
「地域のピンチ」を新しい価値に変えている移住者たちがいます。畑を荒らすシカは、町の名産ジビエに。捨てられていた特産のゆずは、薫り高いアロマに。移住者たちの挑戦を追いました。
【画像】見捨てられた森を復活!サウナ、子ども用の椅子、遊具に
害獣駆除のシカが特産品に
秩父の人気レストランのシェフが料理するのは鹿肉です。
紀真耶アナウンサー
「鹿肉、いただきます。お肉の旨味がしっかり感じられるんですけれど、臭みは全くなく」
クチーナ サルヴェ
坪内浩シェフ
「一番の魅力というところは、わな罠で獲れたものを1頭1頭丁寧に止め刺ししていることで鮮度、特に生臭さとか血生臭さとかが全くない。鹿肉と言われなければ、これ何の肉だろうって思うぐらい、使いやすいお肉」
まさに最高級品と言える味わいのこの肉は、埼玉県横瀬町で田畑を荒らし、害獣駆除された鹿なんです。
今、町の特産品として注目されているこの鹿肉の仕掛け人は、東京からの移住者で、東京・世田谷区と横瀬町で二拠点生活を送る株式会社カリラボ・吉田隼介さんです。
まずはおいしい肉の肝となる、わなを見せてもらういました。
吉田さん
「これが鹿とか猪を捕獲するくくり罠という罠ですね。この踏み板というものを踏んで、ワイヤが足にかかる」
紀アナ
「輪っかの中に足が入って出られない」
吉田さん
「逃げられなくなる」
紀アナ
「生きた状態で入っている?」
吉田さん
「そうです」
罠を使って捕獲し、丁寧に血抜きをしていることが、肉の味に影響すると言われています。狩猟が趣味の吉田さんは、地域の猟師たちと関わり、被害の現状を知りました。
紀アナ
「害獣被害はこの辺りではどうなんですか?」
吉田さん
「多いです。高齢の方が畑とかやっていて、農家の畑で作物が(害獣に)食べられてしまうので、畑をやめてしまう」
「猟師の方も(わなを)掛けて捕れた後が結構大変で、食べずに捨ててしまう。ちゃんとしたお肉にして、流通させたいと言う方が多い」
横瀬町ではいろんな方法で鹿の捕獲が行われています。ところが、捕獲された鹿の活用が十分に進んでいないのが課題でした。
駆除した鹿を無駄にせず有効に使いたい。地元猟師との思いが合致した吉田さんは、わなで捕獲した鹿を食用肉にする解体場を作りました。その鹿肉をインターネット上で販売。また、ふるさと納税の返礼品にするなどしました。
吉田さん
「これが鹿のシンタマで、これは外モモですね」
紀アナ
「大きいですね」
吉田さん
「我々が解体場を作ってからは、一番多い時で年間130頭ぐらいを精肉しました。(捕獲した後は)我々が対応できるので、猟師とお互いにいい関係かなと」
害獣を減らす行動で町の特産品を作り出す。取り組みは順調に見えますが…。
吉田さん
「実は初年度が一番多かったんですね。多分捕獲が進んだっていう成果があるんでしょうけど、少し捕獲量が減っていて」
紀アナ
「前の捕獲がうまくいってるからそんなに増えすぎていない?」
吉田さん
「おそらくそうなんじゃないかなと」
紀アナ
「難しいですね」
吉田さん
「でも全体、地域で言うといいことではあるので」
規格外がアロマオイルに
次は横瀬町の高齢化と農業、2つの問題にチャンスを見出した移住者です。
秩父の山間にある自然豊かな町の人口は、約7500人です。そのうちの3割、約2700人は65歳以上の高齢者なんです。町が直面する高齢化問題、そしてある農業問題に一筋の光をさすのが、移住者が作ったアロマオイルです。原料となるのは何なのでしょうか。
紀アナ
「すごくいい香りですね。これ毎回手作業なんですか?」
秩父アロマラボ 渡邊芳さん
「すべて手作業になります」
秩父周辺は、“日本で最も古いゆずの産地”とも言われる特産地です。大量に生産される反面、廃棄される量も多いんです。
紀アナ
「アロマはどういったものを活用しているんですか?」
渡邊芳さん
「傷がついてしまって規格外、 売れないで捨ててしまおうというものを再利用できないか、活用できないかって考えたのがきっかけです」
そう話すのは、去年さいたま市から移住してきた渡邉さん夫妻です。夫の賢志さんが横瀬町の雰囲気を気に入って移住しました。それを機に妻・芳さんがアロマセラピーインストラクターの資格を取得し、事業をスタートしました。
紀アナ
「なんで、傷んだゆずを使おうって思ったんですか?」
秩父アロマラボ 渡邊賢志さん
「きれいなゆずも、くたびれたゆずも香りは同じなので」
傷んだものや規格外のゆずは収穫されず、放置されます。とはいえ、そのままにしておくと問題があるようです。
芳さん
「使わないと猿とか鳥とかが寄ってきて(ゆずを)食べてしまう、畑も荒らしてしまうので。なるべく採れる果実なんかは取ってしまいたいということらしいんですね」
しかし、この回収の作業が高齢の農家には大変な労力だったんです。
賢志さん
「皆さん、無理して取られていたんですけど、代わりに僕らが取るので(捨てるゆずを)それを下さいと」
紀アナ
「自分達でやるから、それを持って帰っていいですかと」
渡邊賢志さん
「お金を払う代わりに体を使っているということですよね」
紀アナ
「そういうことですね。そうじゃないとその農家の方が、自分で取らなきゃいけなかったということですね」
労働力を対価に、地域の人たちのご厚意でゆずをわけてもらい、農業問題も解決できちゃう一挙三徳だったのですが、ビジネスにして成功させるのはなかなか大変だといいます。
芳さん
「10キロの皮に対して出るのが30から40ミリぐらい、多くても50ミリぐらいです」
紀アナ
「これしか出ないんですか」
芳さん
「たくさん木に実る時もあれば全然実らない年もあるので、その年は数量限定しています」
元々少量しか取れないオイル。さらにご厚意で提供してもらうので、収穫量に左右されやすいのが悩みどころのようです。
荒れた森を再生へ
横瀬町といえば武甲山などの山がシンボルです。実はその山の森が今、ピンチなんです。見捨てられた森を復活させる、そんな夢を追いかける移住者です。
紀アナ
「おー、動いてる!」
大きな板を機械でくり抜くようにカットします。それぞれの切り込みを合わせていき、組み立てていくと、釘や接着剤などを一切使わない物置小屋が完成します。
そんな木材加工のプロフェッショナルが、7年前に移住してきたTIS株式会社・伊藤淳さんです。横瀬町で町の人々が使っているコワーキングスペースや、サウナ、子ども用の椅子、遊具などをなんでも木で作っちゃいます。
紀アナ
「なんでこの事業を始めようと思われたんですか?」
伊藤さん
「周りにいっぱいスギとヒノキの針葉樹が生えているんですけど、管理されていなくて、下にも草が生えない状態で、どんどん森が不健康な状態になっている。町の木をどんどん活用していって、木を植え替えて新しい森を生まれ変わらせていく、そういうことをやりたいと思いここに勤めています」
登山やハイキングが趣味の伊藤さんは、横瀬町の山々を巡っている時にこの森の状況を知りました。自動車メーカーのエンジニアから、一念発起しIT企業に転職しました。
技術職を生かし、森の再生プロジェクトをスタートしました。ITを活用して、設計図を作れば横瀬町の木でいろんなものがオーダーメイドできるんです。
紀アナ
「森は管理しないとダメになってしまうんですか?」
伊藤さん
「そうですね、間伐をして光を通すのも大事です。どんどん森が暗くなってしまっていって植物も育たなくなる。森の循環活用。森林資源を活用して価値にしてお金にしながら、森を生まれ変わらせていく。そういう循環を作ることが大事」
今はまだ夢の第一段階です。傷んだ木を有効に活用、消費するために、合板にして様々なものを作ります。その後、新たに苗木を植えて、健康な木で育てて森を復活させるんです。
伊藤さん
「地域の木を自分たちで使うという活動が広まることによって、日本中が木の価値を見直すことができるんじゃないかと」
紀アナ
「これだったらいろんなところでできますもんね。同じような課題を抱えている場所があれば。いろんな地域の木が活用できて広がっていくということですね」
伊藤さん
「そこを目指しています!」
(2026年3月31日放送分より)
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