
子どもに関わる仕事に就く人に対して性犯罪歴の有無を確認する新制度「日本版DBS」のガイドライン案がまとまった。国が労働者の犯歴確認を義務付け、さらに事実上の就労制限をするという、これまでの日本にはなかった全く新しい制度だ。
教師グループによる盗撮・画像の共有事件など、子どもを狙った性犯罪が繰り返される中で「子どもを性暴力から守る」という目的のもとで来年から運用が始まる。一方、どこまで制度の実効性が確保できるかなど課題も指摘されている。
日本版DBS制度とは?
日本版DBS制度は2024年に成立した、「こども性暴力防止法」に基づいている。この法律は、事業者に対して従業員への研修など性暴力を防ぐための対策や、性犯罪歴の確認を義務付ける。事業者は従業員や内定者に性犯罪歴が確認された場合は、子どもと接しない仕事に配置転換したり、内定を取り消したりする必要がある。
DBS自体はイギリスの犯歴確認や就労制限の仕組みである「Disclosure and Barring Service」を参考にしている。
導入の理由は?
2020年、ベビーシッターの仲介サイトで派遣された男が子どもらに性暴力を繰り返したとして逮捕された事件があった。これを契機に導入の是非が本格的に議論される。
2024年には「こども性暴力防止法」が全会一致で成立した。その後も教師グループによる盗撮・画像の共有事件など、子どもを狙った性犯罪が繰り返される中で、「子どもを性暴力から守る」という目的のもと、制度の詳細が時間をかけて議論されてきた。
制度の対象は?民間の塾も対象に?
学校や認可保育所、児童相談所などは犯歴の確認が義務となる。一方で民間の学習塾やスポーツクラブなどは任意で、事業者の方から国に申請をし、認定を受けることで、犯歴の確認ができるようになる。実際に、対象になる民間事業者の範囲は次の要件を満たした場合だ。
子どもに何かを教える事業で、1)6カ月以上継続し同じ子どもが2回以上参加できる、2)子どもと対面で接する、3)子どもの自宅以外で教えることがある、4)教える人が3人以上。
「子どもに何かを教える事業」であれば広く制度の対象になる可能性がある。例えば、芸能事務所でも、所属する子どもにダンスを教えていれば対象になり得るし、教育支援を行うこども食堂なども対象になり得る。
認定を受けるには、性暴力を防ぐための取り組みの実施や、犯歴情報を適切に管理するための取り組みなどが必要になる。認定を受けると認定マークを掲げられるようになる。こども家庭庁はマークを掲げることにより、事業者が安全性をアピールできるようにしたいとしている。
どんな罪が犯歴確認の対象に?
性犯罪歴の確認対象として、不同意性交、不同意わいせつなどの刑法犯のほか、痴漢や盗撮といった条例違反も対象になるのが特徴だ。対象となる犯罪にも“時効”のようなものがある。拘禁刑では刑が終わってから20年までが犯歴確認の対象になる。執行猶予判決や罰金刑の場合は10年までが対象だ。こども家庭庁の担当者は、「性犯罪の再犯者について多くが20年以内に再犯に及んでいたというデータがあり、20年を設定した」と説明する。
犯罪歴はどのように確認する?
事業者がこども家庭庁に従業員の犯歴確認を申請する。犯歴の情報自体は法務省にあるため、申請を受けたこども家庭庁が法務省に照会して、事業者に情報を交付する。犯歴がない人であれば、日本国籍を持つ人の場合、2週間ほどで確認が完了するという。
一方、犯歴がある人では、事業者に情報を伝える前に、本人だけにまず結果が通知される。通知内容に誤りがないかを確認する期間として2週間の期間がおかれる。その期間中に本人が、例えば内定辞退などをすれば事業者には結果は伝えられない。
初犯対策「不適切な行為」とは?
こども性暴力防止法では、事業者に対して「不適切な行為」というものへの対策も義務付ける点も大きな特徴だ。この「不適切な行為」は「継続することにより児童への性暴力等につながり得る行為」とされ、「性暴力」などよりも広い、新しい概念になっている。ガイドライン案では「児童とSNSで私的なやり取りをする」「休日や放課後に児童と二人きりで会う」「業務上必要でないのに児童等を膝に乗せる」などが挙げられる。
事業者は実態を踏まえて、どこまでが「不適切な行為」なのかを定めることが必要とされる。そして、指導してもなお、そのような行為を繰り返す従業員に対しては、子どもと接する業務から外すことなどが求められる。
制度の課題は?
制度の実効性を確保できるかという点、また、現場の委縮につながらないかという点が課題として考えられる。
こども家庭庁の担当者は「義務でない民間事業者にどれだけ広げられるかが課題」と話す。任意の民間事業者に仕組みが広がらなければ、例えば、犯歴がある人が学校では働けなくなるので民間の塾などに流れていくということにもなりかねない。「子どもを性暴力から守る」という制度の目的の理解を得て、保護者が積極的に認定マークのある事業者を選ぶような流れが作られていくかが重要となる。
また、現場の委縮についても懸念の声が上がる。制度を議論する専門家らの検討会では最後まで「現場が委縮しないような制度に」という声が上がった。特に「不適切な行為」は、どこまでが「不適切」なのかの線引きは難しい。過度に委縮しないように、事業者側でルールを作れるかが重要になる。制度は2026年12月から運用が始まる。
この記事の画像一覧
