
巨大クレーンに取り付けられた400トンの重りが転落した原因は何か。
神奈川県川崎市で、解体中の大型クレーンから作業員5人が転落して3人が死亡、1人が負傷し、1人が行方不明となっている事故は、21日で発生から2週間が経過する。
(テレビ朝日 社会部 加藤聖也)
■400トン落下の衝撃
事故は4月7日午後4時すぎ、川崎区扇島にある「JFEスチール東日本製鉄所」で、船から鉄鉱石などを積み下ろしするアンローダークレーン(高さ54メートル、長さ104メートル、幅30メートル)と呼ばれる大型クレーンの解体工事中に発生した。
設備の一部であるおよそ400トン、直径6メートル、長さ9メートルの円柱状の重り(バランシングウエイト)が、およそ35メートル落下し、床面の鉄板を突き破り海に転落したとみられる。
事故直後のヘリから撮影した映像には、鉄板に大きな穴が空き、何本もの鉄筋が海面に向かって折れ曲がる様子が映し出された。
この事故により、男性作業員3人が死亡、1人が負傷し、依然として1人の行方が分かっていない。
5人は重りの取り外しに向け、内部に詰まったコンクリートを重機で砕いて軽量化する作業の最中だった。
重りは解体前の500トンから約400トンまで作業が進み、1人は約10トンの重機、4人が粉砕されたコンクリート片の回収などをしていた。
この解体工事は、土地利用転換のためにJFEスチールが発注し、東亜建設工業が元請けとして施工していた。
■3人死亡「責任感のある弟だった」
警察が亡くなった3人の司法解剖を行った結果、死因はいずれも外部からの強い衝撃によるものと判明した。
千葉ケン志朗さん(19)は全身打撲による外傷性ショック、小池湧さん(29)は頭蓋骨骨折に伴う出血、上山勝己さん(43)は脳幹部損傷であった。
千葉ケン志朗さん(19)が通っていた高校の担任は、千葉さんを「一番明るい生徒」と振り返り、「野球が大好きな生徒だった」と取材に応じた。
千葉さんの元担任
「行事でも清掃でも、真っ先に声を上げてクラスメイトを動かしてくれる欠かせない存在だった」
「就職後も野球と両立した生活を送りたいと話し、それが卒業後に叶ったと聞いていた。まだ信じられない。間違いであってほしい」
亡くなった小池湧さん(29)の遺族も、悔しさと悲しみをにじませる。
小池さんの兄は、「(湧さんは)優しい。気は優しくて力持ちというタイプだった」と語る。
毎日午前4時半に起き、工事現場に向かっていた小池さんに対し、兄は以前から仕事の危険性を案じていた。
小池さんの兄
「『仕事をやめろ、危なすぎる』と伝えていたが、弟は『やっている以上は頑張る』と答えていた。会社には怒りしかない」
小池さんの母親が最後に会ったのは事故当日の朝だった。毎朝お弁当を作り、作業服を整えていた。
小池さんの母親
「『行ってらっしゃい、気をつけて』というのがこの半年間の日常の会話だった。遺体を見て言葉にならない」
■重り落下のリスク想定せず
事故から1週間が経過した14日、JFEスチールと元請けの東亜建設工業が初めて会見を開いた。
幹部ら6人が出席し、「被害に遭われた方々とご家族、多くの方々に心配と迷惑をおかけしていることを重く受け止め、おわび申し上げる」と謝罪した。
会見では、今回の解体において初めて採用された工法が注目された。当初は海上から船でクレーン全体を撤去する方法を検討したが、安定性の確保や油流出のリスクから断念。東亜建設工業の下請け会社から提案された「重機を重りに乗せ、コンクリートを上から削り取る工法」が採用された。
東亜建設工業は、「確実性や安全性を判断し、最善だと考えた」としている。
また、「重りは保持される」という前提で計画を立てていたため、重りそのものが落下するリスクは想定していなかったという。
崩落防止用の足場(支保工)は設置されていたものの、結果として落下の阻止には至らず、足場は崩壊した。
■管理・監督者不在の中での事故
高所作業における安全対策として、ヘルメットやフルハーネスの着用が定められ、作業場所には転落防止柵が設置されていた。
しかし、重り上の柵内部では「高所作業車から乗り移る際のみハーネスを使用し、柵内では基本的に使用しない」運用だったことが判明した。事故発生時に作業員がハーネスを装着していたかは不明である。
当時は川崎市に強風注意報が出され、風速10メートルが観測されていた。
現場の作業中止基準は「10分間の平均風速が10メートル以上」とされていたが、事故当時の数値は基準を下回っていたとして、風による作業中止の対象には該当しなかったと会社側は説明している。
さらに、事故発生時に現場代理人が事務作業中で、監理技術者は外出しているなど、現場を管理・監督する社員が不在だったことも明らかになった。
■捜査と行方不明者の捜索
神奈川県警は14日、業務上過失致死容疑で東亜建設工業の横浜支店および下請け会社の「ベステラ」を家宅捜索した。
押収した資料を基に、安全対策や管理体制に問題がなかったか捜査を進めている。
事故から2週間が経つが、依然として1人の行方が分かっていない。
水深10mの海底には落下した400トンの重りや足場などのがれきが重なり、海水の濁りも激しいため、水中ドローンによる捜索も難航している。現在はサルベージ船を投入し、がれきの撤去と並行して懸命の捜索作業が続いている。
