顔を記憶する上で、最も重要視するのは…目元。
捜査員「たしかに目元は変わらない、整形とかしても(目の)間隔とか」
例え整形したとしても、目の間隔や黒目の割合は変わらないといいます。大阪や沖縄などに潜伏し、何度も整形手術をしていた市橋達也受刑者も、整形前と後を比べても目の間隔や黒目の割合は変わっていないように見えます。
こうして記憶した特徴をもとに、雑踏の中から容疑者を見つけ出す「見当たり捜査班」。
警視庁刑事部捜査共助課 熊谷達也課長
「平成13年に発足しておりますけども、以降検挙した犯人の数は約1400人に上っております」
■窃盗の疑いの男を確保 近年増加している「窃盗犯」
ある日の取材中には…
捜査員「中央に了解、行きます」
電話で上司から「似た人を見つけた」と連絡を受け、猛ダッシュで現場へ向かう捜査員。
捜査員「主任?主任?主任?はい、あたり」
一瞬、男の姿を確認。頭の中の男と完全に一致します。そして…
捜査員「下みて、警察」
76歳の男「え?」
捜査員「警察、警察ね、わかる?お店入ったでしょ」
76歳の男「え?」
捜査員「お金持って行っちゃったでしょ。うちらも素人じゃないからわかっているからさ」
76歳の男「え~」
捜査員「え~じゃないよ、分かるでしょ?」
76歳の男「え~」
捜査員「ちなみになんか身分証とかある?見せてもらえないかな?」
76歳の男「なんなんだよ」
捜査員「〇〇警察までいこう一緒に。そっちで詳しい話聞くから。歩いていけるよね?」
76歳の男「なんでこんなところで」
確保されたのは、捜査員が記憶していた76歳の男。男は、建造物侵入と窃盗の疑いで逮捕・起訴されましたが、容疑を否認しているということです。

警視庁刑事部捜査共助課 熊谷達也課長
「窃盗犯を捕まえる件数は多いと思います」
去年の刑法犯の認知件数およそ73万8000件のうち、7割近くを占める「窃盗犯」。その数は3年連続で増加しています。
■雑踏に潜む約600人の指名手配
アナログな捜査手法にもみえる見当たり捜査。重要なのは“絶対に間違えられない”ということです。ある日、捜査員目線のカメラが捉えたのは…1人の男性。応援を頼んだ別の捜査員と顔の確認を行います。
捜査員「くぼみも見ようによったらと思って。目がちょっと違和感あるかな」
捜査員「言いたい人はわかる」
捜査員「耳ももうちょっと長いかな」
捜査員「違うな」
捜査員「違います」
捜査員「全体的な雰囲気は似ていたんですけど、最後いろんな角度から目元を見て目元が違うというところで別人と判断しました」
“顔写真と一致した”という確信がない限り、声をかけないといいます。
別の日、都内の繁華街を巡回中、ある男に気づく捜査員。
捜査員「ちょっといい?〇〇の前なんだけど。よろしく」
別の捜査員に電話をかけ呼びだし、見失わないように一定の距離を保ちながら追跡します。そこに別の捜査員が合流。
捜査員「あいつ、リュックのやつ」
男が見える位置で顔を確認し、その後も2人態勢で追跡を続けます。さらに他の捜査員も走って合流し、顔の確認を行います。写真が入った黒い手帳を見る1人の捜査員も。捜査員数人の目で確認。

顔写真と同じ男だと確信します。そして…
捜査員「じゃあ行っちゃうか。○○さん、○○さん、警察」
指名手配の男「はい」
捜査員「なんでかわかるだろう?」
指名手配の男「はい」
捜査員「なんでかわかるだろう?○○から逮捕状でてるから。身分証持っている?」
手配犯「あります」
捜査員「暴れたりするとケガするから暴れないでね」
捜査員「危ないもの持っていないよね」
確保されたのは、指名手配中の27歳の男。SIMカードを抜き取った窃盗の疑いで逮捕・起訴されました。調べに対し、男は「間違いない」と容疑を認めているということです。

私たちが取材した1カ月の間に逮捕したのは、「4人」。来るあてもない人をいかに捕まえるかは、捜査員一人ひとりの“目”と“記憶”にかかっています。だからこそ、見つけたときには…
捜査員「ガツンとくるというか、衝撃を受けるみたいな、昔の小学の時の友達とか古い友達に会った感覚、おおっ!なんでこんなところにいるのみたいな感覚です」
【取材後記】
取材初日。初めて捜査員に会って感じたのは「どこにでもいそうな男性だな~」と。会う前に勝手にイメージしてた捜査員は、指名手配の容疑者を見つけるぐらいだから「眼光が鋭く、こわもての刑事さん」みたいな感じかなと失礼ながら思っていました。いろんな捜査員がいて、一人ひとり個性がありました。
多くの人が行きかう都内。厳しい寒さが続く中、何時間も立ち続ける捜査員。指名手配の容疑者をこんな人混みの中から見つけるなんてどうせできないと最初は思いました。しかし、逮捕の瞬間はすぐやってきました。あっという間の出来事で最初は戸惑いましたが、捜査員の目に間違いはありませんでした。その時、心拍数が上がったのを今でも忘れません。
1カ月ほとんど毎日密着させてもらって強く感じたのは、「見当たり捜査」は本当に大変で、忍耐力がいる仕事。いつ目の前に現れるかわからない容疑者。頼れるのは捜査員の目と記憶。地道さと泥臭さが大切だなと感じました。
それは、報道機関で働く私が取材をするうえでも同じことで、自分の仕事を振り返り、改めて肝に銘じました。自分自身を見直すきっかけにもなった取材でした。
(「サタデーステーション」ディレクター庄賀由花)