【報ステ解説】「文明滅ぶ」から“攻撃停止”なぜ?今後は…米・イラン「もろい停戦」

【報ステ解説】「文明滅ぶ」から“攻撃停止”なぜ?今後は…米・イラン「もろい停戦」
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「1つの文明が滅びるだろう」などと、イランに強烈な言葉で屈服を求めていたトランプ大統領ですが一転、「攻撃を2週間停止する」と表明しました。イラン側も防衛作戦を停止するとしていて、10日に今後に向けた協議が行われる見通しです。ただ、焦点のホルムズ海峡の開放などをめぐって、どこまで一致できるか課題は多く、戦闘終結に持ち込めるかどうかは未知数です。

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バンス副大統領「もろい停戦」

10日からの直接交渉で、アメリカの代表団を率いるとみられているバンス副大統領。早速、イランへの批判を始めました。

アメリカ バンス副大統領
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アメリカ バンス副大統領
「イラン内部で好意的な反応を示し、正しい発言をした人がいる。一方で、我々の軍事的な成果をSNS上で偽る人がいる。合意や停戦の内容について嘘がある。“もろい停戦”と呼ぶ理由は、交渉の場で合意の良い面を見いだそうとする人がいて、“もろい停戦”について嘘を広める人がいる。これが12時間ほどしか経ってない“もろい停戦”の基盤だ」

この発言はいったい何を意味するのでしょうか。トランプ大統領が示した期限の約5時間前にさかのぼります。

パキスタン シャリフ首相
「中東で続く戦争の平和的解決に向けた外交努力は、着実かつ力強く進展しており、近い将来、実質的な成果をもたらす可能性を秘めている」

仲介に動いていたパキスタンから「成果」という言葉が飛び出しました。

CNN
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CNN
「パキスタンのシャリフ首相がトランプ大統領に対して、イランの橋や発電所への攻撃を2週間延期するよう要請。イランにも“善意の印”として2週間のホルムズ海峡開放を求め、2週間の停戦合意を守るよう両国に呼び掛けました」

そして期限の1時間半前、トランプ大統領は…。

アメリカ トランプ大統領のSNS
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アメリカ トランプ大統領のSNS
「イランがホルムズ海峡の完全かつ即時、安全な開放に同意することを条件として、私は2週間にわたりイランへの空爆と攻撃の一時停止に同意する。我々はイランから10項目の提案を受け取り、それが交渉の現実的な基盤になると考えている」

一方のイランは…。

イラン国営テレビ
「開戦以来、一貫して広場に繰り出した愛すべき国民の献身によって、この偉大な勝利がもたらされました」

10条件“大幅譲歩”を要求

10項目の停戦条件
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イラン側が提示した10項目の停戦条件。侵略を停止することのほか、イランがホルムズ海峡を継続的に管理することや、賠償金の支払いなどを求めました。また、核兵器の製造につながるウラン濃縮を容認することや、全ての制裁の解除なども求めていて、アメリカ側に大幅な譲歩を迫る内容です。

イラン アラグチ外相のX
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イラン アラグチ外相のX
「イランに対する攻撃が止まれば、わが国の強力な軍隊は防衛作戦を停止する。今後2週間、イラン軍と調整し、技術的な制約を熟慮のうえ、ホルムズ海峡の安全な航行を可能とする」

テヘランは「勝利宣言」にわきました。一方で…。

イラン市民
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イラン市民
「イランは交渉中に2回も攻撃された。今回の停戦もアメリカの立て直しが目的。アメリカの本性が変わるわけがない」

高市総理 イラン首脳と電話会談

世界を駆けめぐった停戦の知らせ。高市総理は8日夕方、イランのペゼシュキアン大統領と25分間の電話会談を行いました。高市総理がイランの首脳と会談するのは、攻撃が始まってから初めてです。

高市総理大臣
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高市総理大臣
「今般の米国・イラン双方の発表を前向きな動きとして歓迎している。外交を通じて最終的な合意に早期に至ることを期待している旨お伝えした」

国連 グテーレス事務総長
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エジプト外務省は「この重要な好機を逃してはならない」と指摘しました。国連のグテーレス事務総長は「民間人の生命を守り、人々の苦しみを軽減するためには、敵対行為の終結が喫緊の課題である」と強調しました。

フランス マクロン大統領
「地域の安定に必要な安全保障は、交渉によってのみ確約されます。だから、この停戦発表は朗報です」

交渉の“裏側”中国が関与か

トランプ大統領
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期限直前にこぎつけた停戦。合意の裏側では、どんな動きがあったのでしょうか。仲介役のパキスタンはぎりぎりまでアメリカとイラン、そして関係国との調整を続けていました。また、トランプ大統領は「中国がイランを交渉の席につかせ、停戦に導いたと考えている」と答えています。

その中国政府は…。

中国外務省 毛寧報道局長
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中国外務省 毛寧報道局長
「イランでの戦闘後、中国は一貫して停戦の実現に向けて取り組んできた。王毅外相は関係各国の外相と合計26回の電話会談を行い、中東および湾岸地域を奔走してあっせん外交をした」

報道官のSNS
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こう発言した報道官のSNSには、電話会談した26カ国の国旗が投稿されています。さらに、Axiosによると、イラン側の最終決定は、殺害されたハメネイ師の後継者で、空爆に巻き込まれたとされるモジタバ師が下したといいます。

Axios
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Axios
「新しい最高指導者の関与は必然的に秘密裏に行われ、多大な労力を要した。イスラエルによる暗殺の脅威に直面しているモジタバ師は、主に伝令がメモを渡すことで連絡を取り合っていた」

核濃縮“容認”認識にずれ

バンス副大統領
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アメリカとイランが交渉のテーブルにつくということだけは確かのようです。ただ、すでに齟齬(そご)が出てきています。バンス副大統領は、イラン側の合意内容に「嘘」があり「もろい停戦だ」と説明しています。

その嘘はどこにあるのか。指摘されているのは核濃縮について。イランは、アメリカが核濃縮を容認したと主張しています。そもそもトランプ大統領は、イランが核兵器を保有する危険が目前に迫っているとして軍事作戦を始めました。

アメリカ トランプ大統領
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アメリカ トランプ大統領
「問題は入手から1時間後か1日後かだけで、やつらはイスラエルだけでなく、中東全土を核で吹き飛ばす気だ」

その核兵器の保有につながりかねないウラン濃縮について、トランプ大統領はSNSで「濃縮は行われない」と否定しました。

ホルムズ海峡 通航料徴収か

そして、ホルムズ海峡は。

CNN ザカリア氏
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CNN ザカリア氏
「この戦争は、イランに核兵器よりもはるかに実用的な武器を与えました。海峡封鎖で石油供給を遮断すれば、世界経済は大混乱に陥ります」

AP通信は、停戦計画の中には「ホルムズ海峡を通過する船舶に対し、イランとオマーンの両国が“通航料”を徴収することを認める内容が含まれている」とも報じています。

トランプ大統領は、停戦後に更新したSNSで…。

トランプ大統領のSNS
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トランプ大統領のSNS
「アメリカ合衆国はホルムズ海峡での渋滞緩和を支援する予定だ。多くの前向きな動きが見られるだろう!巨額の利益が生まれるはずだ。中東の黄金時代となるかもしれない!!!」

これが通航料の容認か、それともアメリカ軍がホルムズ海峡を守るということなのか、詳しいことは分かっていません。

レバノンへの攻撃は継続

そしてもう1つ。イラン側は停戦の地域について、親イランの民兵組織ヒズボラがいるレバノンも入ると強調しましたが、イスラエルは「受け入れられない」と拒否しています。

イスラエル首相府
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イスラエル首相府
「イスラエルは、トランプ大統領による対イラン攻撃の2週間停止という決定を支持する。なお2週間の停戦にレバノンは含まれない」

実際に停戦後、レバノンへの攻撃が確認されていて、イスラエル軍は「戦争開始以来、最大規模の攻撃を実施した」と発表しました。革命防衛隊は「レバノンへの攻撃が続いているため、10日の交渉をやめる可能性を真剣に考えざるを得ない」と投稿しました。

多くの火種がくすぶる中、10日にはパキスタンのイスラマバードで、アメリカとイランの直接協議が始まります。

緊迫から一転“攻撃停止”なぜ

ワシントン支局の梶川幸司支局長に聞きます。

梶川幸司支局長
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(Q.アメリカとイランとの“一時停戦”について、現地ではどう受け止められていますか)

梶川幸司支局長
「ヘグセス国防長官が記者会見に臨み、『トランプ大統領は、イランを数分で崩壊させる力があったが、イランが停戦を懇願してきたので、慈悲を選んだ』と主張し、アメリカ軍は『歴史的な大勝利を収めた』と強調しました。しかし、戦いの実態を見れば、かつては“無条件降伏”を要求していたはずのトランプ大統領が、ホルムズ海峡での主導権を奪われ、追い込まれていたとも言えます。また、『イランの文明を丸ごと消滅させる』とSNSに投稿したことは大きな波紋を広げていました。ジェノサイド(集団虐殺)にあたるのではないかとの指摘もあり、与党・共和党からも『常軌を逸している』と強い懸念が示されていました。アメリカメディアからは一時停戦について『戦いの目的が次々と変わって、最後はメンツを守ることだけが目的となってしまった』『戦いを引き起こした根本的な問題は何1つ解決されていない』と厳しい指摘が相次いでいます」

トランプ大統領
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(Q.今後の協議はどう進むとみられていますか)

梶川幸司支局長
「トランプ大統領はSNSでの投稿で、イランはウラン濃縮を行わず、核施設の地下深くにあるとみられる高濃縮ウランをアメリカが回収するとした一方で、経済制裁の緩和を協議するとしています。また、イランに武器を輸出する国に対して、直ちに50%の関税を課すと警告しました。アメリカ代表団を率いてイラン側と交渉することになるバンス副大統領も、今回の2週間の停戦は“もろい合意”と指摘し、軍事力を行使する選択肢は残されていると牽制しました。トランプ政権としては、硬軟両様の構えで交渉に臨もうとしている訳ですが、核問題はそもそもの主張の隔たりが大きく、ホルムズ海峡でイランの要求をどこまで受け入れるのか、早くも交渉の先行きを懸念する声が出ています」

攻撃から一転 双方の思惑は

イラン情勢の専門家、慶應義塾大学・田中浩一郎教授と、アメリカの安全保障政策に詳しい、明海大学・小谷哲男教授に聞きます。

明海大学 小谷哲男教授
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(Q.大規模攻撃を警告し続けてきたトランプ大統領ですが、「ホルムズ海峡の開放に応じるなら」という条件付きで2週間の停戦に同意をしました。どう受け止めていますか)

明海大学 小谷哲男教授
「トランプ大統領は攻撃に踏み切ると私はみていました。間違いなく本気だったと思いますし、軍も攻撃態勢を整えていました。唯一、これを避ける方法があるとすれば、イラン側が折れることでしたが、トランプ大統領の本気度をイランも感じ取ったからこそ、今回2週間の停戦につながったと思います。トランプ大統領の『イランを石器時代に戻す』あるいは『文明を崩壊させる』といった言葉がブラフではないことがイランに伝わったのが大きかったんだと思います」

慶應義塾大学 田中浩一郎教授
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慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「私も攻撃が行われると思っていました。特にイラン国内で大きな攻撃が実際にあったので、そのまま刻限を迎えてもインフラ設備の破壊が継続するだろうと。急転直下、そこが止まったなと思っています。ただ、これはむしろトランプ大統領にとってかなり有利というか、ためになるような停戦の呼び掛け、あるいは引き受けだったと思います。何でかというと、発表によって石油価格がぐんと下がった。それから2週間というのは本当にもつか分からないですが、一定の時間、アメリカ軍とイスラエル軍が補給をすることが可能になる時間にもなる。それから、部隊の増派が行われている中で、原子力空母も含めて、現場に到着するまでの時間稼ぎと、その態勢を整えるためのタイミングも図れる。イラン側は逆に余り急ぐ理由はなかったと私はみています」

停戦協議の条件 イランが譲歩?

アメリカとイランの停戦協議は、どういう条件のもとで話し合われるのでしょうか。

イランの革命防衛隊に近いタスニム通信が報じているのが10項目の停戦案の条件です。

10項目の停戦案の条件
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(1)侵略の停止
(2)ホルムズ海峡の継続的な管理
(3)ウラン濃縮の容認
(4)1次制裁の解除
(5)2次制裁の解除
(6)国連安保理決議の終了
(7)IAEA理事会決議の終了
(8)賠償金の支払い
(9)中東地域からのアメリカ軍戦闘部隊の撤退
(10)レバノン含む全戦線の戦闘終結

すでに色々な齟齬が生じていて、トランプ大統領はSNSで「ウラン濃縮は行われない」と発言しています。

(Q.アメリカはイランが報じている条件をそのままのんだ訳ではないようですね)

明海大学 小谷哲男教授
「示された10項目については、私がトランプ政権関係者から聞いている範囲では、最初にイラン側が示したものであって、即座にトランプ政権が拒否したと。その後、1日かけて、パキスタンも絡む形で修正されたものが出てきたので、それを見てトランプ政権が停戦に応じたということのようです」

(Q.10項目から、どういったところが修正されたのでしょうか)

明海大学 小谷哲男教授
「私の理解では、ウランの濃縮に関しては削除されましたし、それから賠償金の支払いも削除された。それから中東地域からのアメリカ軍の撤退も削除されたので、特にバンス副大統領が“これは前向きなシグナルだ”ということで、トランプ大統領を説得して停戦の方向に進んだと言われています。これは多分オリジナルのものであって、実際のものとは違う可能性が高いと思います」

(Q.イランが大幅に譲歩する形で、とりあえずの停戦合意に至ったという形ですか)

明海大学 小谷哲男教授
「少なくともアメリカはそう理解していると思います」

(Q.イランの動きを見て、譲歩した節は伺えますか)

慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「私が見たのもちょっとバージョンが違うので、その点では何が本当なのか、真正のものなのか微妙に分からないです。しかしながら、私が見たところでも賠償金と部隊撤退の話は落ちていました。この辺のところは他のことで代替可能と、あるいは無理を言ってもしようがないと折れているのかなという感じはします」

(Q.ウラン濃縮についてもイランは受け入れた可能性がありますか)

慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「どういう文言なのかが分からないんですが、少なくとも2月26日のジュネーブでの最後の協議の時にも、イランは7年間ウラン濃縮をしないとか、濃縮したウランを全部国外に運び出すとか、ほとんど兵器化ができないようなところまで、ありとあらゆる手を示していたので、ウラン濃縮へのこだわりは、実は今、少し下がっています。何で下がっているのかというと、より重要なカードを手にしたからで、それがホルムズ海峡です」

(Q.バンス副大統領が『イラン側には、話し合いに応じている人たちもいるが、嘘をついている人もいる』と牽制球を投げていました。これは何を指していると考えますか)

明海大学 小谷哲男教授
「これまでもイランが表向きに言っていることと、水面下でやり取りしていることに、かなり開きがあったというのがアメリカ側の不信を招いていました。今回、停戦に合意した後も、10項目のオリジナルのものがイラン側からどんどん拡散されています。ですから、どこまでイランが本気で停戦を続けるつもりがあるのか、実際に対面で会ってみないとイランの本音が分からないと。もしかすると本気ではない可能性もあるし、イランの実権を握っている人が関与していない可能性もあるので、そこを“停戦がもろいもの”であると表現したと思います。まさに対面での協議の中でイランの本気度を試していくことになると思います」

(Q.実権を誰が握っているのか不透明で、誰と話したらいいのか分からないという声がよくありますが、どうですか)

慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「もちろん意見の相違はあります。軍事を見ている人たちと、外交や政治を見ている人たちの間に、優先順位が変わってきますので。ただ、今は国家の非常事態ですし、戦時下にあって軍部が実質的に実権を握っている状態にありますので、ここで出てきた提案が真正のものであるかどうかは別にして、提出されたものは、これは軍が同意しているという話です」

ホルムズ海峡
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(Q.ホルムズ海峡をどうするかが意味合いを増しているように思いますが)

慶應義塾大学 田中浩一郎教授
「我々にとって一番の関心は、むしろそちらの方に移っています。イランにしても、今後の抑止力も含めて、このような攻撃がまた3度起きないようにするためのことを考えても、ホルムズ海峡の主権を認めてもらうというのは、オマーンと共同ですが、この2カ国で共同管理するというところに歩を踏み出して、これさえ押さえておけば、また何かやられそうになった時には、確実に押さえられると考えていると思います」

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