
東京・世田谷で一家4人が殺害された事件から25年。いま遺族らが期待を寄せるのは、DNAを用いた新たな捜査手法です。その可能性と課題を取材しました。(12月27日OA「サタデーステーション」)
元捜査員「申し訳ない。悔しい」
報告・富樫知之ディレクター(26日 東京・世田谷区)
「事件があった住宅です。今もそのままの状態で残されています。フェンスの前には25年が経った今も、花や飲み物などが供えられています」
事件からまもなく25年。
現場で手を合わせていたのは当時、警視庁鑑識課で捜査に当たっていた土田猛さん。
元警視庁鑑識課 土田猛さん(78)
「まずはもう、申し訳ないという。解決に至らなかったという悔しさがある」
事件は21世紀を目前に控えた年末に起きました。
事件を伝えるニュース番組(2000年12月31日放送)
「東京・世田谷区の住宅で、子どもを含む一家4人とみられる男女が刃物で首などを切られて殺害されているのが見つかりました」
会社員の宮沢みきおさんと妻の泰子さん、当時8歳の長女・にいなさん、6歳の長男・礼くんの4人が刃物で刺されるなどして殺害されました。犯行は極めて残忍、かつ異常なものでした。犯人は浴室の窓から侵入。中2階にいた礼くんの首を絞めて殺害。次に1階にいた、みきおさんを持っていた刃物で刺し、ロフトにいた泰子さんと、にいなさんを殺害したとみられています。
元警視庁鑑識課 土田猛さん(78)
「痛ぶるような傷の付け方。今までにない殺人現場、そのことは強く感じました」
さらに、犯人はすぐ現場を離れず、なぜか家に居座り、家の中を物色。風呂の浴槽に書類をバラまいたほか、冷凍庫にあったアイスを食べたり、家にあったパソコンを操作していたことも分かっています。犯人の特徴は、身長170cm前後、やせ型の男性で、犯行時に手を負傷、現場に残された血痕から血液型はA型と特定されています。
遺族ら「DNAで犯人の似顔絵作成を」
警視庁は、これまでに延べ29万人もの捜査員を投入。現場には犯人の指紋や着ていた衣類、バッグなど、決定的な証拠が数多く残されていましたが、事件は未解決のままです。捜査はいま、どうなっているのでしょうか、現役の捜査員が取材に応じました。
警視庁捜査一課 特命捜査担当 鯨井由雅警視
「時間の経過とともに関係者の記憶が薄れていくこともあるかと思いますが、犯人に直結する資料がありますので、捜査線上に浮上した対象者に対する聴取を続けていくことが重要である」
時間とともに解決へのハードルが上がる中、今年、急展開を迎えた未解決事件がありました。1999年11月、名古屋市のアパートで当時32歳の高羽奈美子さんが殺害された事件で、10月、夫・悟さんの高校の同級生、安福久美子容疑者が逮捕。決め手は、現場に残された血痕のDNA型が容疑者と一致したことです。
事件解決のカギとなるDNA。宮沢さんの遺族が望んでいるのはDNA情報を活用した新たな捜査手法の導入です。今月13日、都内で開かれた集会で宮沢みきおさんの母・節子さんの手紙が代読されました。
宮沢みきおさんの母・節子さんの手紙(原文まま)
「先日、高羽さんの事件で犯人が逮捕されたという報道に触れ、長い時間を経ても真相に近づくことができるのだと改めて希望を感じました、海外ではDNAから犯人の似顔絵ができて捕まっているのだから、日本もそうなればいいなと思います」
「ゲノムモンタージュ」アメリカでは事件解決に貢献
アメリカでは、現場に残された犯人のDNAから顔の特徴を推定する技術が捜査に活用されています。それが「ゲノムモンタージュ」。
パラボンナノ社 エレン・グレイタク博士
「人の目の色や髪の色、肌の色、そばかすの数を予測し、顔の形については、顔の幅が広いのか、顔が長いのか、鼻の高さはどうかといった推定です。その人と非常に似た似顔絵が作成できます」
実際に事件の解決にも繋がっています。2008年9月、当時17歳の女子高校生が面識が男にシャベルで殴られ、重傷を負った事件。未解決のまま迎えた2016年。現場に残された犯人のDNA検体から似顔絵を作成。容疑者の絞り込みに繋がり、翌年に男は逮捕。懲役18年の有罪判決が下されました。ゲノムモンタージュで推定された顔と実際に逮捕された容疑者の写真を比べてみると、顔の形状や目元など、外見的な特徴を捉えているように思えます。
パラボンナノ社 エレン・グレイタク博士
「この男は色白で、明るい茶色い髪の毛、そばかすがなく、ヨーロッパ系とネイティブアメリカンの祖先が混在していました」
この研究機関は2015年から全米の捜査機関に協力。これまで200件以上の事件解決に貢献しました。2万人を超える民間のDNAデータベースを活用しているため、精度の高い顔を推定できているといいます。
DNA情報の活用拡大に“2つの壁”
しかし、日本でこうした技術を導入するためには大きく2つの壁があります。
1つは法的な問題です。警察庁によると、日本には現在、捜査におけるDNAの取り扱いに特化した法律はなく、現場に残されたDNA型と、容疑者のDNA型が一致するかどうか識別するためだけに使われています。一方で、ゲノムモンタージュの作成に必要なDNAの遺伝情報は、究極の個人情報とも言われ、捜査に活用するためには、法整備が不可欠だと指摘されています。
もう1つは、精度の問題です。
東海大学医学部 今西規教授
「(私の研究での精度は)まだ10%くらい。誤差がまだ大きくて、誤差を小さくしていくためにはデータの量を大幅に増やす必要があります」
より精度の高い顔を再現するには、膨大なDNAのデータベースが必要になりますが、今西教授の元にあるデータは300人ほど。データを増やすのは簡単ではないといいます。
東海大学医学部 今西規教授
「1人1人の被験者の方に同意書を書いていただいてデータを取らせていただいております。データは厳重に我々研究室の方で管理しておりますし、どなたのものか分からないように匿名化して研究に使っています。僕らが目標にしているのは、数千人から数万人なので、これをどうやって集めたらいいか、というのはちょっとまだですね」
事件で息子のみきおさんら4人を亡くした節子さん。命日の墓参りで”伝えた想い”。
宮沢みきおさんの母・節子さん
「解決できなくてごめんってお詫びをしています。教えてもらえるなら(犯人を)教えてほしいと、そればかり祈っています」
警視庁捜査一課 特命捜査担当 鯨井由雅警視
「この歳月の壁を必ずや打ち破るべく、さらに捜査を徹底していきたいと考えています」
■情報提供先
警視庁成城警察署 03-3482-0110
