
いま各地で計画されているイスラム教の礼拝堂「モスク」の建設をめぐる議論。“モスクが足りない”と訴えるイスラム教徒がいる一方、周辺住民からは、騒音や渋滞への懸念も。取材から見えてきた「共生の課題」とは…(4月26日OA「サタデーステーション」)
各地で大混雑…国内で急増するイスラム教徒
3月21日、午前7時前。神奈川県海老名市の河川敷には、続々と人が集まってきました。すぐ近くの、屋根のない広大なスペースに敷かれたマットの上に、次々と靴を脱いで座っていきます。その後、マットの上が人で埋まると、始まったのは礼拝でした。
スリランカ出身の参加者(日本在住4年)
「きょうは1年で1番大きいお祭りだから。(箱根から)2時間くらいかかりました」
イスラム教徒が大勢集まるような祭りは年に2回ありますが、この日は、そのうちの1つ、断食明けを祝う日でした。礼拝は2回に分けて行われ、合わせておよそ1000人が参加。実はこの場所は、普段礼拝を行う「モスク」の隣にある駐車場。人が多すぎてモスクに入りきらないための措置だと言います。
海老沢モスク 担当者
「多分30~40%は初めて(来た人)」
早稲田大学の店田廣文名誉教授によると、日本のイスラム教徒の人口は、およそ42万人。4年で1.8倍ほどまで増えたと推計されています。この急増による“モスク不足”が、全国で相次いでいるのです。同じ日、大阪市西成区にあるモスクでも…
撮影者
「点字ブロックの中にみなさん、おさまるようにしていただいています」
5千人の予約枠におよそ8千人が集まったといいます。撮影したのは、イスラム教徒との共生のための法整備を訴えている、穂積さんです。
日本国憲法下でのイスラム教対応を考える会 穂積茂行さん
「SNSでは(イスラム教徒に対し)過激なことを言っている。イスラム教全体を叩いてしまう。しっかり法的なことを整備して、まず話し合いましょうというスタンス」
モスク新設計画 7割近くが「反対」
先ほどの「海老名モスク」では、毎週金曜日の礼拝に来る人も増えているといい、取材した金曜日には、雨が降る中、外で礼拝を行なっていました。そこで、この海老名モスクからおよそ10キロ離れた藤沢市で進められているのが、新たに「藤沢モスク」を建てる計画です。利用者の分散によって、海老名モスクの混雑を緩和する狙いですが、現在、工事が大幅に遅れていました。その理由が住民による反対です。
周辺住民
「もっと田舎に、山の中に作るとかすればいいのよ」
「騒音とか渋滞、その辺の問題がどれくらい実際になるか、ちょっと心配」
サタデーステーションが周辺住民55人に聞いたところ、7割近くが反対でした。藤沢モスクの建設を進めるメンバーの1人、ハミードさんに建設予定地を案内してもらうと…
藤沢マスジド ハミードさん
「これはゴミ。誰だか知らないですけど」
建設予定地に大量のゴミを不法投棄される被害に遭っていました。さらに…
藤沢マスジド ハミードさん
「この辺り、豚のフンが置いてあった。10~15キロぐらいあったと思う」
周辺住民の不安にモスク側の回答は
これまでに住民説明会を3回開催しましたが、「説明会をもっと早くやってほしかった」との意見も出て、紛糾する場面もあったといいます。ハミードさんたちは多くの誤解を解くべく、28ページにわたる文書を公開。
例えば、モスク周辺に土葬用の墓地を作るのではないか、という指摘については…
藤沢マスジドの公開文書
「土葬墓地を建設する計画は一切ありません」
モスク内に、亡くなった方を水で洗い清める設備も作られることについては…
藤沢マスジドの公開文書
「日本の葬儀文化における『湯灌(ゆかん)』や、病院で行われる『エンゼルケア』に相当するものとお考えください。(中略)病院、葬儀会館、自宅、寺院から排出される排水と同様に、一般の生活排水として公共下水道に接続し処理することが法的に認められています」
難民が押し寄せたヨーロッパのようになる、という指摘については…
藤沢マスジドの公開文書
「すでに地域に暮らしている約270名のムスリムのための礼拝施設であり、難民の大量受け入れとは状況が全く異なります」
乗用車やトラックを販売する会社を経営し、日本の業者ともやりとりが多い、ハミードさん。スリランカから日本に来て19年。被災地でボランティア活動をすることもあるといいます。
藤沢マスジド ハミードさん
「私は良いことをやりたい、日本に。(モスクは)無理やり建てるんじゃなくて、ちゃんとみんな分かるようにしてから、 一緒に組み立てていきたい気持ち」
市役所に抗議が殺到 通常業務に支障も
この藤沢モスク計画をめぐっては、自治体にも批判の矛先が向けられています。藤沢市は、都市計画法の基準に適合していることから、モスクの建設許可を出しましたが、問い合わせや抗議が殺到。電話やメールは、合わせて3000件に上り、担当部署では、通常業務が全くできない日が続いたといいます。
藤沢市役所 担当者
「特定の人種や宗教に対する“偏見”が強いような意見が多かった」
藤沢市は見解を公表。今後も住民から説明を求められた場合は、住民とモスク側の仲介役を果たす予定だといいます。
日本最古のモスクに“共生のヒント”「日本語での正しい情報発信」
一方で、長年、地域と共生してきたモスクもあります。マンションが立ち並ぶ街並みの中に見えてきたのは、1935年に建てられた日本最古のモスク「神戸ムスリムモスク」。12年前にイスラム教に入信し、このモスクで日本人初の指導者となった藤谷さんは…
神戸ムスリムモスク 指導者 藤谷勇介さん
「一番神戸モスクとして力を入れているのが、一般の方に対して見学を常に開放している」
このモスクには、1年でおよそ5千人の見学者が訪れ、イスラム文化発信の拠点にもなっているといいます。通りがかりに、ふとモスクに立ち寄った親子は、大阪・関西万博に通ったことで、異文化を身近に感じるようになったといいます。
モスクの見学に来た親子
母「日本人が気軽に説明してくれるのはすごくありがたかった」
子「万博もそういうのだったから」
神戸ムスリムモスク 指導者 藤谷勇介さん
「日本語での正しい情報の発信が一番の要。日本人の日本語話者のイスラム教徒を各モスク一人置いたほうが、近隣の方たちとか行政の方たちと、難しい用語とか含んだ時の会話に対して、きっちり対応できる」
周辺住民への配慮で、礼拝の呼びかけをするためのスピーカーも塔の内部に設置。混雑が予想される祭りの3日ほど前には、チラシを配っているといいます。この神戸ムスリムモスクが建てられてから、日本では、大都市を中心にモスクが増えていきました。2005年には31か所でしたが、その後20年で5倍以上に増え、現在は164か所となっています。(2025年7月時点/店田廣文「日本のムスリム人口2025年」より)
日本のルール・マナーをどう周知?「迷惑かけてお祈りしても意味がない」
1998年に建てられた海老名モスクには、日本ならではの貼り紙もありました。
海老沢モスク
「本当はモスクと関係ないんだけど、日本の交通ルールとか日本のルールをしっかり守ってください、そういうことが書いてある」
モスクに通うことで、来日したばかりのイスラム教徒でも、日本のルールを短期間で知ることができるといいます。
日本在住18年 スリランカ出身
「最初に言われるのがマナー。まずは他人に迷惑をかけないこと。これからも増えていくと(モスク周辺は)迷惑になると思うので、ちょっとばらけた方がいい」
海老沢モスク 担当者
「もちろん私たちも迷惑かけたくない。他の人に迷惑かけながらお祈りしても意味がない」
近くに住む人は…
海老名モスク 周辺住民
「(モスクは)近いですね。でもみんな優しいんで、特にうるさいとかもない」
モスク周辺の渋滞・混雑どうする?各地で課題に
一方で、番組が周辺住民21人に聞いたところ、影響があると答えた人も、5人いました。
海老名モスク 周辺住民
「モスクがあるところの渋滞、入ってきたり、出たりしている」
海老名モスクで問題となっていたのが、祭りや金曜礼拝の時の渋滞です。モスク側は交通誘導も行うなどの対応を取っています。
海老沢モスク 担当者
「モスクと関係ない車が来たら、優先するために(礼拝者の車を)ストップする」
駐車場は市に許可を取って確保しているものの、おのずと渋滞は発生。この混雑を分散させる一手として計画されたのが「藤沢モスク」ですが、藤沢市の住民は、片道一車線の県道に面していることを懸念していました。
藤沢モスクの周辺住民
「これだけの狭い道に何百台来たら、絶対もう無理ですけどね」
そこで藤沢モスク側は、専門業者に交通調査を依頼。およそ150台分ある駐車場の利用を50台程度まで制限し、渋滞を発生させやすい右折での出入りを禁止することを決めました。
モスク建設めぐり「仲介役」がカギに 急増するイスラム教徒と“共生”は?
今後も各地で表面化する可能性がある、“モスク建設をめぐる問題”。専門家が必要性を説くのは、住民とモスク側をつなぐ「仲介役」です。
イスラム文化に詳しい 同志社大学大学院 内藤正典教授
「(仲介役は)イスラムのことを知っていて、偏見は無くて、それで両者の不安と主張をうまくコーディネートできる人、ちゃんとトレー二ングを受けた人がやるべき。子どものことをすごく大事にしてくれるし、それってイスラム圏に駐在したり旅行したりした人はすぐ分かる。年寄りに対して非常に優しいとか。なかなかそのチャンスは日本にいると無い」
内藤教授によると、日本人がイスラム教を知る大きなきっかけとなったのは、2001年9月11日にイスラム過激派のテロ組織が起こした、アメリカ同時多発テロ事件。
イスラム文化に詳しい 同志社大学 内藤正典教授
「残念ながらそういう事件や戦争や内戦のニュースとして伝わってきた日本には、(イスラム教の)最も過激で暴力的なところのイメージしか入ってこない。いきなりパブリックなモスクという空間を造ろうとするのは、日本人にはまだハードルが高すぎるということをイスラム教徒の人は理解すべき。日本側も(イスラム教への)誤解を防ぐことと、日本側のルールはこうなんだと毅然と伝えること。両方が必要」
